「わたし」の隣の家では、夕方五時になるとそこの少年・慧くんが、ヴァイオリンの練習する音色が聞こえる。彼は母親や周囲から、強く期待されるほどの天才だった。普段と変わらない日常の光景から、段々と天才少年の心の中へ入っていくような短編現代ドラマ。平坦な語り口調からの、描写の美しさとエピソードの残忍さにぞくぞくします。持てる人と持てない人とでは、それぞれの苦しみがあり、それはなかなか分かり合えないことかもしれません。持てる人の孤独感、その深さと清らかさに眩暈がする一編でした。