出会い⑩

 男に抱かれているときに、なんとも思っていないやつの名前なんて口にするわけがないだろう。美鈴にとっての「ちい兄ちゃん」なんて、あいつしかいない。兄貴が目の敵にしている「河原千晶」だ。

 

 なんだ、それ。実の兄貴なんてやめてしまえ。幸せになれるはずがない恋愛なんて、意味ないだろ。

 

「美鈴」

 

 優しくなんてしてやれない。美鈴の身体に俺を刻みつけたい。いつもなら欲を吐き出すだけの行為だが、湧きあがる感情のすべてをぶつけるように、美鈴の身体を貪る。それに応えるように深紅の唇から吐息が漏れるたび、興奮が高まる。

 

 河原千晶のことなんて俺が忘れさせてやるよ。俺を見ろよ。俺のことを好きになれ。そうすれば絶対に幸せにしてやる。そう心の中で懇願しながら、俺は美鈴の中で果てた。この感情を、世間では恋を呼ぶのだろうか。

 

 

 

 

 

 その日から一ヶ月ほどが経ったとき、美鈴が遊ばなくなったという噂を聞いた。あれ以来美鈴とは顔を合わせていない。それは美鈴にとって、何を意味するのだろうか。兄貴以外に、本気になれる男を見つけたということなのだろうか。

 

 美鈴に彼氏ができたかどうかなんて、調べようと思えばすぐにできた。だけど、俺は出来なかった。知りたくなんてなかった。

 

 自分でも呆れるくらいに、毎日美鈴のことを考えてしまう。美鈴にとっては、ただの一夜限りの男だったかもしれない。だけど俺にとっては、今まで出逢った中で最高の女だったし、俺のモノにしたいと思える女だ。

 

 もし次に美鈴と会う時が来たら、その時は絶対に運命を信じてやる。美鈴は俺のものになる運命だったんだと思って、絶対に手に入れてやる。離してなんか、やらない。

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