第6話:地球へ

繋は仲間と別れたあと、フリッグに連れられて異空間へ移動した。


そこは、ひたすら真っ直ぐと続いていており、真っ白なトンネルのような空間だった。


2人の歩く音だけがカツンカツンと鳴り響く。


繋は仲間と別れた後、ずっと無言になっており、すぐ横を歩いていたフリッグは同じく無言のまま横目で繋の様子をたまに見ていた。


しばらく歩いた後、繋はひたすら歩いていた足を急に止めて元来た道の方に身体を向ける。


頭の中でずっと考え事をしているのか繋はフリッグの存在を一時的に忘れている状態のようで、繋は元来た道を少し呆けたように眺めていた。


そして、おもむろにスノトラから貰った杖を宙から出し、ヒョードルから初めての誕生日に貰った魔法のトランクも出現させる。


確かめるように杖とトランクを見たあと胸元のペンダントを取り出す。


ペンダントを右手の人差し指と親指でなぞった後、左親指に着けたリングを確かめる様になぞった。


繋は仲間達のことを考えていた。


つい先程まで居た大切な仲間達を。


(・・・寂しい)


寂しい・孤独という感情が繋に襲い掛かる。


仲間から別れを惜しむ言葉を別れる最後までたくさん貰った。

それだけでなく、大事な贈り物も貰った。


たくさん。

たくさんのものを貰ったのだと繋はしみじみ思った。

 

最後の最後に、仲間一人ひとりと抱き合い健闘を祈られ、見送られたとき別れ際の仲間の一人一人の顔を思い出し、少しだけ悲しくなった。

 

一緒にずっといたからなのか、実は今でもすぐ後ろに居るんじゃないかと後ろを振り向いてみたが、もちろんそこには誰もいなかった。


(間違いなくそこに居たんだ・・・)


長年共に旅した家族と仲間というのもあるのだろうけど、いつも傍にいてくれた人たちが居ないというだけで不思議な感覚に陥った。


つい先ほどまで一緒にいたのだと繋は立ち惚ける。

 

繋ぐはこの世界に来るまで、異世界なんてSFだと思っていたし、初めの頃にこれは自分の夢の中で、本当の自分は病院で寝たきりなんじゃないかと思った事だってある。


それを思い出し、これももしかしたら自分の都合の良い夢なんじゃないかと思ってしまうほど酷い喪失感に苛まれた。

 

繋は杖を握りしめる。


これで最後じゃないはずなのに。

 

また、会える可能性はあるのに。

 

それでも、心に穴が空いたような気持ちになってしまう。


最初はスヴィグルとたった2人だけで始まった魔王討伐の旅。


途中で参加してくれたヒョードル。


その後に魔族の国の魔法学校で出会ったスノトラ。


最後に獣人族の村で出会ったベオウルフ。


そのあとも様々な人たちとの出会いと別れ。

 

死と隣り合わせな過酷な旅で途中嫌になることもあった。それでも旅の途中で出会う未知の体験に心が躍ったりして、なんだかんだ楽しい旅でもあった。

 

所謂ダンジョンのような物は無かったが、魔物が作った根城を討伐ついでに探索したり。


冒険の途中に雲の上に浮かぶ島を見つけて、スノトラと一緒に杖を使って他の仲間も空に浮かばせながら空中に浮かぶ島へ飛んで行ったりもした事もあった。

 

他にも海底神殿もあったり、山奥の古代遺跡にも行ったり様々な所を冒険したりもした。

 

次第に行った場所だけでなく、その時その時の仲間の表情や姿も思い出して。

笑みが零れた。


(大丈夫。これは夢なんかじゃない)

 

あの5人で過ごした9年間を思い出す。

大事で大切な宝物のような思い出達。


それがあれば、なんでも出来そうな気がするぐらい。

繋の心の力になる。


「大丈夫か?」


フリッグの声で繋は我に返る。


「うん。大丈夫」


さっきまで冷えかかっていた心が少し温かくなった気がした。


「では行くぞ」


フリッグは繋の不安そうな表情を見心配をしたが、何時もの表情に戻り安心する。


フリッグには分からないが、恐らく仲間との別れに今ごろ実感が追いついたのだろうと考えていた。

 

(それほどあの仲間との思い出は深く、絆が強いのだろう)

(良い者達と縁を結んだ)


フリッグは先ほどの別れの光景を思い出す。


(繋と出会う前のヒョードルも、スヴィグル達もあそこまで情に厚い人では無かったのだが、繋の存在はきっとあの者たちにとっても良い出会いだったのだろう)


フリッグは今までの繋の旅路を思い返す。

そして、改めて奇跡的な偶然で繋がこの世界に来てくれて良かったと。

巻き込まれたのは可哀そうだったが結果的に魔王討伐にも繋が居ていて本当に良かったとフリッグは思っていた。


元々魔王討伐という点だけなら別に繋は必要なかった。


その時代時代であらゆる種族から突如変異体として現れ、大きな魔力を持ち世界を滅ぼそうとする者を魔王と呼び、討伐するために魔王が現れた種族から何人もの勇者を討伐に向かわせるのが、この世界の人類が決めたルールだった。


妖精族と魔族から魔王が現れた場合は、強大な魔力に抵抗できるのが同じ妖精族と魔族しかおらず。

獣族から魔王が現れた場合は、強靭な肉体に対抗できるのが同じ獣族のみであり。

人族から魔王が現れた場合は、人を支配する能力を持ち、群で侵略してくるため、同じように各種族の中で人口数が多い人族で対処する必要がある、


フリッグとしては、各種族間で手を取り合って欲しかったが、神が直接人間の文明に関わることは出来ないため、見守ることしか出来なかった。


だから今回の魔王討伐も今までの例と変わらず、人族の魔王が出現したら人族の勇者が。

 

妖精族側で魔王が出現したら妖精族側の勇者が討伐しに行く。


魔王を中々倒せず、討伐を担当していた種族が壊滅しかけた時代だってあった。


そして今回の時代では獣族の中の獣人族から魔王が現れた。

それも今までの種族の魔王の力を合わせ持って。


最初は獣族が対応していたが、次第に獣族では対応出来なくなり、妖精族も人族も魔王討伐に向かうことになったのだ。フリッグは今回こそ、種族間の垣根を超えられると思っていたのだが、結局各種族で組んだ勇者達が討ちに行くだけで、今までと変わらなかった。



そんな中だ。


スヴィグル勇者一行が魔王を討伐した。


人族の勇者一行ではない。


人間と妖精族、魔族と獣族が手を取り合って魔王を討伐したのだ。


前人未踏の出来事に各種族の国々が盛り上がった。


そしてその裏の立役者が繋だった。


本人にそのような自覚は一切ないし、何か目立った事をした訳ではないのだが、あの子の人柄がたまたま今回他の種族達との手を結びつけた。

 

何度も言うが特別な事は何もしてない。

 

ただ、普通に会話をしただけ。

 

他人とのコミュニケーションを続けただけ。

 

そういう所がフリッグは好ましいと思っている。


優しすぎるのがたまに傷だし、あろうことか魔王として覚醒する前の状態の者とさえ対話して戦うのを止めようとしたぐらいだ。

だか、そういったありきたりの普通が今回の仲間達と縁を結んだきっかけになり、前代未聞の他種族パーティーを組むことができたのだ。


それだけではなく、スヴィグルと繋達の活躍のお陰で各種族の国の交友の切っ掛けにもなった。


やっと今まで互いの壁を壊し、世界はようやく新しい時代を迎える事が出来るようになったのだ。


(だが、しかし)


この頃の世界の動きがおかしいとフリッグは密かに悩んでいた。


今回の魔王は歴代の魔王より異質だったこと。


度重なる地震と合わせて世界の境界線に緩みが多くなった等など、神として把握し切れないイレギュラーが増えつつあった。


そんな状態で繋を地球に帰すのも悩みに悩み、それでも今ある手段で比較的に無事に帰すとなると今回の日食の時ぐらいだったため、仕方無く決行したのだ。


繋の両親が亡くなったことも、その後死人が蔓延る世界になったのも知り合いからの情報で分かったのだが、繋が此方の世界に来た時にも「大規模な地震」が地球であったのだと聞き、それが原因で事故が起きてしまったのだと知った。



フリッグは顎に手を当てて考える。



今までは魔王関係のことであまり動けなかったが、これは色々調べる必要があると。


今までも、繋以外の人間も色んな世界から、こちらの世界に紛れ込んでしまった事はあったが、殆どは適応出来ず死に、生き残ったとしても普通の生活を過ごし生を終える。


それが普通だった。


今回のように世界が大きく動く事など今まで無かった。


(世界意思の可能性と考えていたが、これは本当の本当であるかもだぞ)


もしかしたらと、繋を見て最悪の事態を想像する。


想像するが、もしなったとしても、神として出来ることは限られてしまう。

それにフリッグは歯痒くもなるが、その時になってしまっても、最善になるように何とか動くしかないのだろう。


そんな事を考えながらフリッグは歩き、「そういや・・・」と思い出し歩みを止める。

  

「そういえば、地球が死人だらけになっていると仲間には伝えたのか?」


それに繋はピタッと動きを止める。


(こいつめ・・・もしや)


「・・・言ってないです」


うっ。と繋は気まずそうに顔をフリッグから反対に逸らしつつ、みんなになるべく心配をかけたくなかったから。と言う。


こういう所だとフリッグは内心ため息をつく。繋としては、自分の事に関しては心配をさせたくないと思っているとの事だが、フリッグはそれに対して人の心配は人一倍するくせにと呆れる。


人の心配はするのに、心配はさせてくれない。

こいつには一旦自分がどれだけ大事に思われているのか何時か身をもって知るべきでは、とフリッグは思った。

 

そして、繋はフリッグに両手を合わせてこんな事も言ってきた。


「お願いだから、みんなには内緒にしておいてください」


「・・・・」


フリッグは思いっきり繋の頬を抓りたい衝動にかられたが、今に始まった事ではないと

自身を嗜め頷く。


「そろそろ着くぞ」


もちろん。


頷きはしたが、同意はしてない。


(覚悟していろよ。ケイ)


女神は心の中でニヤリと悪い顔で笑い、繋はそんな事も知らずに、良かった〜と安堵しその後ろを着いて歩いた。

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