日常に戻りて

The Good Old Photo Stadio

「これから三人でお茶しない?」


 祝姉妹と別れたあと美貴が言った。


「良いけど、何処行く?」


 私は肯定しつつ問う。


「んーじゃあ、私ん来ない?」


 桃香がそう提案した。

 確かに招くスペースはあるだろうけど、そんな簡単に言って良いものなのだろうか。


「え、有り難いけど、家大丈夫なの?」


 昨夜大変だったんじゃないの?と私は問う。


「原稿明けのママがまだくたばってるかもだけどそれに巻き込んだ弱みがあるから何も言わせない、家には今から許可をもぎ取る!」


 ちょっと待っててね、と目が笑ってない笑顔で宣言をして少し離れた所で携帯を取り出し通話を始めた。そして暫くすると戻ってきた。

 

「呼んで良いって」


「やったー」


 そのあと桃香はケーキ屋に行くと言って三人で向かった。


「ママが私達三人含めて食べる分のついでに家族の分も買ってきてだってさ、ママの奢りだって」


 後でレシート精算だって、と言いながら街のケーキ屋さんに三人で向かう。

 おしゃれな感じのケーキ屋さんで繁盛してるらしく、行列が出来ていた。


「おーここが例のケーキ屋さんだー」


 三人でケーキ屋さんの列に並ぶと美貴が口を開いた。


「……何が例なの?」


「あぁ、美味しくて有名でテレビでも紹介された事があるらしいのよね、ここ」


「……そうなんだぁ、テレビ全然見てないから知らなかった」


 テレビをまともに見たのはいつだったか、兄が死ぬ前だったか。


「まぁ、息抜きにテレビ見ても良いんじゃない?情報収集は携帯でも出来るけど、三十分とか一時間て息抜きでもさ」


 私はアニメばっか見てるけど、と桃香が言った。


「テレビ見てたらいつの間にか寝てて起きたら登校時間だった事あったんだよねー」


「あれは論外よ」


 ウケるー、て笑う美貴を指してアレはダメよ、と真顔で桃香は言う。


「ケーキ一つ決めたら列から抜けて会計終わるまで入口近くで待ってて」


「やったー!!」


「わかった」


 桃香にそう言われ、チョコケーキを私は選び列から抜けた。


「私はチーズケーキで」


 美貴もそう言って列から抜けた。


「家族の分も買うからちょっと待っててね」


 桃香の指示通り二人で暫く待っていた。







「お待たせー」


 桃香が会計を済ませてケーキの入った白い箱を提げてやってきた。


「じゃあ、私の家に行きましょ」


 桃香の言葉で私達は夏の熱気を浴びてケーキ屋さんの外に出た。


「そういえばー、モモちゃんの家って写真館だっけー、齊木寫眞館であってる?」


 ここら一帯で有名なところだよね、と美貴が訊ねた。


「そうだよ、街で一番古い写真館が私の家」


 隣駅が最寄りだから電車に乗るよーと言って駅の方向に歩き出す。

 電車で一駅移動して少し歩いた所で桃香の実家、「齊木寫眞館」に到着した。


「わぁーレトロな寫眞館ー」


 スゴーイ、と美貴が騒ぐ。

 すると声が聞こえたのかドアが開いて中から人が出てきた。

 三十代半ばくらいに見える綺麗な女性だった、目の下の隈を除けば。

 桃香のお母さんである。


「お帰り桃香、そしていらっしゃーい、連絡どおりお友達二人ね」


「ママただいま。コレケーキ」


 桃香が桃香のお母さんにケーキの入った箱を渡した。


「お遣いありがとね」


 そう言って桃香のお母さんは箱を受け取った。


「こっちは高校で知り合った宮島美貴さんで明るくて色々な事を試したりしてる子だよ」


「初めましてー、宮島美貴です。斉木さんは色々な事に詳しくてお世話になっています」


 よろしくお願いしまーす、と美貴はお辞儀していた。

 美貴はうるさいこと以外は出来る子なんだよなぁと思った。


「後は遊びに来ること自体は初めての稲見さん」


「お久しぶりです、本当に遊びに斉木さんの家に行くこと自体が初めてですね……」


 私もお辞儀した。


「桃香は友達を部屋まで案内したら一度キッチンに来てね」


 そう言って桃香のお母さんはケーキの箱を持って奥にく引っ込んだ。


「じゃあ、私の部屋まで行くよ」


 桃香に案内され表から入り、正面玄関は吹き抜けになっており入ってすぐの上には凄い大きな写真があり他にもそれよりは小さいけど大きい写真が飾られていた。


「おースゴーイ」


「昔見たときとほとんど変わってないね」


 そこから奥に移動し衣装部屋の前を通って脇の珠暖簾をくぐりドアを開け階段を上り二階の桃香の部屋までたどり着いた。

 桃香の部屋はパッと見はファンシーなお部屋って感じである。

 淡いピンクや白、落ち着いたベージュピンクのチェック柄やレースなどのカーテンなどが使われていて女の子らしい部屋の印象を与える。

 桃香はベッドに置かれたピンクや白のクッションをローテーブルのあるピンクのカーペットに置いた。


「左手前のドアがトイレだよ、機材の部屋とかヤバい趣味の部屋もあるから勝手に他の部屋行かないでね」


「へーそうなんだー」


「…………」


 写真屋さんだから、専用機材とかあるのはわかるけど、ヤバい趣味の部屋って何なのか突っ込んで良いのかもわからない、怖い。


「棚の本読んでて良いから少し待っててね」


 そう言って桃香は部屋を出ていった。

 

「さて、桃香の部屋でお茶ということになったけど……」


「あ、そうだあの書類、私にも読ませてー」


「あぁ、はいコレね」


 そう言って私はバッグの中からトイコさんより預かった書類を美貴に渡した。

 トイコさんから借りたというか渡された書類は後で美貴が読めるようにそのまま持っていて良いと言われて私が持っていたのだ。


「えーとグラフがある方の書類が集落の統計関連で」


「あーコレで道が舗装路にされた年と連動してるってことかー」


「……それでもう一つはお寺に関する資料だね、池の事もこっちに書かれてる」 


「こっちにえーと、水子供養についても書かれてたんだっけ?」


「そんな感じだね」


「なるほどー」


 桃香が戻ってくるまで書類を捲りながら美貴とお話をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る