ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い

第2話：女神と親友

魔王討伐前のとある日。

繋は女神と話しをする為、勇者達には内緒で女神の神域に来ていた。

内緒で来ていたと言っても繋が寝ている間に女神が繋の精神を自分の神域と呼ばれる精神世界に迎えているという状態のため、他の仲間達には知られずに話せるため有難いと言うか便利だなあと繋は思っていた。

女神の神域。

そこは緑豊かな庭園のような場所が広がっており、簡易的な円卓と2人分の椅子が用意されているだけで、それ以外の建物は無く何処か無機質で寂しい場所である。

用意された椅子にお互い向き合うような形で座っていて、地球に帰るための話をしている中で女神から衝撃的な話しを受け繋は動揺していた。

「死人って・・・ゾンビってこと・・・だよね。それに、え・・・なんで地球でそんな事が起きてるの・・・・・・」

女神からの情報に思考が止まったが死人という事はゾンビという事だろうと繋は確認のため女神に問う。

「ああ。そうだ」

女神は眉間に皺を寄せ、目を閉じながら繋に地球の現状を粗方説明し始める。

「こちらの世界で数年前に大規模な地震があっただろう？　同じような事が地球でもあったらしい。そこからだ、生物災害なのか分からないが人が死人化するようになったと『知り合い』経由で情報が私の耳まで届いたわけだ」

「ね、ねえ・・・・地球に居る人たちの現状は？」

どうか、事態が収束している事を繋は祈るように聞いたが女神からの回答でそんな希望は打ち砕かれる。

女神は残念そうに横に首を振る。

「今でも解決策が出て無いらしく、地球の人口は減りつつあるらしい・・・・・」

「そんな・・・・・」

女神から語られた地球の現状に繋は何とも言えない表情になる。

そして女神は机に両肘を立てて寄りかかり、両手に整った顎をゆったりと乗せて再度繋に確認をした。

「そんな中でもお前は帰るのか？」

女神からの真剣な眼差しに男は少し沈黙する。

「親の墓を建てるだけなら、此方の世界でも良かろう。やっと旅が終わるだろうというこの状態で、わざわざまた危険を冒す必要はないはずだ」

女神の言葉に繋は考える。

（確かに。確かにそうなのかもしれない）

彼女の言う通りわざわざ危険な目にあってまで行く必要性は無いかもしれない。

それでも。と繋は思う。

最後に見た両親の顔。それが歳を重ねていくにつれて薄れていく。

自分の八つ当たり交じりで発展した些細な喧嘩をした後に事故に遭った。事故に遭うまではどうだったんだろう・・・・あの時あの場所で一緒に楽しんでくれていた2人の顔は・・・・・どんな顔だったのか、記憶の中の2人は薄くぼんやりとフィルターがかかっていた。

地球に戻って2人の墓を建てるだけではなく、家族との写真の1枚だけでももし有れば良いなと繋は思った。写真があれば、本当の二人の顔を思い出せるかもと。

もし。何も思い出せるものが無くても2人のお墓を建てる事で心にずっと残っていたしこりのような物が無くなるかもしれない。

だから。

繋は意を決して女神にそう言った。

「ごめんなさい・・・・。心配してくれてありがとう」

繋は間を少しおいて、それでもと言う。

「それでもやっぱり僕は帰りたいと思う」

女神は少し沈黙をしたあと、分かっていたとばかりに深い深いため息をついた。

女神の名前はフリッグ。

地球の海外モデルのような高身長で顔は整っている。鋭い目つき金色の瞳。

髪の色は銀色に輝いており、銀色の長い髪を二つ編みにして肩にかけていた。

フリッグは繋に目を向けた後組んでいた手を解き腕を組んだ。

片足を踏み初め再度深いため息をする。

その姿に繋は慌てる。

「ほ、ほら！　でもさ昔教えてくれたよね。此方の世界で覚えた魔法は地球でも同じように使えるって・・・・・」

「地球の環境にお前の身体の魔力が馴染むまで、一旦魔力量は激減するがな」

「うっ・・・！　で、でも毎日継続していったら今のレベルの魔力量まで戻るでしょ？」

だから大丈夫と繋は自分に言い聞かせるように言う。

ゾンビから逃げ隠れながら毎日コツコツ魔法を使って魔力量を元に戻せば良い。

異世界に来たばかりの時だって似たような事をしてきた。魔法が使えるようになるまで血の滲むような鍛錬もしたし、魔王討伐の旅で生き抜くために必要な経験も多くした。

攻撃魔法は適正が無い為大した魔法は使えないけど、攻撃魔法に代わる代替魔法や生活魔法、補助魔法は得意だ。

9年間過酷な旅だって何とか乗り越えてきたという自信が繋にはある。

それに。地球にはこちらの世界のような危険な魔物はいない。

魔獣、怪物だらけの異世界で戦ってきたのだ。ゾンビだけなら余裕で生きていけるだろう。

繋は様々に理由を付けて、「ね。何とかなりそうだよね」とフリッグに呑気に言うと女神は卓上をバンッと叩くのと同時に怒号が返ってきた。

「この馬鹿者！！！」

「うぇ！　なんで怒るのさ！」

繋は驚いて返事をすると、フリッグは片手で頭を抱えた。

「過酷な旅の中で一般人にしては大分強くなったと思っているし、様々な経験から油断などはしないと思っているが」

（今はまだ仲間達が居るからまだしも・・・・）

「・・・・・お前にはどうにも自分を犠牲にする癖がある」

フリッグは心配だった。

繋の過去を知っているからこそ。

「お前は衝動的に自分の身を投げ出すことが多い」

そんな・・・・・。そんなこと位は勇者パーティの全員やっていた事だと繋は思った。フリッグは繋の考えていることを見抜き更に言葉を詰める。

「誰かを助けるために勝手に身体が動くのとはお前のは違う。まして完全は献身的行為でもない。お前はそれにまだ気づいてない」

そんな事は・・・無いよ・・・。と言おうとして繋は言い淀んだ。

フリッグの言っていることが何となくだが分かるからだ。

「お前が初めてスヴィグルに出会った頃だったかな。お前が魔物の討伐訓練生と間違われてスヴィグルと共に討伐訓練に行ったときの事を覚えているか？」

じとーっと効果音が付きそうな目でフリッグは繋を見る。

それに、「うっ」と繋は唾を飲んだ。

確か・・・・魔王の出現と共に魔物の動きが活発になった頃だったっけと繋はスヴィグルとの最初の出会いを思い返す。

（思い出したけど、今思えば面白い出会いだったなあ）

ヒョードルが中央王国軍の剣術・魔法指南役という事もあって中央王国のお城まで一緒に連れていってもらった事があった。

繋自身は魔王の討伐や魔物討伐に関わる事など微塵も考えていなかったし、ヒョードルも異世界から来た一般人である繋を関わらせる予定など一切無かったのだが、それこそ運命だったのか、たまたま訓練場に居た繋と魔物の討伐訓練に遅れ一人取り残されていた農民との出会いが2人の運命を大きく動かした。

その農民の名前こそ、スヴィグル・ハーキュリ。

長い旅路の後魔王を討伐した勇者となり。繋の長年の相棒となり。

かけがえのない親友となる男だった。