出会い⑥
細い指で掴まれたグラスは、流れるように美鈴の小さな唇へと近づいた。細白い喉元が動くのを見て、ごくんと喉が鳴る。生唾を飲んだのなんてこれが初めてじゃないだろうか。
「嫌いなのよ」
コトンとカウンターに置かれたグラスから、また、氷のカランという音がする。
「恋人だろうが、そうでなかろうが、私の目の前でイチャつくやつ」
半月を描く眼差しを向けられると、全身が痺れたように動けなくなった。そのとんでもない色気に負けじと、美鈴からグラスを奪ってコーラを喉に流し込む。
だけど頭のどこかで、俺の負けだって分かっている。これがあの河原千晶の妹か。
「さて。私、そろそろ帰りたいんだけど」
「ああ。じゃあ送るよ」
この街は、市の中心街ではあるがそこまで都会じゃない。都会じゃないとは言っても、それなりに繁華街は栄えていて、夜の飲み屋街はネオンの光で溢れている。ただ、繁華街から離れると、星空が綺麗に見えるくらいの暗さになるから、女の一人歩きは危険だ。
店を出ると、あちらこちらで酔っ払いが肩を並べていた。サラリーマン風の男たちもいれば、若い大学生くらいの集団もいる。その中を肩が触れないくらいの間を開けて、美鈴と並んで歩いた。
繁華街を抜けると、電柱に灯っている街灯が道を照らした。いつもなら「暗い」と思うが、今日は月が明るい。隣を歩く美鈴の横顔もはっきりと見える。
「今日は月が明るいね」
店を出たからか、繁華街を抜けたからか。美鈴を纏う空気は変わった。こうしてみると、美鈴は中学生だ。
「そうだな。月が好きなのか?」
「別に。ただ今日は明るいなって思っただけ」
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