再会⑥

 正妻である俺の母さんはそんなに美人じゃない。母さんに似なくて良かったと思えるくらいだ。性格もネクラで、あんま喋んないしな。親父もそんな母さんと対峙するのは嫌気がさすのだろう。

 

「あら、孝人。食事以外でこっちにくるなんて珍しいわね」

 

 リビングへと入ると、母さんが居た。ソファで寛いでいた。開口一番に嫌味のような言葉が言えるのは天才か?と思える。

 

「珈琲でも飲もうかと思って」

 

 笑顔の仮面を貼り付けながら、母さんの座る対面のソファへと腰をかけた。俺と母さんの間にはローテーブルがある。

 

「ふーん」

 

“ふーん”ってなんだよ、“ふーん”って。実の息子にもこうだから、親父にはもっと愛想もない。そんな母さんを尻目に、近くにいた家政婦を、軽く手をあげて呼んだ。

 

「珈琲頼める?」

 

 正面から母さんの視線が突き刺さる。自分も飲み物が欲しいなら、そう言えばいいのに。

 

「……母さんには紅茶を頼むよ」

「畏まりました」

 

 家政婦は頭を軽く下げて、キッチンへと向かった。俺の注文に満足したのか、母さんはついていたテレビへと身体を向けた。先ほどからテレビを見ていたのだろう。なんて分かりづらい人なんだ。こんなんだから、親父にも可愛がられないんだよ。

 

「ねぇ、孝人」

 

 母さんとの会話は終了かと思っていると、テレビから視線を外さずに話しかけてきた。

 

「なに?」

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