再会③

 だいたい、親父が甘すぎるんだ。去年、兄貴が不純異性交遊で謹慎処分になった時点で、海外に飛ばせば良かったんだ。美鈴を傷つけやがって。

 

 兄貴に対する苛立ちと、どうして、美鈴と自分の接点を兄貴なんかに教えてしまったんだろうとういう、自分への苛立ちが込み上げた。

 

 もし美鈴を手に入れることができたら、これでもかっていうくらいに大事にする。誰にも触らせない。それが河原千晶であろうとも。

 

 それから、一ヶ月も経たないくらいのある日のことだった。親父が珍しく「ちょっと話がしたいんだがいいか」と俺の部屋に訪ねてきた。

 

「孝人の受験専用の勉強部屋を造ろうと思っているんだが、どうだ?」

 

 勉強していた手を止めて、部屋の真ん中においているテーブルを境に、親父と対面していた。こんなに真正面から親父を見たのはいつぶりのことだろう。

 

「勉強部屋ですか?」

 

 今の自室で特に問題はない。

 

「ああ。人の出入りがあるとなにかと気になるだろう」

 

 そんなこともないが「はあ」と空返事を打つ。親父の突拍子もない提案にどうしたらいいのか分からない。一体、何を考えているんだ。

 

「どこに造るんですか?」

「孝人が勉強部屋として使った後は離れとして使えるように、裏庭に造ろうと考えている。どうだ?」

 

 どうだ、と言われても……。勉強部屋なんて欲しいと言って買ってもらえるようなものじゃないことくらい分かっている。それをこうも満面の笑みで投げかけられるとさすがに困る。

 

「造ってもらえるならありがたいですけど……。なんでまた急に勉強部屋を?」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る