Stream Children

「えーと、携帯の写メってパソコンだとどうやって見るの?」


 私は素でわからないの質問した。

 私もケーキを食べ終えてお盆の上に皿とフォークを置く。


「携帯だとパソコンの方のアドレスにメール添付するか、あるいは携帯に入ってるSDカードに画像を移せばパソコンに入れればすぐ見られるよ」


 前はメモリーカード、記憶媒体の規格がバラバラで対応するものとしないものとかあって――と話が続いたので半分聞き流した。

 先ほどメモリーカードの規格の話をしながらも準備の手は緩めず進める。

 携帯を操作したあとSDカードを抜いて、ノートパソコンに差し込んで操作する。

 そして桃香は準備を完了させた。


「はい、お待たせ。写真が見られるよ」


 そう言って桃香はノートパソコンの向きをこちらに見えるように変えた。

 すると美貴が齧り付くようにパソコンの画面を見る。


「おー鯉だ」


「やっぱり変わった模様の鯉だね……」


 私もパソコンの画面を見たが流石に写メをノートパソコンの画面の大半を使って表示すると粗さが目立ちぼやけてしまう。

 そのためパッと見は子供の顔だとはわからないくらいには鯉の模様はぼやけていた。

 少しホッとする。


「とりあえず全部見てみよっかー」


「はいはい」


 おねがーい、と美貴が桃香に言い、次の画像を表示した。


「蓮の花も咲いてて本当に綺麗な池だよねー」


「そう言えば、秋にはこの池の縁に彼岸花が咲くらしいよ」


 ことごとく露骨に彼の世を連想させてくる花である。


「それはそれで見に行ってみたいかもー、でもその頃には色々崩れてそうだなぁー」


 桃香の言葉に紅葉とかも始まってて綺麗だろうなぁと美貴は残念がる。


「どちらにしても綺麗な池だよね、観光資源になりそうな感じのさ……心霊スポットになってるのを除けば」


 全部の画像を見た後、そう私は二人に向かって言った。

 

「もしかしたら廃寺になる前のお寺の名物になったかもね……でも道が出来る前にしても集落の人の憩いの場としてあまり使われてもなさそうなんだよね、集落や寺の資料とか見ると」


 桃香が書類を捲りお寺の項目と集落の項目を示した。


「……色々と戒律とか上下関係とか厳しいお寺だったのかな?」


「そうなのかなー?」


 美貴が私の言葉に返事をした、どこまでわかってて返事をしたのかは謎だが。


「細々とした山の中で厳しくやりすぎると成り立たなくなりそうだけど、どうなんだろうね?」


 桃香はそう言った。

 実際先細りして離散してしまった場所である。


「集落の人口の維持にしろ、交流や魅力的な所のアピールとかは必要だろうけど、あの集落はどんなことをしてたんだろう?」


 書類を見るに見当たらない。

 桃香を見ると桃香は首を振った。


「素直に言うと見当たらなかったのよね、ネットでも見つからなかった。ネットだと当時の噂を拾ったりするくらいしか出来なかったのよ、後は昔住んでた人の話とか探すくらい。あの時代だとネットどころじゃないしね……そもそもあの集落って電話は一世帯ごとにあったのかな?」


 都市部との色んな意味でのラグがあるのよね、と腕組みながら桃香は言った。


「山奥すぎて諦めてたのか、保守的な人が権力持ってて外部から人を入れるような真似をしたがらなかったか……あるいは」


 どうなんだろう?と私は口元に手を近づけながら桃香を見た。


「道が出来たことで人口が流出して離散してるということは移動が困難ではないと証明はしてる……実際私達も行ったしね。あそこまで行く価値があるかはともかくね」


 余程の物好きでも足が無ければ来られない、そんな場所である。


「んー逆にそんな大変な道だったとしてもと思わせる何かがあったのかな……あの集落」


 ぽつりと美貴が言った。

 考えてないように見えて急所串刺しにしてくるのは何なんだろうか。


「あっ……」


 桃香は思わず声が出て口元を押さえる。

 美貴が言う出て行きたいと思わせる何かが若者のとかいう生温い物ではなかったんだろうと思ったのだろう。



「まぁ、おそらくそうだったんだろうね……」


 少なくともフットワークが軽い若者がすぐ出ていくくらいには、そして出ていった若者は今では既に還暦を迎えたり、比較的若くても還暦に近くなっているだろう。


「うーん、あまり私達がこれ以上考えてもおそらく出る結論は良くないだろうしー、次回現像した桃香の撮影した写真を見て今回の心霊スポットの話は終わりかなー?」


 少なくとも満足したのか美貴はこれ以上詮索しなくても良いと言い出した。

 実際出てくるとしても人間の業のようなモノだろうし妥当だろう。

 祝姉妹が今回の心霊スポットをある意味当たりと言ってたのに私達を多少の恐怖体験や危険な目にまで付き合わせてきた。

 それはおそらく心霊現象などに無闇に関わってはいけないと釘を刺すための物の意味もあったんだろうなと私は思う。


「そうね、私は報告書を書いたりパパに話さないといけないけど、これ以上深掘りしても碌な物は出てきそうに無いしね……」


「その通りだと思う」


 美貴の言葉に私達は賛成した。




 パソコンの画面に映ったままの桃香の撮影した携帯の写真をふと見る。

 若葉もとっくに過ぎた夏の季節。

 河のわらわが河童ならば、川に流された《生きられなかった》子供は水子すいじなのだろうか。

 私は見慣れた彼等に想いを馳せた。

 

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