幽山と化しつつある山の道その涯に
山奥の道の最中で鬱蒼と繁っていた木々が疎らになり崩れた小屋が見えだした。
道路は砂利道になっている。
「集落が見えてきた」
「もうそろそろね」
車に飽きた紫里が目を輝かせて言った。
トイコさんも肯定する。
「さて、到着と」
トイコさんは平らで開けた場所を見つけそこに車を止めた。
「着いたよー、忘れ物確認して降りてー」
車に戻るの面倒だからー、とトイコさんは言った。
「やっと車から解放されたー」
やったーと紫里さんは車から跳び出した。
そのドアから入ってきた空気は涼しくて青い匂いを運んできた。
「離れた場所に行くなよー」
トイコさんは運転席でゴソゴソしながらドアを開けて大声を出した。
「あー、私が連れ戻してきますねー」
「あー、お願ーい」
トイコさんにも言われて美貴も車から出ていった。
因みに手を繋いで美貴と紫里さんはすぐ戻ってきた。
美貴が紫里さんといると相対的に大人しく面倒見がよく見えるので変な感じである。
四人がそれぞれ持ち物を確認して降りた後、暫くしてからトイコさんは運転席から出てきた。
書類ケースを持っていて、プリントアウトされた書類が入っているようだ。
それと何が入ってるのか分からないが布のトートバッグを持っていた。書類ケースも元々バッグに入れてたのかもしれない
トイコさんは靴を履き替えてたようで先ほどとは違う厚底ブーツを履いている。
今履いている靴ではペダル操作がし辛いし危険な道だっただろうから運転時には別の靴を履いていたんだろう。
だからといってこれからの険しい道にその靴での徒歩はどうかと思うが。
因みにトイコさん以外は私を含めスニーカーだった。
「お待たせー、じゃあ行こっか」
トイコさんはそう言って、車の鍵を締めた。
車は集落跡地の広場みたいな場所で集会所があった。
人の手入れがされずに木材が腐ったり、外から草木が侵食したりして崩れた小屋や一部が崩れた平屋の一軒家などが見られる。
やっぱりここは危ない場所なんだなと思い知らされた。
「この集落ってさー」
目的地に向かう為に皆で歩いている途中、トイコさんが口を開いた。
「あの道が出来たことで若い人がポツポツと居なくなって最終的には三十年前には地図からも消えてしまったんだよねー」
「え、あんな細くて危険で恐い道でですかー!?」
美貴が素直に驚いてデカい声を出す。
気持ちはわかるけど、熊とか大丈夫なのかと私は思った。
「いや、開通した頃は苔むしてもアスファルトが罅割れたりもしてなかったから今よりはマシだったと思うよ」
トイコさんはスンとした顔で答えていた。
「なんでしたっけ? そういうのをストロー効果っていうんでしたっけ?」
私は思うところがありながらもそう言った。
「そうそう原理はそれだねー、てかよく知ってるねー」
エライエライ、とトイコさんは言った。
おそらくトイコさん側の発言のようだ。
「流石、努力してるだけあるよね。私は事前に調べることは出来ても覚えられないんだよね」
そう言って桃香が褒めてくれた、どうも話によるとこの集落や例の池についてネットや地方新聞などで事前調査をしてくれてたらしい。
「でも私にはそういう調査能力は無いから、凄いよ」
私には地方新聞の記事を調べたりとか自分から手をのばして色々並行してやるような根気とかその他諸々はない。
だから、桃香に感心した。
「流石斉木の秘蔵っ
トイコさんは書類を持ってそう言った。
どうやらあの書類のデータ作成は桃香がしたものだったらしい。
「パパに試しにやってみるように言われて、酷かったらパパが直すから安心して調べ物して文章を作成しました」
確認した後そのまま送ったようですけど、頬をポリポリ掻きながら照れた顔で目線を反らし桃香は言った。
「あ、仕事の手伝いってコレの事だったのか」
「うん、そうだよ」
そりゃトイコさんもとい依香さんも理解がある訳である。仕事の依頼をしたのはおそらく彼女なのだから。
「桃香のお母さんのの原稿の手伝いは?」
「アレはママの趣味でパパも手伝ってるときあるよ。どうにか終わったけど夜が明けてたんだよね……今度美味しいケーキ買ってきてくれるってさ」
食べ物で買収されてたらしい、まだ報酬あるだけまともなんだろうけど、どうなんだろうか。
「この書類にはあの道路の開通のこととか人口減少の統計とかこの集落の昔話や地図やお寺の事や色んな事が分類して書いてあるんだー、凄いでしょ」
そう言ってトイコさんは分厚い紙の束をこちらに見せてきた。ホッチキスで止められた紙束が複数ある形である。
「ここまで来ると製本した方が良い分厚さですね」
書類は本当に分厚かった。桃香の中々の力作である。
「機密とか無ければ後で見せてもらえませんか?普通に気になるので」
「あっ、私も見たーい!」
私が読みたいと言うと、美貴も私もーと言ってきた。
「別に読むだけなら問題ない筈よ、この書類は表向きの情報しかないからね」
トイコさんはそう言った。
それに対して桃香は少しピクっとしたが表情は変わらなかった。
「では暇なときにでも読ませて頂きますね」
「まぁ、後で渡しとくわ」
アタシはすでに目を通してあるからね、とトイコさんは言ってくれた。
「私は帰るときにでもー読ませてくださーい」
「それは酔うからやめな」
美貴は素で断られていた。吐かれたら困るし当たり前である。
私達は集落の道を上り、この集落にあったお寺に向かう。
舗装されていない道砂利道だった場所も草が生い茂りそこに細い木まで生えていた。
心霊スポットや廃墟趣味なマニアがたまに来るせいかかろうじて獣道らしきが残っていてそこを歩いていく。
「思ったよりも物が残ってるな」
キョロキョロと見回して私はそうこぼした。確かに崩れた納屋からボロボロの農具とかが残ってるのとかが見えたりもする。
この集落には確かに嘗ては人が住んでいたんだという事実を突きつけてくる。
「河童の棲む池はこの集落のお寺の池の事だからね。ここの坂道を登った先の山門がお寺の入口よ」
トイコさんは坂の上に見える門を指差して言った。
村の外れにあるお寺にある池が今回の目的地らしい、私たちは草が繁っている中の獣道を進みお寺の門の前まで到着した。
「当たり前だけどだいぶ傷んでますね」
桃香が門の屋根を見た。
門は本来の方向以外にも斜めに傾いており瓦もかなり落ちている。落ちた瓦はお寺側の石畳の上にあるもの以外は丈のある草で隠れてしまっているのか見当たらない。
「普通に危険じゃん、コレ怖いなー」
さっさと行こー、と美貴が促した。
「まぁ、さっさと離れた方がいいわね」
そう言って最初にトイコさんが門を突っ切って行った。
「じゃあ私もー」
手を頭の上に乗せて美貴も走った。
残った私や桃香と紫里さんもお寺の門を通り抜けお寺の石畳の上に立った。
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