第3話:異世界に帰る魔法

渡繋(ワタリ ケイ)はという存在について。

勇者?=NO。

選ばれし者?=NO。

一般人を装った特別な存在?=NO。

ただの一般人?=YES。


たまたま事故の時に異世界に繋がる穴に放り込まれ、たまたま女神に拾われただけの他の人より運の良い一般人。異世界で生きるために必死に魔法を使えるように勉強し、鍛えた一般人。魔王を倒しに行く予定も無く、ヒョードルと共に他の村や国に行って魔物討伐の仕事を手伝う。

そしてゆくゆくは地球に一時的に戻るための魔法を調べたりする予定だった。


そんな繋の人生を変えたのがスヴィグルとの出会いだった。


スヴィグル=ハーキュリ。

今でこそ、勇者の威厳を出すためだ!なんて、顎髭を生やしたり身体や顔の彼方こちらに傷跡を負っているが、繋と出会う前はただのしがない農民だった。



スヴィグルと初めて会ったのは繋が23歳のころでスヴィタグルは当時26歳。

出会ってから魔王討伐が終わるまでの間10年間の間柄だ。


出会いの切っ掛けについてだが、ヒョードルが有名なモンクという事もあり中央国の王様より各勇者パーティの戦闘訓練をお願いされていた事もあり、その日もヒョードルの補佐兼勉強のため繋も付いていった。


本当は討伐訓練の先生ではなく、数ある魔王討伐のパーティのどれかに入ってくれないかと度々相談を受けていたらしいが、

ヒョードルは数ある勇者パーティや本命の勇者パーティの仲間に入る気はまったく無く、余った勇者パーティを助けるためのバックアップに専念したいと断っていた。


この、勇者パーティのバックアップというのは、


勇者パーティには人間族含め各種族から魔王討伐の援助金が大量に払われるのだが、過酷な度と生き残れるか分からない旅で、自発的に勇者として魔王討伐に行く人達が少なかった。

それで農民や一般市民を集め魔物討伐の訓練を行い、少しでも素質がある人を討伐に行かせていた。


非情に思われるような制度だったが、「魔王」を討伐出来なかった場合に待ち受けるのは、世界の滅びに繋がってしまうため仕方がない状況だった。



それでもやはり、戦闘経験の無い人間が討伐に行ったとしても、殆どの場合途中で逃げ出したりする事が多かった。


国も逃げ出す者たちがどうしても居ることには把握しており、リタイアしても良いように各国に勇者達をバックアップする為の拠点を作っており、そこで辞退をする事が可能だった。


ヒョードルは余った勇者パーティ達が途中でリタイアしても良いように各拠点で共有されている情報を元に助けに行くという事をしていた。




戦って死んでしまう。

その覚悟を持つための準備も出来ないまま、世の中の動向で感覚が麻痺しいつの間にか死地に向かう事になってしまった。

そんな人達を助けるために、ヒョードルは本命の勇者パーティには参加することを断り続けていたのだ。




毎日のように中央国へ行き繋は訓練場で負傷した訓練生を簡単な回復魔法で治療していた。



そしてそんな日が続く中、ある日、未だに魔物討伐が出来ないスヴィグルと出会った。



その日は偶然、訓練生がスヴィグルしか居なく、手持無沙汰で訓練場で魔法書を読んでいた繋を訓練生と上官兵士が勘違いし、魔物の討伐訓練に繋とスヴィグルと二人だけで討伐に行かされてしまったのだ。


 

繋は20歳になるまでには基礎的な攻撃代替え魔法や防御魔法、補助魔法をヒョードルから教えて貰っており、1人で逃げたり、自分の身を守るだけであれば問題が無かったのだが、片方は魔物を討伐した事すらない農民。


繋一人だけ逃げる事は出来ないし、スヴィグルをサポートするにも繋自身もちゃんと戦った事のない戦闘初心者で、スヴィグルに至っては訓練生なので戦闘シュミレーション等を叩き込まれてはいるが、実戦経験数が圧倒的に少なく、何より未だに魔物を倒したことが無い。



そして、お互いパーティ経験も無いため何をすれば良いかも分からない状態だった。


 

お互い無言で気まずいまま、魔物を討伐するポイントまで辿り着き、慣れないがらもお互い襲い掛かってくる魔物の群れを捌いていく中でスヴィグルが油断をして敵からの攻撃を受けそうになった時、繋が咄嗟に庇ったのだ。


幸い酷い傷ではなかったのだが、初めての事でスヴィグルは酷く狼狽していた。

繋はそんなスヴィグルを安心させるために「そこまで酷い傷じゃないから大丈夫」とあははと笑い能天気に言った。


「う・・・・だんだん思い出してきた」


繋は片手を額に当て当時の事がだんだん鮮明に蘇ってきた。

心配させまいと言ったつもりなのにスヴィグルからとてつもなく怒られたのだ。



出会いはともかく。

その事を切っ掛けにスヴィグルとは会話が増え正式にパーティを組み、お互い切磋琢磨しあい無二の親友となったのだ



「でもあの時・・・なんて言われたっけ」とぼそりと呟く。


聞こえないように呟いた筈なのにフリッグから頬をぎゅうっと抓られる。


「ひたい!ひたいです!」


「このたわけ者!なぜこっ酷く怒られたのに覚えてないというのだ!」


だから、無頓着だというのだ。

「自分の事」にと。まったくとフリッグはぶつぶつと繋に文句を言う。



「ともかくだ」

「お前のその癖は今の所何を言ったところで変わらない」

「だからこそ、私の言葉をしっかりと心に留めておけ」


フリッグは頬を抓っていた手を放し、座っていた椅子から立ち上がる。

フリッグは繋に。そこで良いから立ち上がれと言い繋は大人しく椅子から立ち上がった。

繋ぐの横に立ち、フリッグは繋ぐを横に向かわせた。


そして、そっと繋の両頬に両手を添えそのままぐいっと繋よりも身長が高いフリッグの目線に合わせられる。


「なるべく大きな怪我はするなよ」


フリッグは真剣な声で繋に言った。

繋はそれに少し驚き困惑したような声をだした。

 

「そんな。子供じゃ・・・」


良いから最後まで聞けとフリッグが繋の言葉を止める。


「絶対に死ぬなよ」


自分の命や身体の事を優先しろ。戦闘自体苦手なんだから無理をして戦うな。

その言葉に色んな意味が含まれている事に、もしかしたら今の繋には届かないかもしれない。

それでもフリッグはどうかと願うように強く言った。


それに繋は静かに「うん。」と短い返事をした。


そしてフリッグは最後に。


「必ずお前が遊びに来られるように道を作るから安心しておけ」


「……え」


繋はその言葉に驚く。


きっと元いた世界に帰ったら、再度こちらに戻れないと思っていたからだ。


フリッグは繋の頬から手を離し、腕を組む。


「唯の人が他世界へ行くためには、色々条件があるがその内の必須条件として「境界の綻び」の穴を通る必要がある」

「そして。お前も色々と調べていたと思うが、他世界へ行き来するための魔法は存在しない」


繋はそうだと頷く。

地球に帰る方法についてだけは方法があると知っていた。

フリッグの言う通り幾つかの条件があるが、その条件の内の1つである「境界の綻び」。

これに関しては事象。所謂自然的な現象で自然発生が起きるまで待つか、神と呼ばれる存在に穴を開けてもらう方法があり、今回はフリッグに頼み「境界の綻び」を作って貰えることになった。



そのお陰で地球に帰れるのだが、此方の世界に直ぐに戻れる方法が見つからなかった。


繋はしょうがないと諦めていた。

地球に戻った後は、此方の世界に戻るために何時起きるか分からない「境界の綻び」が自然発生するまで自給自足で地球で生きていくつもりで腹を括っていた。




「世界を干渉する魔法を作るには流石の私でも時間がかかってしまうが、幸いお前の仲間の魔族の女が居ただろう」

「あいつは神世の魔術を扱える天才だ。そいつと協力して作る」


どうだ。驚いたか。身体を反るようにふふんと笑うが、繋の反応を楽しみにするが反応が無い。

どうしたのかと思い片目を開けて見る。

その目に映った姿を見てふっとフリッグは優しそうに呆れ笑いをした。



「なんだ、そんな顔をして」


「・・・もしかしたら一生の別れだと思ってた」


繋は今にも泣きそうに目を潤ませながら言った。

「境界の綻び」が自然発生したとして、地球から此方の世界に無事に帰れる可能性も無かった。もし、「境界の綻び」が自然発生しなかったら?

もし、綻びの先が違う世界だったら?


だから、もの凄く悩みに悩んだ。

 

決してこの世界が嫌いなわけじゃない。


人生の半分程度を此方の世界で過ごしたのだ。

 

第二の故郷と言っていいほどに、この世界には沢山の数えきれない思い出ができた。


育ての親も無二の親友も兄妹のような存在もできた。


そして目の前にも家族の様に自分を心配してくれている存在がいる。

 


そんな大切な人たちを置いて元の世界に帰ると決めるのに沢山の葛藤と悩みがあった。

そんな中覚悟を決めて帰ると言ったのに。


この目の前の女神は繋の予想を超えた言葉をくれたのだ。


言葉が出ない繋にフリッグはにやりと笑い、歳の離れた意地悪な姉みたいに。

揶揄うように繋に聞く。


「そんなに嬉しいか」


繋はその言葉に思いっきり顔を上下に振って。


「もちろん!」


嬉しそうに答えた。

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