第8話 仕事
「ご主人様は、早く佑さんに会いたいと
食べ物の容器を洗い終えたロボットは背中の蓋を閉め、するするとTシャツを着ている。
「俺……、その主人に、奉仕しなきゃいけねえの……」
仕事を終えて帰ってきたロボットを見て、佑にはその事実がどうしようもなく突き付けられていた。
佑はいずれ、佑を、佑の中の伊吹を傷付けた主人と食事を取り、好きでもない音楽を
「ええ、残念ですが、そうなる可能性は否めません」
ロボットはこちらに少し近付いてくると、膝を付いて佑に視線を合わせる。
「ご主人様のお
「ああ、そう……」
佑は今、実質一人きりで謎の屋敷に幽閉されているのだ。使える情報と力は最大限に使っていくほかない。
「しかし、実は今晩、ご主人様と佑さんの顔合わせをすることになってしまいました」
「今晩……」
ロボットはさっき茶会に出ていたのだから、今は恐らく夕方以降――。
「ここには時計がありません。時間が知りたければ私に聞いてください。今は二〇六八年九月十六日の午後五時二分で、顔合わせの約束の時間は午後八時です。申し訳ありません。これでも引き伸ばしました」
「ああ、いや……」
ロボットは最大限できることをしてくれたのだろう。主人は顔合わせどころかもっと多くのことを要求していたはずだ。
「大丈夫です。顔合わせには私が一緒に行きます。服はOTOGAYA Tasuku用のものが届くまでは多少汚れていても構いませんし、今の佑さんの表情は、私に組み込まれている表情生成ソフトの無料版が作り出す表情にそっくりです」
ロボットは「これとか」と言って、『ブス寄りの虚無』の表情になる。
「はっ……」
――正直、ほんのちょっとだけ面白い。
ロボットは、本当に伊吹ではないのだろう。
「あらあら、そのような笑顔は有料版です。ご主人様が課金をなさるまではこれでいてください」
ロボットは、今度は『寝起きに五秒で作った粘土細工【笑顔】』の顔になる。
「ぶは、はは……」
「だから笑いすぎです。こうです、こう」
次は『右斜め下から爆風を受ける恐らくイケメン』――。
佑はそれから約束の時間まで、ロボットに笑わされながら、無料版の表情を練習した。
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