Shrine Historical Musium
閲覧席は長テーブルで衝立が無い図書館にもあるようなテーブル席である。
私は何も考えずに実子様の左隣に座り、龍野先輩は実子様の右隣に音もなく座った。
閉館準備をしている最中だったようで、電気を消したり入口のドアに「閉館しました」の看板を立て掛けたりしているのが見えた。
その後ピッと言う音やゴトンという物が落ちた音がして依香様はペットボトルの飲み物を四本持って戻ってきた。
どうやら自販機で飲み物を買って下さったらしい。
「お待たせしてしまいましたわね、こちらは私からのお詫びですわ」
そう言って依香様は一人一人に龍野先輩にもお茶のペットボトルを渡していた。
それぞれありがとうございますなどと感謝の意を述べてペットボトルを受け取った。
因みに私が何考えずに受け取ったのはストレートティーのペットボトルだった。
そして依香様は私の左隣に座った。
「それでわざわざこの史料館に来たんですの?」
依香様の問いに実子様は心霊写真を出して説明を始めた。
「それは、この写真を見て忍ちゃんが内密に相談したい事がありそうだったからとりあえず美貴と桃香の二人から剥がして神社まで連れてきたんだけど」
そう言って私の方を実子様は向き、依香様もこちらを見た。
「あ、えーと……はい。その写真を一度見たときの疑念が後で虫眼鏡で確認したとき確信に変わりました。昨日の今日なので依香様には申し訳ないですが」
私がそう言うと依香様は一つ溜め息をついてから話しだした。
「まぁ、この写真を見ただけで気付いてしまったことが色々ありそうですものね。そちらの写真は危険度そのものよりも主張が激しい写真ですから」
貴女は聡明で周りを気遣っているのはわかってますわ、と依香様は私に言った。
「いえ、はい……」
「忍さん、昨日と同じように口にしたい事を素直におっしゃって。他に知られたくないならここだけ留めますから」
そう言って依香様は私の話を促した。
「手の形のバリエーションが豊富過ぎることにまず気が付きました、よく見るとこの手形やこの手形、この手形は形が普通ではないので驚きました」
私が写真の手形を指差しながら説明をした。
すると依香様は龍野先輩に向かって話しかけた。
「龍野、カウンターからルーペ持ってきて下さる?」
「お願い
実子様に重ねて言われ龍野先輩は立ち上がり資料閲覧スペースの関係者ゾーンであるカウンターの裏からルーペを持ってきて実子様に渡した。
「ありがとう」
実子様はそう言ってルーペを受け取ってから依香様にルーペを渡した。
「はい、お姉様」
「ありがとう」
依香様もそう言って実子様から受け取り写真を虫眼鏡で見始めた。
「多かったり少なかったり、果てには水かきでございますか……北の地方の赤い河童を想起させますわね。科学的に真面目に申し上げる場合は未熟児でございますわね」
依香様は目を瞬きを一度してからそう言った。
多い少ないの話は指の本数の事である。
「生物でもやったけど胎児には水かきがある時期があるんだったか……指の本数は多指症とか言うんだったか?なんというか顧問が見ても食いつきそうな写真だな……」
改めて見ても色々見つかりそうだなぁ、と実子様は言った。
やっぱりあの先生変な人なんだなと思った。
「何よりも気になったのが撮影の視点的に鯉の近くに見える池の縁のあたりの白っぽい何かなのですが……」
「えーと、コレのこと?」
依香様は左手の人差し指で鯉の下辺りの黄色がかった白い小さな塊を指して虫眼鏡で見る。
すると何も言わなかったが目を瞬きさせた、こちらを見ていないのでよく見えないがおそらく瞳孔が開きだして居るだろう。
「多分、乳歯ですよねコレ。何でこんな所に落ちているのでしょうか」
子供が立ち入るような場所ではなさそうなのに、と私は言った。
「ふ、うふふふふふふふ」
するといきなり依香様が笑い出した。
実子様は我関せずな顔をして写真を見ていた。
「素晴らしいですわ、自分から答えを導いてらっしゃるなんて、昨日私から答えを聞かないと言ってらしたのに自分で気付いてらしたのですわね」
依香様は笑いも完全に止まらないままの興奮したテンションで喋っていた。
「なので、予想が当たっていようが外れていようが依香様にお会いするのは少し気不味かったです」
正直外れていて欲しかったですが、と私は溜め息混じりに言った。
「賢いな、勘が鋭いのもありそうだが」
実子様がぽつりと言った。
「いえそんな、この前から視えるモノが増えたせいか、死んだ者、あるいは生きていた物がよく見えるようになった気がします」
私は目を指してそう言った。
「それだけでは無いことよ」
遮る様にして依香様がそう言った。
「持てる情報をどう組み立てて活用するかはその人次第でしてよ。集める力はあってもそれから見出して結論を導くのが苦手な者、持てる情報で上手く立ち回り半ば踊る者もいらっしゃるわ」
そう言って依香様はペットボトルのミルクティーをごくごく飲んでいた。
慇懃無礼というものなのだろうか、どこか具体的な特定の人間を指しているように思える。
「その喩えだと踊っているのは道化を指すのかあるいは軽業師を指すのか……どちらにしても見世物には変わりないか」
そう言って実子様はペットボトルのほうじ茶を一口飲んだ。
「えーと」
先ほどから具体的な特定の人間を指しているような気がしてならない。
「石ではなく花やぬいぐるみや食べ物が投げられるのもこれ才能の一つよ」
難しい言い回しのような、含蓄のあるという感じの話し方を実子様はしてくる。
本当に私のような小娘では無く中身は相当老獪な何かなのだと思い知らされる。
「この姿は紛れもない女子高生の姿よ」
「はい」
考えを見通されてしまったようで釘を刺された。
「その代わり忍さんは両親がとても変わった方だったり愛嬌まで取り上げられてしまったようですわよ」
「え、あ、はい……」
急に依香様にオブラートに包もうとして途中でやめてただ添えて毒を投げつけられた気分になる。
「忍さん自身は気遣い出来るようですけどね、あの二人に予想を言わないようになどの」
一応依香様がフォロー入れてくださった。
「それは違いない」
実子様もそれに頷いて肯定する。
「私は一応若葉の端くれなのでその手の何かしらの察しはつくのですが、今回は嫌な予感と言いましょうか、それ以上に闇が深いと」
「左様……ですのね」
依香様は納得したのかあら、と声を漏らす。
「そして昨日の依香様の池に棲むヌシについての説明もこれで納得がいきます、そして時に視ることが辛いと言うことと視る必要がないのなら見なくても言いと紫里さんは言って下さいました」
私は感謝してます、とお二人に言った。
すると微妙な顔をしてお二人は互いを見る。
「あの
「紫里は頼りになるしわがままだけではないから
わりと傍若無人とバッサリと実子様は言った。
「左様でございますか……私は紫里さんのこと好きです、気疲れしてるときとか気分変えてくれる方なので」
「あら、別に私達も紫里さんの事は多大な迷惑をかける可愛いらしい妹だと思っていてよ」
「それはそう」
誰も紫里さんがわがままという所は一片たりとも否定をしなかった。
紫里さんは愛されているけど場を掻き回す可愛いらしい女の子である。
引っ掻き回す愛らしい女の子の話はまだ続いた。
私達四人全員で入口に移動した、すでに鍵が閉められていたので依香様が開けてお別れの前の話を始めた。
「御二方に話せただけですっきりしました、本当にありがとうございます」
「しかし鯉についてまで気付くとはね……」
実子様はしみじみと言った。
「いえ、何でも食べるのは知っていたので」
「それを含めて忍さんがちゃんと周りを見ていた証拠でしてよ」
依香様はそう褒めてくださった。
「ところで、あの池はこれからどうなるのでしょうか」
紫里さんの言葉を思い出して依香様に訪ねてみる。
「池のヌシをどの様に対処するのか、集まってる若葉の魂をどうするのかはまだ具体的には決まっていませんの」
端的に申し上げるとと依香様は言い、その後昨日の出来事を話し始める。
「私はあの後御父様に、山の社の当主に報告を昨日しましたの。そしてさらに夜にやって来た呪物達を見て大変驚きましたわ」
御父様は大笑いでしてよ、と依香様は言った。
「あの親子はあの程度の厄介事は弾き飛ばせるでしょうけど、それ以外の家族が凄惨な事態に巻き込まれかねないから今日の写真を除いてフィルムなど含めて粗方山の社で引き取ったんですの」
やっぱり桃香もおかしい側の人間のようだ。
「判断はまだですが、今大都会にいるお兄様と私と紫里さんで秋頃にあの池にまた訪れると思いますわ」
それ以上はお兄様とも話が進めないといけないのでまだ決まっていませんわ、と依香様は言った。
「そうだったんですか、お話ありがとうございます」
依香様除いた私達三人は外に出る。
「今日はありがとうございました、またの機会をお待ちしてます」
「ではまた今度」
私達はそれぞれ依香様に別れの言葉を話した。
「では、今日はこれにて。ではご機嫌よう、龍野は実子さんのことお願いね」
そう言って依香様は史料館に戻り鍵を閉めた。
依香様は史料館の閉館作業を全て終わらせたら政理の方に戻らないといけないらしくそれなりに多忙らしい。
「さて、帰るか」
「はい、実子様」
私達は駅まで一緒に歩いた。と言っても鳥居を抜けた後は実子様は龍野先輩に抱えられて移動していたが。すれ違う人間は誰もその事を気にしていなかった。いつもの事らしく大抵の人は実子様が誰なのかも知っているので挨拶やお辞儀をする程度らしい。
改札前で実子様は龍野先輩に地面に降ろされた。
「では実子様、今日は本当にこの時間までお付き合い頂きありがとうございました、またの機会に」
そう言って実子様にお辞儀をする。
「こちらこそ話しを聞かせてもらって楽しかったよ、まぁ内容的に楽しいと称しては良くなさそうだが、ではさようなら」
実子様は普段纏う雰囲気とはかけ離れた形の
笑みを見せてくださった。
「では、龍野先輩もさようなら」
そう言ってそれぞれ別の列車に乗り別れた。
二人は山の終点駅まで行く列車でないといけない為まだ駅のホームで待たないといけないのだ。
龍野先輩は無言で手を振ってくれた。
そして列車は出発し風景が変わり二人の姿はあっという間に見えなくなった。
私は御二方に話すだけでこんなに気持ちが楽になれるんだと驚いたのだった。
忘れ去られた浄土池 すいむ @springphantasm
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