出会い⑦

 美鈴の横顔のラインに見惚れる。滑らかな鼻筋のラインが俺の琴線に触れる。薄くも分厚くもない唇に吸い寄せられそうだ。生唾をごくりと飲み込む。音を立ててしまったかと焦るが、美鈴はちらりともこちらを見なかった。

 

「公園でもう少し月を見ていくか?」

 

 もう少し、この女と一緒にいたいと思った。

 

「んー……」

 

 濁される返事に胸の奥がざわつく。唇が渇く。中学受験のときでさえ平常心だったこの俺が、ただのこんな一瞬に心が波打つなんて考えたこともなかった。

 

「いいよ」

 

 分かりやすくほっと胸を撫でおろした俺に、美鈴は気づいただろうか。俺たちはすぐそばにある公園のベンチに腰をかけることにした。美鈴を先にベンチへと座らせて、その隣にある自販機でオレンジジュースを二つ買う。

 

「ほら」

 

 そのうちの一つを美鈴に差し出した。

 

「ありがとう」

 

 美鈴が受け取るのを確認してから、隣に腰を下ろす。ペットボトルに入ったオレンジジュースを開ける。一口それを含むと、甘みと酸味が広がった。

 

「あんた、珍しいよね」

「ん?」

 

 まさか美鈴から話題を振られるとは思わず、咽そうになるのを堪えながら聞き返した。

 

「珍しいってなに?」

 

 俺のどこが珍しいと言うのだろうか。

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