第6話 呼び出し

「ご主人様が私をお呼びです」

 佑が水を飲む横で服を畳み直していたロボットが、不意に呟いて立ち上がる。

 ロボットの主人が、伊吹の身体からだを使って――。

 いや。

 ロボットは伊吹ではない。

 そして、伊吹の顔を無断で使ってロボットを作ったメーカーと、主人がそれを知りながらロボットを買ったであろうことは別として、主人がやっていることは伊吹の映る映像や写真を楽しむファンとほとんど同じだ。

 ロボットは、伊吹ではないのだ。

「ご主人様が私に用があるときは、ご主人様のスマートフォン等からインターネットを通じて私に連絡が来ます。人間でいうと電子メールのようなものですね」

 ロボットは主人に会う支度したくのためか、服に普通の粘着クリーナーをかけながら説明する。

「佑さんはインターネットに接続できませんので、ご主人様にはシステム上の問題があると言って、私から伝言する形で連絡を取ることにしていただいています」

「は……」

 軽石を水に沈めようとするような心地でロボットを見ていた佑の口から、わずかに息が漏れる。

 佑さんはインターネットに接続できませんので。

「ええ、私はジョークを言いますよ。佑さんがお好みでしたら、増やしましょう」

 ロボットは『野原の黄色い花』の顔で笑うと、壁の大きな四角形を開け、部屋の中と同じ白色の廊下へと出ていった。

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