第5話:かけがえのない存在達
「さっ! ワシ以外からも言いたい事はたんまりあるらしいぞ」
繋の背を軽く叩いた後、ヒョードルは他の仲間達の方に繋の身体をぐるりと向かせた。
「じゃあ! 私から行くね! 他の男共はうじうじ考えているみたいだし」
元気よく手を上げ次に切り出したのはスノトラだった。
スノトラは繋の前まで歩く。そして彼女は右手を宙に上げ、何もない空間から木で作られた170cm程の長さの杖を取り出す。
それは先端は鍵のような造形になっており、所々に魔法文字が刻まれており、持ち手には青と黒色の魔法布が巻かれていた。
「ほらケイ。手を出してみて」
繋はスノトラに言われ両手をスノトラの前に出すと、スノトラは持っていた杖を繋の手の上に置いた。
「スノトラ・・・これは?」
「魔王との闘いでケイの魔杖折れちゃったでしょ? 予備の杖は持っているだろうけど予備だと使いにくいだろうし・・・だから私が初めて作ったんだけどケイ用に調整して作った杖をあげる」
「スノトラが作ってくれたの?! それも初めて?!」
「そう! 接近戦でも戦えるように杖術に適した長さに調整したの。普段使いを考えて短くする事も出来るし、もし万が一壊れても私のと同じように神木から作ってるから、時間が経てば自動で修復してくれるわ」
ねえ。初めて作った割には自身はあるんだけどちゃんと使えるか試してみれくれる?とスノトラは繋に早速使ってみてくれとお願いをした。繋は自分の為に自作で杖を作ってくれたスノトラに驚きつつもスノトラの願いに答えるために受け取った新しい魔杖に魔力を流す。
通常新しい魔杖を使う場合は、所有者の魔力が杖に馴染むまで時間がかかるため、初めは使い勝手が悪く思うように杖の力を引き出したり魔法を発動する事も難しいのと、一応魔杖職人の中でも更に専任の魔杖職人を雇う事で、使用者の魔力性質や魔法を使う癖を知って貰い初めて使用者専用の魔杖を作る方法もあるのだが。
「なにこれ・・・凄い・・・。魔力を軽く通しただけで凄く馴染んでる」
するりと杖に魔力が流れ込んだ事に繋は驚いた。
そのまま試しに杖を伸ばしたり、縮ませたり、軽い魔法を発動させたりする。
それをスノトラは良かったと安心しながら見ていた。
(本来使用者の魔力性質や魔法を使う癖を分かっておかないと本人専用の杖は作れないんだけど、ケイと一緒に魔法を研鑽した甲斐もあってケイの魔力の性質がある程度分かってたのもあって良かった)
「すごい。本当にすごいよ! 魔法だけじゃなくて、杖を作ることも出来るなんて君は本当に凄い魔法使いだ!」
目を輝かせて何度も感動の言葉を出す繋にスノトラは思わず頬を赤く染める。
「ま、まあ! このぐらいの杖の作成なら普通だし? 私じゃあなくても出来るというか・・・・・」
「ううん。そんな事ないよ。杖の質だけじゃないよ装飾とかも全部こんなに素敵な杖を作れるなんてスノトラは魔法以外の才能もあるよ」
スノトラもここまで褒められると思わなかったため、思わず照れ隠しで偉ぶって見せるが、素直に褒め続ける繋にスノトラはとうとう我慢できず「う~!!」と喜びでにやけてしまう顔を隠しながら、その場から離れてしまった。
「あれ・・・?」
繋はスノトラに「ありがとう」と感謝の言葉を最後まで言えないままその場でポツンと立ち尽くす。
「気にするな。気にするな。照れ隠しだろうよ」
ヒョードルが繋の肩をポンポンと叩く。
「にしても流石スノトラだ。良く出来ている」
「だよね!」
スノトラは落ち着いた後、自分を褒めている姿を少し離れた神殿の柱の後ろで見る。
「は~あまったく、あの歳の割に素直すぎるものも毒よね~」
スノトラは柱に背を預けると繋との出会いを思い返す。
スノトラと繋との初めての出会いは魔道学校だった。
スノトラが在学していた魔道学校は純粋に魔法を学ぶためにと、有事の際に戦える魔法使いを育てる為の学校だった。
そしてスノトラの家系は魔法軍の家系という事もあり、魔法の勉強や魔物や魔獣と戦えるようになる為にスノトラもそこに通っていた。
彼女は当時の事を思い出す。
今でこそ周りからは魔法の天才等と呼ばれる事が多くなったが、学校に居た頃は天才とかけ離れた落ちこぼれだった。
補助魔法、回復魔法や攻撃魔法を周りの生徒達がどんどん覚える中、スノトラだけ何故か上手く魔法が使えず、初歩的な魔法でさえ何故か爆発してしまう始末だった。
スノトラは魔法軍という家系に誇りを持っていたからこそ魔法が不得意な自分を恥じた。勿論魔法軍の家系だからと言って、必ずしも魔法に長けている筈が無いことも知っていた。
現にスノトラの父は魔法はそこそこしか使えないのだが、槍術と魔法をかけ合わせた魔槍師で軍のトップだった。
父と他の家族と同じように魔法以外で得意なものが無いか探した。
他人より多くの勉強もした。勉強方法も変えながら沢山の訓練もした。
でも。結果は魔法を碌に発動する事も出来ないまま、同じ学年の子達が勇者パーティーに誘われ一緒に旅だって行く姿を遠くで見ているだけの毎日だった。
学校に在学してから2年目。初歩的な魔法がやっと使えるぐらいまでになった頃かスノトラに補欠の勇者パーティであるスヴィグルとケイ達から勇者パーティに入らないかと誘いを受けた。
スノトラは補欠の勇者メンバーとして誘われた時、無いにも等しいプライドで行くのを断った。
他に魔法が上手に使える子が偶々居なかったから。
無いよりもマシという事で私を誘ったのだろう。
でも、行ったところで何も出来ないし、役にも立たない。
魔法使いなのに魔法が下手。
そんな惨めな事はないと、泣きながら断って教室に逃げ込んだ。
そんなスノトラを追ってきたのが繋だった。
何しに来たの!と泣きながら叫んだスノトラに、困惑した顔をして、何も言わず少し間を空けたあと、繋は紅茶を出す魔法を出してくれた。
同じ魔法使いが居ることにびっくりしたスノトラは更に怒り、何それ当てつけ?!と繋に怒鳴った。
尚更自分なんて必要無いんじゃないかと。
そんなスノトラに繋は自分は生活魔法と補助魔法しか出来ないんだと言った。
攻撃魔法には適性が無く回復魔法もそれなりだけど。
だから、一緒に旅しながら頑張ってみない?と繋は言ってくれたのだ。
それから、勇者メンバーの仲間に入り一緒に旅に出ることになった。
「あの時ケイに誘われてヒョードルを紹介してくれたお陰で、魔法がうまく使えない原因が自分の魔力量が多すぎるせいって事一生分かんなかっただろうなあ」
柱にもたれながらスノトラは呟く。
それからは、繋とスノトラは共に魔法を研鑽しスノトラは天才と呼ばれるまでの魔法使いになり、後に繋が攻撃魔法や他に適正が無い魔法を繋専用の魔法としてオルタナティブ・マジックという代替え魔法を作り出し、繋自身も魔法使いとして実力を身につけていく事になったのだ。
「私を見つけてくれてありがとう」
なんて。
面と向かって言おうと思っても恥ずかしくて言えないし、暫しの別れだからという事で決心して言おうとするも今でもやっぱり言えやしない。
意気地無しと心の中で愚痴り、独り言のように繋に感謝の言葉を言う。
「お前。いつのまにそんなの作ったんだ?」
「ぎゃあ!!!」
ベオウルフはスノトラの背後に立って聞いてきた。
「急に後ろに立たないでよ!!」
「ぎゃあってよお・・・」
「いや、お前が一人でぶつぶつ独り言を言ってた時から呼びかけてたぞ」
「まさか聞こえてた?」
「まあ・・・」
スノトラは「もう!」と恥ずかしくなって両手で顔を覆う。
「まあまあ。んでよ。いつのまにあんな凄いもん作ってたんだよ」
一人で赤面して顔を覆っているスノトラにベオウルフは気にせず問いかけた。
「まったく本当にもう・・・。前々から作ってたの!本当は・・・ケイの誕生日に本当は渡したかったのよ・・・・」
スノトラは赤色の髪を撫でながら残念そうに答える。
それにベオウルフは「そりゃあ本当に残念だよな・・・・」と同じような声色で返した。
ベオウルフは旅の途中この魔王討伐の旅が無事終わったのなら、繋と平和になった後の世界で、各種族各地方の名酒を探したり飲んだり繋の作る美味しい異世界の料理でも食べながら冒険出来たら良いよなと以前繋に話しをしていたのを思いだす。
ベオウルフはズボンから銀色のネックレスを取り出すとそのネックレスを繋に投げ渡す。
「ケイ! ほらよ!」
「え?」
繋は突然の事に驚きながら「おっとと」と声を出しながら両手で投げ渡されたネックレスを受け取った。
受け取った物を見ると、それはシンプルな銀色のチェーンにライオンのロゴが入ったペンダントが付いていた。
「魔除けとか病除けのアクセサリーだ。俺の故郷で一人前の戦士になったら、そのアクセサリーをくれるんだ。んまあ俺はよ、この通り特異体質で頑丈だけじゃなく病気や呪いにも効きづらいからよ。だから、それをケイにやるよ」
本当はスノトラみたいにもっと気の利いた物を渡せればよかったのだが、ベオウルフが今スグに用意できる物があるとしたら、これしかなかったのだ。
でも、逆にこのペンダントで良かったのかもしれないと思う。
この優しい兄弟のような存在は自分が傷つくより、仲間が、親しい存在が傷つくのを嫌う。
ベオウルフの身体は攻撃を受けて傷すら中々付かない頑丈な身体なのに関わらず、繋は咄嗟の敵からの攻撃からベオウルフを庇ったり(その度にスヴィグル達に叱られていたが)、呪いの魔法をかけらた時は、ベオウルフ自身何ともないというのに自分の事の様に気にかけたりするわでベオウルフはその優しさを感じるたびにむず痒い気持ちになるのだった。
そして対話が出来そうな相手であれば、誰にでも、そしてあろうことか敵でさえも対話をしようとする。それぐらいこの繋って人間はどこか危うくも、優しいというかお人好しなんだと思う。
そういえばとベオウルフは思い出す。
スヴィグル達が獣戦士族の村に来た時だった。
魔物の呪いによりベオウルフ以外の村人達が衰弱していく中、村の中から怪しまれ村八分を受けていたベオウルフを気遣って関わり続けてきたのは繋だった。
各種族の中でも獣戦士族の村は外の人達と余り関わりを持たなかった事もあり、村人が衰弱していった理由が魔物の呪法が原因だったなんて知ることさえなかったのだ。そんな中ベオウルフだけ何も影響を受けていないのなら怪しまれて当然だったという状況だった。
なら村の外に出れば良いと思うかもしれないが、狭い世界で育ち生きていた為、外に出るという選択があると当時のベオウルフの中には無かった。
長い間村の中から村八分を受けていたベオウルフを人を信じる事が出来なくなり捻くれてしまっていた。
だから、魔物討伐でやってきたスヴィグル達が問題を解決した後ベオウルフを外に連れて行こうと手を伸ばしたがベオウルフはそう言った理由から誘いを撥ね退けたのだ。
スヴィグルだけじゃない。ヒョードルもスノトラも親切に何回も手を伸ばしてくれたがベオウルフはそれを拒絶した。
だって、今更外に出て何をすれば良いのか当時のベオウルフには想像も出来なかったし、今更どうやって人とコミュニケーションを取れば良いのか分からなかったのだ。
そんな中で何も言わずにベオウルフの生活に静かに傍にいてくれたのが繋だった。
初めは軽い挨拶から。それを飽きもせずに毎日続けてくれて、少し慣れ始めたら軽い日常会話を交わし、でもベオウルフが会話をしたくない日には静かに寄り添うだけでその日を終え、そんな日常を1ヵ月程続けて最終的に折れたのはベオウルフの方だった。
(スノトラと一緒だ。今のオレはケイの手を掴んでそして今の自分がいる)
ああクソ!とベオウルフは心の中で舌打ちをした。
それは。他のメンバーと違って繋と居た年数が短いのが悔しいと思ったからだ。
もっと早く会いたかった。
元の世界に帰ってしまう繋に行かないでくれと言ってしまいたかった。
でも、それは唯の我儘だ。
繋は死に別れた親の為に墓をたてるのだ。
それを俺なんかが邪魔なんてしてはいけない。
「ベオウルフ」
繋がベオウルフに声をかける。
「遊びに帰ってこれたらさ、いつか言ってた冒険に行こうね。アクセサリー大切にする!」
繋の言葉にいつの間にか俯いていたベオウルフはハッと顔を上げる。
何気なく話をしていた事を覚えてくれていたのだ。
その事にベオウルフは嬉しくなる。
「ベオウルフ。ちゃんと体には気を付けるんだよ」
(ははは・・・最後の最後までオレの心配なんて相変わらずだな)とベオウルフは少し呆れつつも、その言葉に胸が熱くなるの感じた。
よし。大丈夫だ。今なら笑って送り出せるとベオウルフは決心し笑って言い返した。
「その言葉そっくり返すぜ」
お互い笑いあいながら言葉を交わす。
そして二人は約束のハイタッチをした。
「ほらよ。最後はリーダーだ」
ベオウルフに振られたスヴィグルは後頭部をガシガシと掻いて、ああでもない、こうでもないと1人呟きながら悩んだ表情をしていた。
いくら待っても何も言わないスヴィグルに糸を切らしたのがスノトラだった。
「遅い!さっさと言いなさいよ!」
「わーってるよ! けどよお」
「なによ!」
「言いたいことが多すぎて纏まらん!」
スヴィグルは頬を掻きながら、しょんぼりとした顔で言う。
「そんなの他のみんなだって同じよ! さっさとぶちまけなさい!」
そう言ってスノトラはスヴィグルのふくらはぎ目掛けてゲシゲシと軽く蹴る。
「いてっ! こ、こら!やめろって」
「ベオウルフも笑ってないで止めてくれよ!」
「いんやスノトラの言う通りだぜリーダー」
なんだかんだ最後は賑やかだな繋はそんな光景を眺めながらヒョードルと一緒に笑う。そして繋は心なしか嬉しがっていた。今朝方スヴィグルに欲しい言葉を貰ったので別れの言葉は十分だと思っていたのだがスヴィグルは未だ言い足りないらしい。
「あ ーー!! 分かったわかった!」
やっと決心が付いたのかスヴィグルは自分の左手の親指に嵌めていた何の装飾もされていないシルバーのサムリングを外す。
繋の目の前まで歩くと繋の左手をとる。
「うん?」
「恥ずかしいから。少し黙っといてくれよ」
そして、スヴィタグルはついさっきまで身に着けていたサムリングを取り繋の掌の上に置いた。
これは?と繋が聞く前にスヴィグルが先ほどまでの恥ずかしくてぶっきら棒になっていた言い方から真剣な声で説明する。
「これは所謂願掛けというかお守りみたいなもんだ。スノトラみたいに気の利いた物じゃねえし、ベオウルフと似たようなもんを渡すことになって申し訳ねえが・・・」
「早いもん勝ちだな」
「うっせえ!」
途中ベオウルフが茶々を入れるがスヴィグルは続ける。
「これはな、何か成し遂げるためのお守りだったんだ。俺は魔王討伐の旅に出る前に仲間全員が無事で旅が終われるようにって。だから、今度はお前とまた会えるまでのお守りって事でこれをやるよ」
繋はそっと大事そうにリングに触れる。
そしてスヴィグルの方に顔を向ける。
そこには二カッと笑う彼が拳を突き合わせるのを待っている相棒がいた。
「兄弟! また会おうぜ!」
2024/12/27 加筆・修正 5166文字→6100文字
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