第2話 オークションでの出会いと、死ぬ位なら

俺は23歳だ。とりあえず、入社して、一年……。


「まだ一年かあ……」


世間じゃ昔三年経って一人前、みたいな風潮だったのに。だんだんと。


三年経って技術を身につけたら疲れたり、ほかの会社に移るんで辞めます、さようなら。


という、「根性がない」社員が増えた。


「今じゃ転職といい条件、スキルアップ、ホワイト企業があたりまえだもんな……」


うつ病や自殺者が増えたり、認知されてきたのが大きいのか。


今の世間じゃ「死ぬくらいならやめろ、学校も会社も行かなくていい」みたいな風潮だ。


「俺も、あのままだったら、電車のホームとか屋上とか、彷徨ってたのかな……」


俺は暇になって久しぶり、つっても二、三日くらい前にログインしたばかりだけど。フリマアプリやオークションアプリを巡回することにした。


「と、その前に……」


Twitter、Twitter。


「はあ?!」


〈ローゼンメイデン 第三ドール翠星石 鋭意製作中! ご期待!〉


「……ローゼンメイデンって……」


不登校だった俺が、深夜に何気なくハマったアニメだ。

人形師ローゼンていうイケメン? が作り出した七体のドールが至高の少女、アリスになるために。ドールの姉妹同士で争う。

そんな感じ。ざっくり説明しとくのはオタクみたいで恥ずかしいから。


主人公はとある理由で学校で粗相をしてしまい、重圧から学校に行けないでいる。


そんな主人公の元に現れるのがローゼンメイデン 第五ドールの、ローゼンメイデン一、最も気高いドールだ。


あの頃、漠然と考えていた。


俺も人形師になって、理想の娘を粘度とか石膏とかで作って、何かの〈お父様〉になりたい。別に女に興味が持てないとか、エロい体が作りたかったわけじゃない。ただ、出会いが憧れだった。


フリマアプリとオークションアプリを巡回する。


「真紅……!」


そこにはかつてみていた漫画のドールを再現した「キャストドール」なるものが取引されていた。値段は。、


「三十万……、買うか……、買えるかよ……」


馬鹿。何その気になってるんだ。


そもそも、俺の求める心の中の真紅と、目の前の真紅は、……顔の好みが違う……。


ん?


〈四十センチ ローゼンメイデン ドールの鞄〉


「うそだろ……」


あの頃の記憶が蘇る。


ローゼンメイデンはカバンの中で膝を折りたたんで眠りにつき、次の目覚めとマスター(契約者)との出会いを待つのだ。


俺は、貯金も何もない。


買おうなんて思わない。


けど……。諦めきれなかった。


さらにいろんなアプリで


「ローゼンメイデン キャストドール」


と入力していく。


すると、


「!」


十五万!


出品されたばかりの、未開封品らしい。


何か裏があるんじゃないか。


と、心地よい雨音が聞こえてきたと思ったら一気に土砂降りになる。そういえば台風一号が迫っている。


「まじかよ、車洗車したばかりなのに」


あまり安すぎても怪しい。高すぎても手が出ない。


そこで俺は久しぶりに熱中していることに気がついた。


「俺、生きがい見つけたかも……」


しかし、全部二十万以上する。さっきの十五万もあっという間に十八万になった。


「おいおい、そんなに、お宝か? プレミアがつくのかよ……」


そして、検索をかけているうちにうちにもう一体出てきた。


「水銀燈……っ!」


お前まで!


一体いつ発売されたんだ。どうしてこんなに高いんだ。


俺は「キャストドール」とやらのサイトを調べてみた。

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