第5話

「聞いてくださいまし、兄様ぁ。誠心之神様ったら、本当に禍競りをしているのがご自身だけだと思っていたのですよ。そんなわけないじゃありませんか!やつがれが知るだけでも三十ほどの堕ちたる神は禍競りをしておりましたよ?名称は多少違っていたりもしましたが……そんなことを一度も考えたこともなかったなんて、それはもう、堕ちるのも仕方なしです」

蝶四郎はそう言って足元に転がっていた物体を蹴り飛ばした。蛹である。それはブツブツとした出来物がびっしりとついた醜い蛹であった。真ん中からぱかりと割れてそこから何かが巣立ったことがよく分かる。

「誠心之神を喰い破ったのか」

「ええ、ええ!まったく穢らわしい蛹でございましたけれど、この蝶が生まれるには何とか神威が足りまして」

やはり、それはセイシン様の成れ果てであった。

蝶四郎は顔を歪めて成れの果てを蹴飛ばす。歪めた顔すら美しい。まるで人ではないかのように。まあ、実際人ではないのだが。

「それで何をしたら禍競りに参加した全員の気が違うなんて事態になるというのだ?」

ぎゃあぎゃあと禍競りに参加せし者全てが白目を向き、血を流しながら転がる惨状を見て、何をしたかなど大体分かりつつも私は問いかける。

「それはこの蝶の本領発揮。禍神まがつかみとしての権能で少し悪戯をしたところ、ころりと」

「この邪神め」


種明かしをすれば、籠虫家に四男はいない。末弟は三男の蟻三郎だ。この蝶四郎は我々三兄弟が禍競りにて競り落とした堕ち神である。

人の苦しみを愉悦と感じ、それはそれは趣味の悪い禍競りを行いし邪な神。

二人の弟を犠牲にして私はこの神に願いを叶えてもらおうとしたのだ。

しかし、命捧げて競り落とした神は自分は失せ物探しなど門外漢。人に苦痛を与えることが我が本懐等とのたまった。

「ならば、私の目的を手伝え」

故に私はこの神に他の禍競りに渡りをつけさせ、ようやく祈願成就が専門の神に辿り着いたのである。

「はああ、それにしても今回は楽しゅうございました。弟のふりをして競りの対価となれとは……全く、面白きことを考えられますね、あ・に・さ・ま」

「お前に兄と呼ばれると相変わらず背筋に毛虫がうぞめく気分になる」

「先にやつがれに未練がましい名前を付けたのは兄様でごさいましょう?蝶四郎、なんて」

「付けたことを後悔しているよ。お前に名など過ぎたるものだったな」

「うふふ、やつがれは気に入っているのですけれどね。さて、それではこれにて我々の契約もお終い。やつがれはお暇させていただきます」

そういっていそいそと何か用意をしだした蝶四郎に私は首を傾げる。

「何を言っている?」

「何とは……?我々の契約は家宝を取り戻すのを手伝うことでしょう?もう十分貢献したかと思うのですが」

「いや、手伝えとは言ったがそれは家宝を取り戻すまでという意味ではないぞ。私は目的を果たすまでと言ったのだ」

「は……では何が貴方様の目的なのです?」

「禍競りを全て潰す」

「……今なんと」

「私の弟達がお前のような禍神に喰われて死んだというのに禍競りなんぞに参加する人の腐った肥溜めに住んでいるようなロクデナシ共がのうのうと生きているのは納得出来ん。皆、心の拠り所を失ってのたれ死ね。そんな物を催す神も皆消え失せろ。そのために禍競り、その全てを潰す。その過程でお前もどこかに封印して、二度と悪さが出来ないようにしてやる。それが私の目的だ」

「あはっ」

蝶四郎が嗤う。

「あははははははっ、あははははははは!!!なんて、なんて───素敵な願い!!!素晴らしき欲望!!!」

舞い、踊り、歌い、蝶四郎は恍惚とした表情で私に抱きついた。

「最高です、兄様ぁ……!末永くお傍に置いてくださいませ」

「もちろん、逃げれるなどと思うなよ」

かみさまは酷く蠱惑的に微笑んだ。


禍競りぃ、禍競りぃ、以上で本日終焉でございます。

またのお越しをお待ちしております。

またのご愛顧お待ちしております。

またの───

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禍競り 292ki @292ki

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