第5話

 ピンポーン!



 インターホンが鳴った。


 ―――イラッ


 誰だよ‼こんな時間に…無視無視。せっかく湯船につかってゆっくりしようと思っていたところだったのに。


 ピンポーン!

 ピンポーン!ピンポーン!


 し、しつこい!!居留守とわかってて出ないんだから出る気がないって察してくれよ。


 ピンポーン!ドンドンッ‼


 とうとう扉まで叩いてきやがった・・・


 ドンドンッ‼ピンポーン!


 ドンッ!ピンポーン!


 ピンポーン!ドンドンッ‼


 ドドドドドドドドドッ


「いや‼セッションをするなっ!!鬱陶しい!!」


 つい大声を出してしまった、今ので完全に居るのがバレたな。


 もういっその事、ワ〇ピースみたいに「うるせェェ‼‼」ドンッ‼とでもドアを蹴っ飛ばして追い払おうか?


 ドドドドドドドドドコドコドコドコピンポーン・・・


 ダメだ、逆に一刻も早くやめさないと周りの部屋の人の迷惑になるかもしれない。


 もしかして、一大事だったりするのだろうか?実は殺人鬼に襲われていてかくまってほしい~みたいな??それはそれで何かの事件に巻き込まれるのはごめんだね。


 流石にこれ以上はうるさいので、扉の向こうにいる奴の顔でも拝みに行きますか。


 鳴りやまないインターホンの連打にドア叩き。半分キレ気味で駆け付けインターホンのミニターを見ると―――そこに映っていたのはまさかのドアップ八重桜さん。


「うわぁああっ‼」


 ビックリして尻もちをついてしまった。もしかするとはじめて彼女の顔をはっきり見たかもしれない…


 一瞬だったが暗闇に映る八重桜さんの日に当たっていないようなキメ細かな白い肌に、長いまつげ、クリっとした大きな黒目はなかなかに迫力満点。いつもの極厚丸眼鏡もキラリと光っててもはやちょっとしたホラーだった。…貞〇かよ。


 先ほどに引き続き今度は何の用だろう…少しためらったがしぶしぶ扉を開ける。


 ――ガチャ。


「こんばんわ。八重桜さん」


普通に迷惑をしているので、あからさまにしかめっ面で言ってやった。


「…やっぱりいた」


 こちらの顔色を気にせずにそう小さな声でつぶやく八重桜さん。


 まさか居るかどうか確認するためにインターホンをあんなにも覗いてたのか?当たり前だが内側から見えても外からじゃ覗いても何も見えないぞ??


 あれほど激しくインターホン連打とドアを叩いていた張本人とは思えないほど静かにドア前に立っている。


「さっきぶりだね八重桜さん。今度はどうしたの?」


 正直めんどくさかったので早めに要件を聞きだそうとするが、何か言いにくそうにモジモジしている。


「……くれ」

「ん?ごめん何て?」

「…泊めてくれって言っている」


「は?」


 びっくりしすぎて口に出す予定のなかった言葉が漏れ出てしまう。泊めてくれ!?いやいやいやいや流石に何でも急すぎるって。どうしてそうなるのか全く話の詳細が見えない。


「うん、無理!!」

「・・・」


 こっちにだって都合があるし、あと八重桜さん普通に怖いんだもん!さっきもひどい事言われたしさ。ここで素直に「はいどうぞ」とは何となく言えなかった。


 八重桜さんは微動だにせずボーっと立ったままだ。


「事情は分からないけど急には難しいかな~…ごめんね、じゃぁ…」


 それだけ言ってゆっくりとドアを閉めようとしたその時―――、


 ガッッ‼


「あっこら、足を挟むのやめて?!」


 棒立ちだった八重桜さんの足が一瞬にして玄関と扉の隙間に食い込んできた。八重桜さんが急に動き出しだした、めっちゃ怖い。上半身は全くブレずに足をサッと滑らせてくる挙動は不気味だ。


「・・・」

「うーん、八重桜さん部屋を間違えてたってことはさ同じマンションに自分の部屋か知り合いの部屋があるって事だよね?今日は急すぎて全然準備もしてないしそっちで何とかならないかなー??」

「・・・」


 カツ、カツ、


「ちょ、」


 何度も扉を閉めようとするも挟めた足を引っ込めようとしない。どうやら入れてもらえるまでどく気はないらしい。さすがに強引に扉を閉めて足にケガさせるわけにもいかない。困ったなぁ。


「んー、なんか言ってくれないとわかんないよ…正直八重桜さんいつも何考えてるかわかんないんだよね。」


もうこの際だからハッキリと言ってやった。


「・・・した」

「えっ?」


 下を向き小さい声でもそもそと何かを言う八重桜さん、片足は扉の隙間にしっかり挟めている。思ったより中々に頑固者だ。


「・・・鍵なくしたって言ってる!」

「そっかー!ドンマイっ‼」


 自業自得だ‼


 完全に逆切れじゃないか!いつも無口な奴がちょっと大きい声を出すのはビックリするからやめてほしい。つられてこちらも少し大きな声で言い返してしまったじゃないか。


 八重桜さんもびっくりしたようで、一瞬肩が跳ねていた。そして再び扉を閉めようとしたところ…


「痛っ、」


 あからさまに顔をしかめる八重桜さん。もう本当に閉めますよ感を出す為に少し強めにドアを閉めようとしたけれど、全然足を引いてくれない。


「わかったよ。俺も女性の足の骨を折ってでも閉めだしたくはないし、話ぐらいは聞くからもう入ってくれ…」

「・・・」


 そういうと遠慮なく扉に挟めた足の方からぐいぐい中に入ってきた。無論俺の好感度がダダ下がり中の八重桜さんを泊める気なんて一切ない。一緒にいるだけでも窮屈な感じがする。事情やらを聞くだけ聞いたら申し訳ないけどネカフェでもすすめて素直に出て行ってもらうつもりだ。


 一人暮らしの1LDKにクラスメイトの異性と二人きり。普通の男性ならきっとドキドキすること間違えなしだろう。相手が八重桜さんでなければね。


 俺に続き恐る恐る部屋に踏み入れる八重桜さん。


「ちょっと散らかってるけど気にしないで」


 なぜ、俺が気を遣わなきゃいけないのだろう…同い年ぐらいの異性を部屋に入れるのだからソワソワしたって仕方がないものだろうか?


 部屋の真ん中にある四角いテーブルを挟み対面で座る。俺は正座、八重桜さんは体育座りをしている。


「・・・」


 案の定沈黙。き、きまずすぎるって…


 いつもサイドテールの八重桜さんはプライベートやお部屋では髪を結ばないのか今はロングヘアーだ。長い黒髪に猫背で体育座りする彼女はもはや謎の塊と化していた。


 モゾモゾッモゾ


 なんだこの状況は…というか入れてくれてありがとうの一つもないのか。それに先ほどから八重桜さんのぶっきらぼうな言葉に少しモヤモヤしている。


「・・・」


 出来ればこれからどうしたいのか八重桜さんの方から教えてほしいのだが、このままではらちも明かないので一旦お水を出し俺の方から質問することにする。


「えっと、部屋の鍵はどこで無くしたの?」

「・・・わからない」

「部屋を空けてどこに行っていたの?」

「・・・コンビニ」

「じゃあ、コンビニと部屋までの通りにある可能性があるね」

「・・・」

「一旦そのコンビニと家までは探したんだよね?」


 無言でコクンとうなずく八重桜さん。


 何だか迷子センターで子供に質問しているみたいだ。経験はないけど多分こんな感じじゃないだろうか。


「とりあえず管理会社に連絡しよう。万が一誰かの手に渡って何かがあったら怖いからね。」

「・・・」


 一方的に質問攻めをして問いただしていると何だか悪いことをしている気分になる。


 とその時。


 グゥゥウウ~

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