第2話

 よしっ、今日もバイト頑張るぞ


 そう思いながらバイト先「つむぎ書店」に向かっていると、


 前方の道に下校中の学生らしきギャルたちがいた。この時間帯部活動に入っていなければどの学生も大体帰宅する時間帯だからなぁ。


 ……それにしてもけしからん‼ なんなんだあのスカートの短さは‼田舎じゃひざ下が校則で、カースト上位の女子だって膝上ぐらいだったぞ。都会の女子学生はもうパンツが見えそうというかパンツじゃないか!目のやり場に困る。


 所詮高校生上がりの俺はけしからんと思いつつも神様に感謝してから、血眼でギャルたちを凝視した。角度によっては下尻ぐらいは見えるのでは⁇田舎っ子男子には刺激が強すぎるぜまったく。


 進む方向が一緒でギャルたちが俺の前を歩いている。たまたま視界に入ってしまっているだけだ。見るぐらいは…許されるよな?


 ってもうこんな時間か!出勤時間まであまりないので少し惜しいが足早にギャルたちを追い抜いた。


 しかしまぁ、最近は暑いよな、、、もう夏の7月だし。こうして歩いているだけでも額に汗が滲みでてくる。田舎と比べてただ暑いというよりは人込みや交通量もあってか暑苦しいって表現が適切かもしれない。歩いて目的地に行くだけでもスムーズにたどり着くには工夫をしなきゃいけないのだ。


 ウィーン。


 「つむぎ書店」の自動ドアが開かれると、ふわり心地のいい冷気に包まれる。やっぱり書店はこうでなくちゃ。冷房も効いてるしオルゴール風のBGMも素晴らしい。俺はこのまったりとした書店の雰囲気が好きだ。


「いらっしゃいませ~って、秋月くん!3分遅刻よ、はやく着替えてきて~」


 目の前でむすっとした顔をしてるのは、先輩書店員の橘蝶子たちばな ちょうこさん。栗色のポニーテールで俺の教育係でもある。どうやら本の補充中らしく積み上げた本をだき抱えて店内を歩いていた。


「げっ、ほんとだ。……いやぁハニートラップにかかってまして」

「う~ん?何言ってんだはやく着替えろぉ~?」

「…はい、すみません~」


「…じゅう、きゅう、、、はち、、、」

「へ? いきなりどうしたんですか、橘…さん⁇」

「秋月くんの死へのカウントダウンをしてるんだよぉ~」

「⁉ッ だよぉ~じゃないですよ! 余命十秒前とかえぐすぎますって」

「なな~」

「い、急ぎますから!!!」


 俺は慌てて事務所に向かった。


 橘さんは見た目と口調はおっとりとしているもののしっかりとしていて、まさに頼りがいのあるお姉さんって感じの人である。見た目が可愛いか美人かと二択を問われたら美人の分類だ。補足、かなりお胸がたわわです。


 お客様への愛想も良く、特におじさまのお客さんと仲良くなるのが上手い。実際橘さん目当てで書店に通っている常連もいるぐらい人気があるのだ。


 どうしておっとり系のキャラって胸が大きいのだろうか、いや胸が大きいとおっとり系のキャラになるのか⁇きっと膨らむ過程で母性なども湧いてくるのではないか説が俺の中では濃厚だ。


 実際に歳も確か4つ上で22歳の大学生だったはず、前に店長がボソッと言っていたのを覚えている。女性に年齢確認をしてはいけないというのは、男性用義務教育で習う基本中の基本だと誰かが言っていた。知らんけど。


 荷物をロッカーに入れ、書店員の制服であるエプロンを着用して売り場へと向かう。


「お待たせしました~」


 ちなみに十秒なんて余裕で越えてしまっているが、橘さんも気にしていない様子だ。


「うん、じゃあ今日はさっそくだけど二時間レジおねがいね。そのあと私と交代するとき指示出すから」


「ん~わかりました…」

「そう渋い顔しないの」

「は~い」


 さっそくレジに向かおうとすると、


「あ、ちょっと待って」


 と橘さんが急に近づいてきたと思ったら、エプロンの背中の紐を結び直してくれた。どうやら結びが甘かったようだ。その際ふわっとフローラルのようなお花の香りがしてむず痒い気持ちになる。それにお姉さんに結んでもらっている弟のようで少し恥ずかしい。いってくれたら自分で結ぶのに…少しおせっかいなところも年上のお姉さんって感じだ。


 書店に入りたての頃も、恥ずかしながらもいつも橘さんに結んでもらっていた。今思うと初日に「後ろでリボン結びっていったいどうやるんだよ⁉見えないし」とかグチグチ言っていたら、「しかたないわねぇ~ほら後ろむきなさい」とか言ってささっと結んでくれたものだ。


 こういった橘さんの姉味にはドキドキさせられてしまう。もしも橘さんが俺の本当のお姉さんだったら毎日甘やかされて、俺もたくさん甘えちゃったりして幸せだろうなぁ~


 …っといかん。今日は最初にレジ二時間か。俺レジ業務苦手なんだよなぁ。 いや厳密には接客だが。


 つむぎ書店のアルバイトに応募した時、あわよくば大好きなライトノベルやコミックスに触れられたらいいなと思っていた。するとなんと、そのあわよくばコミックサブ担当を任されたのである。ラノベや新文芸などもコミックの管轄だ。それはもう飛び上がるほど嬉しかった。


 面接の時にラノベやコミックが大好きですってアピールをしたかいがあったぜ!


 しかし理由は現在コミックサブ担当を務めている大学四年生の橘蝶子さんが大学を卒業し、就職するので引継ぎ要因が欲しかったとのこと。せっかく仲良くなったのにすぐいなくなってしまうのは悲しいが仕方がない。因みにメイン担当は入荷がある朝に新刊の品出しや引継ぎを済ませて大体入れ違いで退勤している。


 そのあと俺が引継ぎ指示をこなしつつ、主に棚のメンテナンスとポスターやPOPの飾り付けなどオタクには嬉しい業務ばかりだ。


 と喜んだのもつかの間、書店員がまず最初に覚えるべき仕事は接客とレジ業務である。当たり前だが販売業なので何よりも優先すべきはお客様だ。


 ただ陰キャオタクの俺が人前に立つのはかなりハードルが高かった。書店なのであまり大きな声を出さなくてもいいのは助かるが、この本ありますか?などの問い合わせや電話への対応。レジに並ばれた時は急がなきゃと焦ってあたふたしてしまう。お店には申し訳ないが、正直あまり混まなきゃいいなといつも思う。


 それでも大好きなラノベや漫画に触れながらお金がもらえるし、帰りにそのまま新巻を買って帰ることができると思えばバイト先をここに決めて良かったと思う。


 今はまだ研修中の身なので隣のレジには店長が入ってくれているが、それはそれで緊張するんだよなぁ。


「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませ~」


(あっ、あの子は…)

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