第弐幕 プリンス滋比古、曲馬と出会う
「――というお話でね」
ジェントル曲馬は両手を開いた。花のような白手袋。
「ずいぶんと気取って話したもんだ。何処かへと運んで行った、なんてさ」
鼻で笑う。
「うっふっふ、大人に向かってなんて口の利き方でしょう。さすがこの街一番の名士、
ジェントル曲馬のマナコが細くなった。
「判ってるなら、お前こそ口の利き方には気を付けろ」
「お前達のような胡散臭い連中なんて、ボクの一声でこの街から追い出せるんだ」
「それはもう。だからこそ、坊ちゃまにこのお話を持ってきたんじゃないですか。コクテルのお替りは
「紙巻き煙草もだ」
曲馬が、女給にその二つを命じた。歳若い女給はしらけた顔を隠そうともせずに、曲馬が差すより早く、注文を少年の前に置く。背後からの給仕に、振り返ることをしなかった少年は、その表情を知らないままだ。
女給が去った後、曲馬は少年の耳に唇を寄せた。
「私はね、坊ちゃまにお千代がなぜ死んだのか、その謎を解いていただきたいのですよ」
「ふん」
「私らみたいな渡り鳥には、警察は少々鬱陶しいものでして。ひととこに長く留められても困りますのでねぇ。しかしお千代の不幸をそのままにはしておけません。困っていたところに、坊ちゃまの評判を聞いたのですよ」
団長の申し出は予想済みだったのだろう。自惚れの強い少年は、
曲馬が更に頬を寄せる。金の巻き毛が、少年の桜色の耳で潰れた。
「坊ちゃまの卓越した脳髄と大人顔負けの度胸で、どうかお千代が死んだ訳を解いてやってくれませんかねぇ」
吐息がかかる。ゾクリ。少年は反射的に耳たぶを抑え、身を引くと、
「そ、そんなこと言ってるが、知ってるぞ!」
狼狽を誤魔化すべく、早口に喋る。
「ジェントル曲馬、お前のことは皆『ゼニトル曲馬』って呼んでるぞ。なんでも金にするって評判だ。欲張り! ケチンボ! このボクを使って犯人を捜して、それをお千代の家族に売りつけるんだろう。え、そうだろう!」
「……お千代の【家族】は私らさぁ」
ジェントル曲馬のマナコが、また細くなる。目には見えない動物電気が
少年は、口が過ぎたことを思い知る。
「坊ちゃまが引き受けてくださるなら、私らはお礼をしますがね」
内心、少年は安堵したが、
「約束するか」
と虚勢を張った。
「血判をご所望ならばそれも」
「いるか、そんなもの。じゃあ、引き受けよう。ボクのことは滋比古様と呼べ。子供扱いはするな」
紙巻き煙草を灰皿に押し付け、滋比古は席を立つ。
「じゃあ、団員共に話を聞くぞ」
「それはもう。滋比古様のお見立てのままに。正直にお答えするよう言いつけてありますので。そうだ。先程の、もう一度お話ししましょうか?」
「あの程度の、一度聞けば十分だ」
逃げるように少年はカフエエを出る。
残されたジェントル曲馬が呟いた。
「ゼニトル曲馬ねぇ。うっふっふ。ご自身はプリンス滋比古って
楽しそうに、分厚いカイゼル髭を撫でつける。
「うっふっふ。怪しい、か。人の話を聞かない子供だ。私らは【家族】だと申しましたに」
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