隘路の最中に

 トイコさんの車に乗って険しい山道を二時間走行中である。

 山道の間もない頃にトイコさんが食べ過ぎたら吐きかねないので程々の軽いお昼ご飯を奢ってくれた。

 お蕎麦屋さんでざる蕎麦を食べたが、夏にはさっぱりしてて食べやすくて夏バテ気味でも食べられるメニューだと実感した。

 トイコさん本人は三人前食べていたのにはギョッとした。

 その後の道行きはアップダウンが激しかったり、数え切れないほどカーブを曲がったり、道幅が狭い中で対向車が来て肝を冷やしたりした。 

 道の片側が崖でガードレールがかなり昔に事故を一度起こしたことのあるような絵面をしてたり、何なら起こした人が視えたりした。

 因みに電波は1時間前から届かなくなり出している。

 たまに入ることもあるが安定しない。


「この車凄いですねーホントに山道でも安心できる車なんですねー」


 美貴が運転してるトイコさんと話し続けていた。

 アスファルトが荒れて剥がれだしてたり苔むしてる所も現れだして結構揺れたりしている。

 

「アウトドア向けの車だからねー」


「いやぁ、免許取ったらこう言う車に乗って色んな所行きたいなー」


 ずっと話してて疲れないのかとか気が紛れるのが良いのかとか色々思う以上に、依香様側が運転してて、美貴と喋るのはトイコさんが担当している状態を見るのがシュールだった。

 並行して何かを行うとこうやって分担するのだろうか。


「視てると面白いよねー」


 私は私で助手席の紫里さんに話しかけられた。

 紫里さんは元々じっとしてるのはあまり好きではないらしい、依香様に何度か注意されていた。

 ファッションも相まって中学生なのだろうかと疑ってしまうが、成績は優秀で体格は良いのでそっちはそっちで逆の意味で疑ってしまうのでプラマイゼロなのかもしれない。


「あ、ナニかを視るのがキツければ目を閉じてー、両手でそれぞれの目を更に覆い隠して10秒そのままにしてみてー、そして元に戻してみてー」


 試してみてー、と紫里さんに言われ私は目を閉じて更に手で覆い暫くして手を退け目を開けた。


「あ、確かに視えないです」


 紫里さんのただならぬオーラもトイコさんの中身も見えなくなった。


「お、成功したんだー、すぐに出来るのは凄いよー、ちょっとしたおまじないなんだけどねー出来る人と出来ない人がー居るんだよねー、視えるようになったばかりの人はまず安定させないと出来ないしー」


 才能あるよー、と紫里さんに褒められた。


「切り替えが出来ない場合はどうするんですか?」


「出来なくて困る場合は切り替えるための道具を持ってたりするよー、そこで死んでる桃香先輩の眼鏡ように」


 先ほどから一切動きがない桃香は、いつの間にか死んだように爆睡していた。食べたあと眠くなったのだろう、中々不気味である。


「あの眼鏡そういうモノだったんですか?」


「度が入ったちゃんとした眼鏡ではあるらしいけど材質とかに凝った一応魔除け道具にもなってるらしいよー」

 

 確か水晶で作られてるんだっけー?と紫里さんは言った。


「し、知らなかったです……」


 そう言いつつも、桃香が眼鏡をずらして何かを注視している姿を何度か見たことがあるのを思い出した。

 その時はよくわからなかったが眼鏡で視ないようにしてるものを視るためだったのだと合点がいった。


「私も桃香先輩と先輩のお父さんが眼鏡の新調したときお清めしに来てるのを見たことがあるからたまたま知ってたんだよねー」


「世の中知らない世界が広がってるんですね……」


 そう言いつつ、桃香をじっと見た。

 私は桃香が昔から視えてて困ってる人だったのかと一応長く友人をやっている筈なのに初めて知った。


「どちらかというと魔除けに重点が置かれてるようだけどねー、お清めされてるのを見るに」


「そうなんですかぁ」


 視えると言ってもどこまで視えるのかは人それぞれだと少し前に紫里さんのお姉様の一人である実子様に言われたのを思い出した。


「まぁ、桃香先輩は並の怪異や霊には狙われるどころか逃げられるタイプだけど」


「…………」


 心配はあまり必要ないのかもしれない。


「因みに、視えるようになりたい場合はー、目を閉じて眉に唾を塗るって言うのとー、狐窓を手で作ると言うのがあるよー」


「あぁ、眉唾ってそういう……」


 そんな事を言いながら、私は紫里さんから言われた通りに目を閉じてから眉に自分の唾を塗り紫里さんを見た。

 ただならぬオーラが視える。


「確かに視えます」


「ならよーし」


 紫里さんが親指立ててグッドサイン出していた。


「アンタ達の話もキリが良さそうね、もうそろそろ集落跡地に着くよ」


 トイコさんがこちらにも話しかけてきてそろそろ到着すると知らせてくれた。


「ゔー、やっとかー」


 紫里さんが最初中学生とは思えない声を出していた、そして背を伸ばす。

 

「ホントに楽しみですねー!!」


 本当に楽しみにしてる美貴の顔が眩しかった。


「だからそろそろ桃香を起こしといてね」


「桃香ー、起きて、そろそろ着くよー」


 トイコさんに言われ、私は隣に居る桃香の肩を叩いた。


「桃香ー、起きてー」


 反応が無いのでさらに揺すった。

 すると桃香は身動みじろぎをして目を開けた。


「うゔーん……あ、ゴメン寝てた……」


 桃香は体を反らせる。


「ごめん、寝てて」


「なんていうか凄いね、この中でよく眠れたね……」


 車は不意に揺れるし、美貴達はずっと喋っている状態でよく眠れたなと感心してたら桃香が言った。

 因みにまだ美貴達喋ってるし紫里も話に参加しているようだ。


「ママの原稿とパパの仕事の手伝いやってたら寝不足なんだよね。だから車の中で寝るつもりだったの、トイコさんがだったら寝られるなら寝ちゃえーって言ってたから寝てた」


「そうなんだ……何ていうか、大変だね」


 よく寝たなぁ、と言って桃香は欠伸をした。

 遠出するのが前もって決まってるのに夜更かし状態になってるのはどうかと思ったが原因が本人ではなく家の事なので仕方ないか、と思い大変だね、と私は言った。

 因みに桃香の家は地域で一番古い写真館で桃香の祖父と父はカメラマン、嫁いできた祖母と母は写真館の手伝い雑事をしているらしい、その傍ら他の趣味だったりをしてるとは聞いたけど詳しくは聞いてない。


「締め切り近くてママに泣きつかれたの、もっと早くからやれば良いのにね。一昨日から手伝ってたよ」


 ため息を付きながら言った。


「そ、そうなんだ……」


「トイコさんも私のママと面識あるというか理解があるから、前日の電話でも寝られるなら寝れば?て感じで終わったよ」


「なんていうか、お疲れ様……」


 家族の仲が良くても大変な事ってあるんだなぁ、と思わされた。


「製本したら読ませてあげるね」


 その言葉と裏腹に禍々しい笑顔を浮かべていた。何かオーラが見えて怖い。


「そ、そっかあ……お気持ちだけ頂ク形デ結構デス」


 そもそも何の本なのかも聞いていないので怖くて断った。


「えー、そんなー美貴は読むって言ってくれたのにー、高校生になって出来ることが増えたから私も色々考えてるんだよー」


 その後も読もうよ、と桃香はプレッシャーを掛けてきたのだった。

 

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