無口な彼女は秘密が多い。
菓子月
第1話
「…な、なんだとっ⁉ まだこんなに人間が生存していたのか⁉」
そう思ったのは約三か月前、両親の反対を押し切り地元のド田舎から東京に上京した俺こと
だって、そりゃ驚くよ。地元じゃ道行く人々はご年配の方々で、一日中外をお散歩しててもすれ違う人を数えきれるくらいの人口密度。そんな過疎化が進んだ町で18年も暮らしていたのだ。一応町だったが、どちらかというとあそこは村に近いんじゃないかと俺は思っている。
上京初日つい地元感覚ですれ違う人に「こんにちわ~!」なんて声を掛けて歩いてたら周りに変な人を見るような目で見られたのは恥ずかしい思い出だ。地元じゃ道行く人みんな顔見知りが多かったしなぁ。
もちろんそこまでして上京してきたのには理由がある。地元が嫌になったとかではなく、田舎者のあこがれでよくある「夢を叶える為」というやつだ。
その夢とは何か…ズバリ「イラストレーター」になることだ!!
昔から漫画やアニメ、ライトノベルなどのサブカルチャーが大好きだった、つまり俗にいうヲタクである。自分でも描きたい!そう思ったきっかけは、自分が幼いころ描いた絵を色んな人に褒めてもらったのが嬉しかったからとかそんな些細な理由。
ただ昔はヲタクであることを周りに隠していたし、好きなキャラクターのグッズはもちろんのこと絵だって親にまで隠れて描いていた。
今でこそ何の抵抗もないが、何故かあの時の俺はヲタクである事を恥ずかしいと思っていたらしい、こんなにも素晴らしい文化なのに…もし過去に戻れると言うなら何をコソコソしていたんだと自分をぶん殴りたい。
高校を卒業すると、就職か進学の二択。どうしても諦められなかった俺はすべてを両親に話した。案の定、間接的に将来絵を描いて食べていきたいなどと言ったものだから当然両親は驚いていた。母はそれでも納得してくれていたが、父とは少し喧嘩をしてしまい今だに気まずくて連絡をとれていない。
けどこうして今、無理いって希望の東京にあるデザイン専門学校に入学をさせてもらったわけだから、両親には感謝してもしきれない。
ただし、学費と家賃は払ってやるから一人暮らしの生活費は自分で稼ぐ事。それが唯一の条件だ。バイトをしている今だから大変さがわかるのだが、専門学校って年間で100万以上もの学費がいる。ここで改めて親の偉大さを知った、改めて言おう。
本当にありがとう。
もちろん実家通いの人や仕送りをしてもらったりしてる人もいたり、なかには自ら奨学金という形でお金を借りて入学している生徒も中にはいるはずだ。流石にこれ以上は甘えてられない。むしろ自分は恵まれていると自覚した方がいいだろう。
「ふぅ」
もうすぐ8校時目が終わる、時計を見ると現在約16時15分。17時からはバイトかぁ。
「秋月おつかれ!おぉ相変わらず赤と黒の服装キャラとかゴリゴリの中二病イラストだな~」
「うるせ、かっこいいんだからいいだろ!そしてこの左手の包帯も内なる力を封印してるって設定だ。ってかまだ授業終わってないぞ」
「あと15分だし、自主制作時間なんだから許してよ」
そう話しかけてきた彼はクラスメイトの一ノ
「今日もこれからバイト?」
「まぁね」
「働くねぇ」
「食費とヲタ活資金稼ぎはしないといけないからな、特にヲタ活はお金がかかるんだよね」
「あんま無理はすんなよ、」
一ノ瀬は心配そうにこちらを見ている。本当にいいやつだ、変態だけど。
「大変な事もあるけど楽しく働かせてもらってるよ、ヲタクの俺にはもってこいの職場だからね」
「だといいけどさ。今度バイト休みの日、放課後飯にでも行こうぜ!」
「わかった。また今度誘ってくれたら嬉しい」
「もちろんだよ」
結局談笑が弾んで話しているうちにちょうど授業も終わったので、一ノ瀬にまた月曜日と告げ学校から徒歩20分のところにあるバイト先「つむぎ書店」へ向かった。
「………」
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