再会⑧

 俺の前にコーヒー、母さんの前に紅茶が並べられた。家政婦の気遣いで、母さんの好きなケーキ屋の焼き菓子も添えてある。家政婦は軽く会釈すると、俺たちの会話の聞こえないところへと下がった。

 

「今の話」

「うん?」

「今さっき私が言ったこと。お父さんには内緒にしててね」

「……うん」

 

 兄貴の母親の話をもらしたことを、親父には知られたくないらしい。ああ、なんて似たもの親子なんだろう。夫に愛されない妻と、父親に愛されない息子。俺と母さんはよく似ている。

 

「孝人」

「なに?」

「勉強、頑張るのよ。なんだかんだ言って、柏木グループの跡継ぎはあなたしかいないんだから」

 

 本当に息が詰まると思った。この家では、俺を跡継ぎとしか誰も見ちゃいない。

 

「そうだね」

 

 珈琲の入ったカップに手を伸ばし、それを一気に飲み干す。胸の苦々しさを珈琲で紛らわせる。

 

「それじゃあ、部屋に戻るね」

「もう部屋に戻るの?」

「勉強の休憩で降りてきたんだよ」

「そうだったの」

「うん。それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 家政婦がせっかく準備してくれた焼き菓子には手を付けずに、逃げるように自室へと戻った。

 

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