出会い⑨

「馬鹿なのかな、あたし」

 

 その瞳が薄く半月を描く。それは夜空に浮かぶ月よりも妖しく光っていた。すっかりそれに魅了されているのが自分でも分かる。

 

「美鈴が馬鹿だとしたら、その美鈴に見惚れてしまう俺は、もっと馬鹿なのかもしれない」

 

 生まれて初めて囁いた俺の愛の言葉。歯の浮くような台詞が、まさか自分の口から飛び出るとは思わなかった。

 

「試す?」

「なにを?」

「あんたが私の本気の男になれるか」

 

 にやりと潤んだ唇の端があがった。もう限界だ。美鈴のことがほしくてたまらない。返事代わりに、自分の唇をその唇に押し当てた。

 

 まるで魔法が掛かったように、俺は美鈴に溺れた。普段よりも明るい月のせいなのかもしれない。月明かりに照らされる美鈴は、神秘的だ。

 

 何度も、何度も美鈴に口付ける。唇、首筋、うなじ、鎖骨、胸のふくらみ、脇腹。どこに唇を寄せても、もっと美鈴を感じたい。美鈴の漏らす小さな声に、体の中心が昂る。

 

 こんな感覚、初めてだ。心まで満たされる気分になる。だけどやっぱり、この時間のすべてが月明かりの魔法だった。

 

「んっ。ちい兄ちゃん……」

 

 熱が冷める。魔法が解けたかのように。今、なんて言った?しっかりと聞き取れたその名前に理解が追い付かない。

 

 ゆっくりと美鈴の表情を伺うが、ただ俺の愛撫に感じているだけらしい。でも聞き逃せなかった言葉が、頭の中で反芻する。

 

 まさか。本気の男を探してるって。今、本気で好きなヤツの身代わりになれるヤツを探してるってことなのか?

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