非日常への旅路

艷《あで》やかで苛烈な華

 心霊スポットに行く当日、学校最寄りの駅である郊外の「常盤社駅」の前で待ち合わせとなった。

 夏で大都会では猛暑日とうたわれているがこちらは多少はマシな程度である。

 半袖でも暑いことには変わりはなく、今日行く場所は日焼け虫刺されなどを考えて長袖の上着を用意したけどどうなるのだろうか。


「何ていうか、あの日産美むすびさんに報告する前に既に連絡が行っててびっくりしたんだよね……」


 河童がいるという心霊スポットに行くことを約束した後、帰ったら下宿先の女主人で私の後見人でもある産美さんが、依香様から下宿されてる娘さんをお預かりするとの連絡を頂いているわ、と言ってきたのだ。

 わかってはいたが、そもそも拒否権は無かったようだ。

 結果廃村というか放棄された集落で探索することになっている。


「えっとー今回は私達三人と姐さんと、その妹分の紫里ゆかりさんの五人で心霊スポットに行くことになってるんだよねー」


 美貴が今日の心霊スポット巡りについて説明してくれた。


「……紫里さんて妹分ていうかまんま実の妹では?」


 あの人も今日は一緒なんですか、と私は言った。

 紫里さんには怪異列車事件の際以来になるが一応会ってはいる。


「あー……忍、今日の依香さんはお忍びでの活動だから変装してるのよ、だから依香様と呼んじゃ駄目よ、だから弟姫おとひめ様も妹分」


 美貴が姐さんて呼んでるのもそのせいよ、と桃香が言った。

 因みに弟姫様は紫里さんの二つ名みたいなものである。


「そ、そうなんだ…」


「あと、依香さんをようにね」


「え、なにがあるの……?」


 わかったと言い、やがて車でやってくるであろう姉妹と合流するまで話をした。












「待たせたわね」


「お待たせー」


 そう言って長い茶髪をサイドテールにして流し、褐色の肌でへそ出しでズボンも極端にギリギリなデニムのホットパンツを着た女性が歩いてきた。

 意外にも靴は割と普通のスポーツブランドか何かのシューズで歩きやすそうな靴を履いていて足音はあまりしない。

 イケイケなギャルの様なファッションをした二十代の背の高い女性で化粧も派手でキツめな美人である。

 ハキハキとしたキツめにも聞こえる女性の声だった。

 もう一人はレースの飾りで付いた水色の半袖の服を着る長い髪を三つ編みのおさげにした背の高い中学生の紫里さんが右手をブンブン振ってやってきた。

 中学の白のスニーカーをそのまま履いているようだ。

 ヒマワリのワッペンのついた麦わら帽子を被り、身長と豊かに成長した体型さえ考えなければ小学生のようにも見え、相変わらず只者じゃないオーラを纏っている。


「えーと……おはようございます」


 依香様に以前お会いしたときはいくらするのか分からないような着物を着ていて純大和撫子の印象で清楚な白百合のような方だった。

 今回はお忍びで依香様が居ると聞いたがファッションどころか肉体改造レベルの物凄いイメチェンを見せつけられて事前に聞いておかないと気付かなかっただろう変貌である。

 それ以上に私は依香様をしっかりと《視た》時に中身も凄い形をしていて声を上げそうになってしまった。

 依香様の霊魂は他人の霊魂と結合していて離れられない状態になっているようだった。

 人が一部分が物理的にくっついている様な感じで顔が2つあり、手が3つ脚は4つみたいな化け物のような絵面である。

 結合している他人の霊魂は明らかに凄惨な死に方をしただろう見た目になっており、怨霊一歩手前のような感じである。

 恐ろしい気配を放っているが、依香様を害するわけではなく周りへの睨みを効かせているようだ。

 例えるなら人工的にくっつけられたキメラのようなチグハグな感じがする。

 足りない部分を補うために更に怨霊一歩手前の魂を取付けたような正気の沙汰ではない絵面を見てしまい私は脳が目の前の事実を処理を出来ず困惑している。


「初めまして、アタシの事はトイコと呼んでね」


 依香様もといトイコさんは私の前までやって来てそう言った。

 視ると他人側の魂が口をパクパクさせている。他人側のくっついている他人がトイコさんなんだろうか?


「は、初めましてトイコさん。私は若葉の末端の稲見忍です」


 私がそう言って頭を下げると近づいてきて耳元で小さく囁くように言った。


「お久しぶりですわ、目の方は如何ですの?」


「!?」


 視ると依香様側の魂が口を動かしていた。

 声のトーンも先程の気さくなイケイケギャルという感じでは無く、慈悲深そうな奥ゆかしい令嬢の様な穏やかだけど芯のある優しげなものだった。


「あ、はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 小さな声で私も返事をした。

 私の事をご指名したのも依香様であり、御心配りだったのだろうが、私にとってはもう既に心霊スポット行く前からホラー体験真最中となっている。


「じゃ、トイコでよろしく」


 声のトーンをハキハキとしたギャルの物に戻してから遠回しに今日初対面の人間という扱いで、とトイコさんに宣言された。

 でも中身は依香様側が喋っていた。


「はい、トイコさん」


 了解しましたと私は返事した。

 入れ替わりで紫里さんが近付いて来た。


「忍先輩とはこの前ぶりだねー」


「紫里さんとはそうですね、この前はお世話になりました」


「まぁ、なので宜しくー」


 今日は実の姉妹というていではないと紫里さんは言ってきた、他の二人は知っているからか姉妹から特に説明もなかった。


「因みにこれから行く所はんだよねー、そういう意味で忍先輩の眼に関する経験にもなるかなと姐さんは誘ったらしいよー」


「そうなんですかぁ」


 おかしいな、誘うって連れていく宣言の事だろうかと若干疑問に思いながら返事をした。

 集まった五人でトイコさんの車の駐車場まで移動する。


「さて、今日行くのはかろうじて車がとおれる道があるような場所だからー」


 車酔い注意よ、と言いながらトイコさんは車の鍵を開けた。

 説明をしてたのは依香様側だった。


「お邪魔しまーす!」


「お邪魔します」


「今日は宜しくお願いします」


 そう言って私達は車の後ろの座席に乗り込んだ。


「この車だと五人はギリギリなんだけど行く先の道の事情もあるから、大きい車だと通行が難しいのよ」


 ゴメンネー、とトイコさんは言った。

 依香側が喋っているようだった。


「大丈夫ですよ、巨体の男子すし詰めならともかく、私達は女の子ですし、私は小さいし」


「その分私が幅取りそうだなーアハハ」


「……えー大丈夫そうですね」


 美貴と桃香はそれぞれ言った。


「あーなんかゴメン」


 トイコさんに私たちは言われた。

 トイコさん側が喋っているように思われる。


「じゃー行くわよー」


 シートベルトしっかり締めてねー、と言ってトイコさんは車を動かした。

 

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