出会い⑧

「黒髪で眼鏡っていういかにも真面目そうな感じじゃん。顔は綺麗だけど、あんな店に顔を出すには珍しいタイプだなと思って」

 

 褒められてるのか、貶されているのか。だけど言いたいことは分かる。夜の友人たちは皆、色とりどりの髪の毛に染めている。洋服だっていかにもなB系ファッションのやつが多い。

 

「あの店、親父の経営しているところなんだよ。だから気兼ねなく遊んでる。見た目はまあ、自分の好きな恰好をしてるってだけだ。そもそも俺は絵に描いたような真面目だけどな。俺のことを言う前に、美鈴だって遊んでるようには見えないぞ。お前、結構遊んでるだろ」

 

 その視線は、夜空から俺へと移される。

 

「……私のこと、知ってるの?」

「そりゃあ噂くらいは聞いたことあるよ」

「噂……」

「自覚症状ないの?」

「それはある。だけど噂は知らない」

 

 コイツ、馬鹿なのか?少しくらい、自分の耳に自分の噂なんて入るもんだろ。

 

「だって私、遊びたくて遊んでるんじゃないもん」

 

 なに言ってんだ?

 

「あんなに遊んどいて、よくそんなことが言えるな」

「違うの。世間的には遊んでる部類に入るのかもしれないけど、探してるだけなのよ」

「なにを?」

「本気になれる男」

 

 全身の毛穴という毛穴が総立ちになった。美鈴の瞳は俺を捕らえて離さない。身体の中心が疼く。その肌を貪りたくて仕方がない。こんなに飢えたかのような欲を、目の前の女に抱いたことがあっただろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る