Hetsukawa Shrine

 私は実子様と龍野先輩と学校を出て町のお社に向かって歩いていた。

 町のお社は校門を出た後川を渡り飛び地になっている学校の大きなグラウンドの横を通って暫く歩くと辿り着く学校からほど近い場所である。


「私、町のお社って実家からも下宿先からも距離が微妙で山のお社と大差ないくらいしか行ったこと無いんですよね」


 山のお社に行く頻度の方が高いと私は実子様に話を求められそんな事を口にしていた。


「忍ちゃんならそうなるか、まぁ若葉も常盤と一緒に山の社までお参りに来てるしね……」


「確か、今の生徒会長が町のお社を運営している姫川家の長男でしたっけ?」


「三年の首席の姫川輝久会長、実家は此処だね」


 実子様がここだねと言う少し前に、私達は町のお社の鳥居に辿り着いた。

 とりあえずお辞儀をする。

 山のお社を除いて周辺神社の中で重要な神社なだけあって大きい鳥居が出迎えてくれる。

 鳥居の上部分には邊津川へつかわ神社の文字が書かれていた。

 昔から地域に親しまれる反面、正式な場面でしか名前を呼ばれない為に地域住民も咄嗟に神社の名前を聞かれると「町のお社」や「町の神社」としか答えられないことがあるのが弱点だとか。


「やっと着いた……」


「って、え、大丈夫ですか!?」


 気付いたら実子様は見るからに辛そうな顔をしていた。

 無言で龍野先輩が荷物ごと実子様を抱え上げた。

 御身体が弱いのは有名ではあるが具体的にどうなのかは知らなかったので気を遣えなかったのが申し訳ない。


「すいません、歩くの速かったですか?」


「いや、話しながら歩いてたからそんなに速度は出てなかった筈だよ」


 私に話すにも意味があったのかと今気付いた。


「とりあえず、町の社に行くぞ」


「あ、はい」


 このままだと物事が進まないので龍野先輩がそう言って鳥居に礼をしてから参道をスタスタ歩いていった。

 先輩と実子様それぞれの荷物と実子様本人で何キロ抱えているのだろうか、そんな事を感じさせない歩き方である。

 私もお辞儀してから慌てて追い掛けるようについて行った。










 町のお社は大きなグラウンドを除いた学校の半分くらいの大きさで駐車場が一番大きく森の外縁にあり、参道の左側の並木から見えるアスファルトのスペースである。

 神社の本殿などの施設があり、それ以外に町のお社及びこの地域に関する史料館が存在している。

 町のお社の本殿は山のお社とほぼ同じ見た目で山のお社の本殿から彫刻を少し簡素にして色彩を豊かにしたような印象を持った。

 参道の終わりで龍野先輩に抱え上げられた実子様は下に降ろされた。

 手水舎の前で手を洗いながら実子様に訊ねる。


「お参りっていくらぐらいが良いんですかね?」


「私達あそこの在校生だと町のお社にあまり構うと学校の土地神が嫉妬するから適当な距離を保たないといけないんだよね、私は山の社所属だから関係ないけど」


 此処が近すぎると言うか此処から学校のお社ははるか昔に別れたからあれこれあるらしい、と実子様は言った。そう言って三人でお参りを進める。


「八代先輩の嫉妬ですか……」


「大人だったらいくらでも、と言いたいところだけど。金額で寄付金のあれこれとか色々あるからもし将来大金でやるなら寄付する先に詳しい事を問い合わせてね」


 そう言えば、お祭りとか初詣とか行くと有力者の見栄や顔とかでそう言うのあったなとか思い出した。

 常盤の当主が寄付金や何かの奉納とかをしたり、若葉の方は一族の看護師を交代で例大祭などの行事での救護所のスペースに詰めたりして貢献していたりするらしい。

 とりあえず私はお賽銭五円玉で実子様は十円玉で龍野先輩は五十円玉お参りをした。

 その後実子様は社務所で写真についてお話ししに行った。

 ふと参道から道路の方を見ると神社を参道の道路側を歩く同じ制服の長い髪の女子生徒が居た。

 後ろ姿な上遠目なので分かりづらいが同級生ではないようだった、背格好はあまりにも中性的で髪が短く切ってジャージ姿だったら性別がわからなかったかもしれない。

 暫くすると社務所で話していた筈の実子様が手招きしてきて私はそちらに歩いていく。


「どうやら、お姉様が史料館に居るらしい」


「え、そうなんですか?」


 依香様が何故か居るらしい、いや居る事自体は変な事では無いらしいが。

 昨日の今日なので依香様とは正直会いづらい。

 だからといってそれを面とは向かって実子様に言えずそんなこんなで史料館に移動する事になった。

 実子様も調子が良くなったようで少しの距離だが普通に歩いている。

 そして私達は閉館時間前の史料館に入った。

 すると関係者入口のドアから依香様がガチャッと出てきた。

 依香様は紺色のビジネススーツに身を包み黒いハイヒールを履いていた。

 赤縁メガネをしてクールビューティな雰囲気を出しているが、スーツを押し上げる胸の主張が激しかったり、冷ややかさの中に色っぽさが混在している。

 長い髪を後に頭の低い位置で束ねて流していて化粧はトイコさんを落ち着かせたような感じであるが、肌の色も違ければ体格も曖昧に見えるのでトイコさんと同一人物だとはわからないだろう。

 着物姿の依香様ともわからない気がする。

 当主の指示とかで山のお社の史料の持ち込みとかして居るのだろうか、山のお社は車の免許持っているのが女性しか居ないのでそうかもしれない。


「あら、ご機嫌よう。実子さんと忍さん」


「こんにちは、お姉様」


「こんにちは、依香様」


 龍野先輩は依香にとっては実子様の付き人か何かの扱いらしい。


「実子さんがここに居るという事は桃香さんから例の写真頂いて来たんですの?」


 依香様に言われ実子様は鞄から封筒を取り出した。


「えぇ、それで社務所でこの心霊写真は山の社に持っていくと言って報告してたんだけど」


「ではわたくしにもまた見せて下さいませんこと?」


「あぁ、お姉様は昨日社にヤバいの持ち込まれてそれを見たんだっけ?私寝てて父の笑い声しか聞こえなかったけど」


「とても禍々しかったですわ、お父様が大層喜んでらして」


 そう言ってオホホホと依香様が笑っていた。

 私は話を聞いててなんか怖かった。別の世界の話をしているようだった。

 この話でヤバい写真モノを見て笑ってる彼女たちのお父様は山のお社の祝家の当主でもある銀流様である。

 この方は苛烈に怒り狂うタイプではないらしいが私は詳しくは知らない。


「とりあえず、そこのテーブル席に座って少しお待ちになって」


 史料館の資料閲覧スペースの長テーブルを指して言った後、史料館入口の方へ向かっていった。

 衝立が無い図書館にもあるようなテーブル席である。

 私は何も考えずに実子様の左隣に座り、龍野先輩は実子様の右隣に音もなく座った。

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