第5話 愛してくれるまで、あの人に勝つまで

「アイだ。君の名前。愛。いくらなんでも君は愛情が偏り過ぎてへんな要求をしてくるからね」


「嬉しい! 私の名前! 愛ね! 響! たくさん愛してね! 私の事、たくさん感じて覚えて!」


そういうと、愛は響の手を取り真っ直ぐな目で見据えてくる。


「……君のモデルは誰なんだ……」


「開発者はあなたの父親。望よ」


「? そんなことしてたのか? いつも家にいたぞ」


「あなたの母が科学の力で医学界と共同で人工心臓を製造。財政界で力のある望は趣味で男のロマンを友人に頼まれて作ったのよ。型番はほとんどが私だけれど」


響は心の中で何が冷めた。


「なんだよ、男のロマンって……」


「『理想』よ。私は、あなたの理想になるわ、響、ねえ、またして? すごく欲しいの。愛してる」


「ダメだ」


「どうして、こんなに欲しくて疼いてたまらないの、ホントは響の……」


「ストップ」


愛が、ゆっくりと落ち着いていく。


「どうしてすぐ、そのモードになるんだ。プログラムを書き換えたい。パスワードのヒントは?」


「誕生日じゃないわ。銀行の暗証番号でもないわ。金庫のナンバーでもない。私は特別にしてもらったの」


「……」


「ねえ、だから、うんと、シて?」


響の指を口元に近づけると、口に含んでデンプンの混ざった唾液で舐め始める。


「響のものになるから、ね? 私の事愛して? 好きにしていいの。可愛い声も出すわ。私、がんばるから、んっ、ねえっ、はぁ、ん、響……」


「……やめてくれ。今日は、これから、出掛ける。こんな汚い事二度とするな」


そう言いつつも、響は、手を、ゆっくり引き。


愛の生成された擬似唾液はとろ、っと響の指から糸を引いて愛の唇に戻る。


しかし、もう、


「ねえ、響。ミて……」


愛が机にお行儀悪く腰掛けて、お行儀の悪いポーズを取る。


「ミて? ココで、響と、デキるのよ。たくさん、いつか、奥までキてね?」


響は恐ろしくなって部屋から出る。


こんな淫靡なアンドロイドは知らない。

女も知らない。

一体、「愛」をどうすれば……ッ


「どうすれば……?」


今まで、一度も、最後まで勝てなかった。


あの男に勝てるのだろう……。


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