Sweets Time

「お待たせ、ケーキとお茶が準備出来たよ」


 そう言って桃香が自室に両手に大きなお盆を持って戻ってきた。


「ハーイ、二人のケーキと紅茶だよ」


 そう言って、ローテーブルにケーキの乗った皿と紅茶の入ったティーカップが置かれた。

 フォークとスプーンと角砂糖の乗った小皿もあった。


「わーい、ケーキー」


「ありがとうございます」


「今回はママの奢りだから良いのよ、後で本人に言っといて」


 ママの機嫌良いしねー、と言って桃香は自分のケーキの前にクッションを置いて座った。


「早速食べましょ、頂きます」


「いただきまーす」


「頂きます」


 桃香の言葉で私達も頂きますと言い、ケーキにフォークを入れる。


「おいしー」


「うるさい、でもおいしい……」


 美貴がうるさいが、ケーキは有名なケーキ屋さんのものだからなのか本当に美味しい。

 甘過ぎず濃厚でほろ苦いチョコケーキである。


「一応この建物は音が外には漏れにくいけど住居スペースの方には聞こえるわよ」


 美味しいと言いながら桃香は言った。


「ママたち笑ってるんじゃない?」


 これ以上騒ぐのは辞めようね、と桃香は言った。


「はーい」


「まぁ、はい」


 それを聞いてから桃香は紅茶を飲み本題に入る。


「それで今日の池の事についてだけど、二人から見てどうだった?」


 桃香が私達に問いかけてきた。


「河童の棲む池、結局わからなかったけど


 桃香の問いに私はそう答えた。

 夥しいナニカを思い出してそっちに思考が行きそうになる。


「確かにー、河童なのかはともかく本物の心霊スポットだったみたい!今日は本当に楽しかったねー」


 美貴はフォークをグーで握りしめ興奮気味にそう答えた。

 私は幽霊はお腹いっぱいで消化不良起こしそうである、ケーキは関係なく食べるが。


「私もねー、あ、カメラはフィルムカメラだからパパに現像を頼んだよ、だから今日はまだ見られないかな」


 写真は後日ね、と桃香は言って苺を食べる。

 多分心霊写真になってそうだな、と私は予想する、おそらく撮った桃香本人と現像をしている桃香のお父さんも同じ事思っているだろう。


「ケータイの方なら見られなーい?」


 美貴がチーズケーキにフォークを入れながら言った。


「あーじゃあ、私がケーキ食べ終わったらノパソで見よっか」


 粗い画像になるけど大きな画面で見られるよ、桃香が言った。


「まぁ、ゆっくり喋りながら食べよー」


 そう言って美貴はフォークに刺したチーズケーキを口に入れる。


「結局さー、今回の件もそうだけど、河童ってなんだったんだろうね?」


 背筋を伸ばしながら美貴は言った。


「うーん、河童って一般的に川の神様とかって言われてるよね」


 私は取り敢えず無難な事を言った。


「でもさ、この資料には河童なんて言葉はないし、河童が近くに出るという話も書かれてない。それでなんでそんな話が出るようになったんだろうね?」


「……そういえばさ、トイコさんこの資料は表向きの情報しかないって言ってたっけ、どういう事なんだろう?」


 だから渡してくれた訳だけど、と言いつつ私は桃香を見た。


「あーそれは文字通りの意味ね。私もまだパパほど情報収集が出来ないから、ネットの検索と図書館で新聞紙や地方の資料をただ探してまとめただけなのよ」


 だから誰だってこの資料を作ることは可能よ、と桃香はケーキにフォークを入れる。


「色々な事をしながらこんな色々な事してるの凄いと思うけどなー」


 充分凄いじゃん、美貴は桃香の態度に不服そうな顔をした。


「ここの御三家という目上の人から任される仕事だから尚更ね……まだパパみたいに立ち回れないよ」


 御三家はここら一帯の影響力や権力や財力を持った名家であり、依香様の実家の祝家、依香様のお母様の出身の政理家、そして病院や学校を運営してる常磐家の三つの家のことである。

 私は桃香があんな大人になって欲しくないけど確かに桃香のお父さんは有能で頼れる人ではある。


「言って私達まだ高校生の子供だよ」


 何言ってるんだと、私は素で返してしまった。

 後見人が居てあれこれやっててまだ結果を残してない私の立場とかどうするんだ、とか考えてしまう。


「あー、うん……」


 ゴメンと桃香に返された、見透かされた気がして居心地が悪くなり無理矢理話題を戻す。

 

「えーと、ゴメン……話を戻して、最後バタバタしてたときトイコさんは面白くなさそうな、機嫌悪そうな顔してたけど何だったんだろう」


「目に入るものは壊れたものしかおそらくなかったと思うけど……まだ侵入されてない隠し戸とかがまだあってそこで何か見つけたりしたのかな?」


「まぁ、私が見てもー面白いものはなかっただろーけどー、姐さんだけ中行ったの狡いよなー無視したら一発殴られそうだったし従ったけどー」


「……えっ!?あの依香様が手を上げるの!?」


 ブーブーと不満を言う美貴をぎょっと見た。


「あー、あの姿の依香様は割と手が出るのよね。加減はしてるけど普通に痛いらしいよ」


 私はそこまで怒らせたことはないけど、と桃香は言った。

 トイコさんの姿だと割と暴力的な手段を取るようだ。その行動も隠れ蓑の一つのようである。


ーて私もデコピンくらいしかまだ喰らったことないよ、姐さんのあの姿で本気で殴ったら普通に大の大人も内蔵破裂させかねないから、手加減してるし」


「……えっ!?」


「ほら、今日池から離れるとき私はトイコさんに運ばれてたでしょ。依香様はトイコさんの姿だと怪力なのを隠さないのよ」


 笑いながら美貴は恐ろしいことを言っていた。

 それに対して桃香は補足を入れる。


「まぁ、依香様も元々合気道とかやってらしたようだけど今は関係ないか」


 元々文武両道な方よ、と桃香は言った。


「そ、そっか……」


「まぁ、今回は置いておいて、お寺の中で探せる物って何なんだろうね?廃寺の時点で既に持ち出されているとしても」


「お寺に限らないけど……名簿とか?昔なら個人情報ゆるいから管理が杜撰かもしれないし」


 お寺の名簿なら檀家の家族構成とかすでに死んだ人の戒名関連と死亡した年齢などがわかるかもしれない。

 水子供養ならさらに死因などもわかりそうだが……?


「まぁ、怖い内容だったらなー、普段の姐さん多忙で連絡手段が無いしねー」


 向こうの携帯番号はこちらが知ってたとしても登録されてない携帯番号は弾かれるので繋がらないらしい。

 

「私の方もパパが知ってるけど滅多に繋がらないとか言ってたなー今の時代はメールでいいしね」


 桃香のお父さん曰くだいたい電話は向こうから一方的にかかってくるものらしい。

 因みにメールも登録アドレス以外弾かれるようだ。


「そうなんだ…」


 若葉の場合は若葉の当主が祝家全体の婦人科の主治医なので緊急連絡先として色々知ってはいても悪用出来ないし、私は知らないので表向きの番号で電話を掛けることしかできない。因みにメールはほとんど使っていなかったはずである。


「さて、食べ終わったから写メ見るよー」


 ケーキを食べ終わった桃香がそう言ってケーキの乗ってたお皿とフォークをローテーブル側のカーペットに置かれたお盆に置いた。

 そしてデスクに鎮座してるノートパソコンをコードを抜いてローテーブルの上に置いた。

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