幽霊ラジオ
藤泉都理
幽霊ラジオ
XY局の電波とYZ局の電波。
二波の電波に乗ってラジオ放送番組は流れていたのだが、XYの電波は山間部にも回り込んで広い範囲に届く半面、アンテナが大型で広大な用地が必要で施設維持費が高く、経営が厳しくなってきた今、一時的に全ラジオ放送番組が休止されてしまったのだ。
その間に、経営状況を改善しようという事らしいのだが。
もしかしたら、廃止されるかもしれないとも言われていた。
「はあ~あ~」
ちゃぷりちゃぷり。
深夜の事である。
風の向くまま波の行くままに小舟を自由に動かせていると、湖のただなかに辿り着いた少年は仰向けになって胸に乗せていたラジオの電源を入れ、今は休止されているXY局が放送していたラジオ番組のチャンネルに合わせた。
ラジオ朗読である。
お気に入りの声優さんがリスナー自作の短編や、リスナーが読んでほしい短編をその心地よい声で読み上げてくれるのである。
週に一度のこの朗読を楽しみに生きていると言っても過言ではなかった。が。
無音である。
ぶーぶーぶーぶーむーむーむーむーという電波音すら聞こえない。
聞こえなかったのだ。
つい先日までは。
カタリ。
四本足の椅子を動かしたかのような音が聞こえたかと思えば。
アババババババババババババ。
劈くような叫び声が聞こえて来た。
幽霊族の声だな。
小舟の傍らで姿を見せてくれた人魚が教えてくれた。
今日もほら。
「お。今日も来たのか。不良少年」
「失礼だな。品行方正な少年です」
「こんな深夜に恐ろしい人魚が居る湖にたった一人で来ている少年のどこが品行方正なんだか」
「だって。ここでなら、俺がお気に入りの朗読番組が聞こえるって。言ってたから。販売もされてないし。ラジオでしか、聞けないから」
「………仕方ないやつだな」
「今日もお願いします!」
「おう。ちゃんと報酬は持ってきただろうな」
「はい!梅酒!」
「よしよし。じゃあ」
幽霊族の言葉は人間にはわからないので、人魚に通訳してもらっているのだ。
どうやら偶然、幽霊族のラジオ番組がこのラジオのこのチャンネルに合流したらしい。幸運な事に、朗読を流しているとの事。
人魚はその幽霊族の朗読を通訳してくれているのだが、お気に入りの声優さんと全然違って、ぶっきらぼうで、つっけんどんで、全然癒されないのだが。
寂しさは少し薄れるような気が、する。
来週もまたこれを聞く為に頑張ろうと思えるような気も、する。
「わあ。ありがとう。今日はちょっとしんみりしちゃったけど、聞けて本当によかった」
「ま。話し手が素晴らしいからな」
「幽霊族の短編が素晴らしいからね」
「………はあ~ん。そんな態度取るやつには、通訳してやんねえぞ」
「人魚様も、幽霊族様も素晴らしいからです」
「うむ。感謝しろよ。じゃあ。沖まで連れてってやる。つーか。沖に着いたら俺に知らせろよな。危ないっつってんだろうが」
「だって、偶然辿り着いたところでしか、聞けないって」
「まだ諦めてないのかよ」
「うん!」
「………痛い目に遭わないとだめらしいな。はあ」
「大丈夫だって!じゃあ!帰りはよろしく!そして来週も通訳よろしく!」
「声でけえ。何時だと思ってんだ。ったく」
「面倒だが、仕方ねえ。か」
少年を沖まで送った人魚は人間に化けて少年の両親に今迄の事を話し、きつくお説教をしてもらい、もう二度と湖に来ないようにしてもらおうとして、早々に実行したのわけだが。
「何でこうなる?」
翌週の事である。
小舟の乗船者が、少年だけではなく少年の両親も加わってしまったのである。
「「「ほらほら。早く通訳してくださいよ」」」
「あ~~~。早くXY局復活しろ!」
「「「「ほらほら。幽霊族が待っているから」」」
「ばかたれ。待ってるかって………の!」
(2024.6.2)
幽霊ラジオ 藤泉都理 @fujitori
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