第10話 都市ファース


「じゃあ行ってくるね島亀ちゃん」

『なにかあったら急いで駆けつけるから心の中で呼ぶんじゃよー』

「島亀ちゃんが駆け付けたら陸地が沈むのでは……?」


 俺たちは一反木綿の絨毯に乗って空を飛んで、島亀ちゃんの背中の島から離れていく。そして一反木綿は遠くに見える街に向かって進んでいく。


 絨毯に乗っているのは俺と鶴ちゃん、ふぇありーちゃんたち。そして薪が二十本ほどだ。


 空を飛んでいるのもあるだろうが少し風が肌寒い。


「お空なのー」

「僕たちも島亀様の背中から旅立つ時が来たのふぇあー」

「でも日帰りありー」


 空から眺める景色は壮観だが地球とはだいぶ様相が違う。


 地球なら高層ビルなどの背の高い建築物が見えるものだが、ここでは周囲が森ばかりで遠くに見える街も広いが高いものはない。


 まあ土地が足りないからこそ少ない面積で多く住める高層ビルとか建てるわけで、余ってたら場所を上に求める必要もないか。


 あと絨毯で空を飛ぶの地味に怖い。自分の足場を支えるのがヒラヒラの絨毯なのはちょっとばかり怖い。


 重さ耐久テストはしっかりしてるから落ちる心配はないけど、じゃあ安心できるかと言うと話は別だ。


「主様ご安心ください。一反木綿は主様が百人乗っても浮いてられますから。それにいざとなれば私が飛べますし」


 俺の横で座ってる鶴ちゃんが背中の翼をバサバサと動かす。


「心強いよ。自力で飛べるの羨ましいな」

「でしたら天のはごろもでも縫いましょうか? そうすれば主様も飛べますよ」

「本当? それならお願いしてもいい?」

「わかりました。帰ったら急いで縫いますね!」

「また天を冠するモノなのー」

「天ぷらに引き続き天を安売りしすぎありー?」

「でもカッコいいよね天。使う気持ちはわかるふぇあー」


 ふぇありーちゃんたちはゴロゴロ寝そべって楽しそうだ。


 彼女らは人の子供の背中に小さな羽根があるだけなので、羽根が隠れる服を着てバレないようにしてる。


 ちなみに俺と鶴ちゃんもこの世界一般の服に着替えている。なんか中世ヨーロッパの農民が着てそうなやつに。


 それと鶴ちゃんの背中の翼は自由に消せるらしい。


 一反木綿は街の近くの森に不時着した後、薪を包む風呂敷代わりにする。そして少し歩いて街の門前までたどり着く。


「ここは都市ファースです。島亀様が年の最初に訪れる場所に一番近い都市なので、最初にちなんだ名前がつけられたそうですよ」

「島亀ちゃんの影響力すごいなあ」


 街は五メートルほどの壁に覆われている城塞都市で、門の前では兵士が人の通りをチェックしているようだ。


「む。お前たちはなんの用事でこの都市ファースに来た?」

「薪を売りに来ました」


 風呂敷の包みを開いて中に入った薪を見せると、兵士は鶴ちゃんやふぇありーちゃんたちに視線を移す。


「薪売りが家族連れとは珍しいな。街に遊びにでも来たのか?」

「たまには買い物もいいかなと思いまして。予算は薪を売ったお金です」

「そうか。なら妖精の瓶屋という店に向かうといい。あそこの店主は人がいいから一番高く買い取ってくれるだろうさ」


 無事に門を通って街の中に入る。


 街を一言で表すなら中世ヨーロッパのような街並みだ。レンガ作りの背の低い建物が多くて馬車が走ったり露店が多く出ている。 


「じゃあ妖精の瓶屋という店に行ってみようか」


 門番の人に教えてもらったように進むと、瓶の絵が描いてある看板のついた店に着いた。


 文字が書いてないが瓶のマークなので目的の店かな、たぶん。いやどっちにしても俺は文字を読めないが。


 というかなんでこの世界の人と普通に話せてるんだろう。たぶん神水の力かなんかだろう。


「なんで文字が書いてないありー?」


 するとふぇありーちゃんが俺の疑問を口にしてくれた。彼女らも島亀ちゃんの背中から外に出たことがないらしい。


「識字率が低いので文字を読める人が少ないのですよ。なので誰でも分かる絵で店を判断できるようにしてるんです。なので店名も看板のマークに応じたものです」


 そうなのか勉強になる。


 俺たちは店の中に入ると気のよさそうなご老人が店番をしていた。


「おやいらっしゃい。なんのご用かな?」


 ご老人は笑いながらよいしょと立ち上がると、ゆっくりと俺たちのほうに近づいてくる。


「薪を売りに来ました。買い取って頂けますか?」


 ご老人は少しだけ困ったように笑ったあとに。


「薪ですか。冬は入用ではあるのだけどね……今年は少し暖かいので普段より値段が安くなっていてね」


 申し訳なさそうに告げてくるが普段の値段が分からない。これが薪売りを生業にしているなら困ったものだが、街で遊ぶ金が減るだけなのでまあいいか。


「全部で金貨三枚といったところかな。他の店にも行ってみて値段を聞いてみるといいよ。うちより高く買い取れる場所があればそこで売った方がいい。なかったら戻っておいで」

「ありがとうございます」


 お言葉に甘えて他の店にもいくつか出向いたところ。


「薪ぃ? 今年は余ってるからいらねぇよ。金貨二枚なら買ってやる」

「金貨一枚だな。これでもだいぶオマケしてるからうちに売れ。ほら早く」

「悪徳商人なのー」

「てめぇ! ガキだからって許されると思うなよ! 殴ってやる!」

「し、失礼しましたー!」


 と妖精の瓶屋が破格の値段で買い取ってくれてることがわかった。なので店に戻っておじいさんにお願いしてみると。


「やっぱり他の店も同じか。なら私のほうで買い取るよ。すまないね、普段ならもう少し高く買い取れるんだけど」

「いえいえ助かります」


 店主のおじいさんに薪を渡して金貨三枚を受け取った。もちろん一反木綿(風呂敷)は回収している。


 流石に妖怪を渡すわけにもいかないし。


 おじいさんにお礼を言って店から出て、


「じゃあ露店で少し買い物して帰ろうか」

「「「わーいー」」」


 露店で串焼きを購入して食べたあと、少し街を観光してから島亀ちゃんの背中へと帰った。


 



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^





 カイトたちが去ったあとの妖精の瓶屋の二階の住居で、店主がため息をついていた。


「ふう。さっきの子たちには申し訳ないことをしたねえ」


 店主は先ほど購入した薪を暖炉にひとつ入れる。するとふわっと暖かい風が吹いて、部屋の中がすごくポカポカになっていく。


「おや? 急に暖かくなったな。はて……」


 店主の困惑をどこかに消し去るようにドタドタと階段を駆け上がって来る音がして、勢いよく扉が開かれて少女が入ってきた。


「お爺さん! 大変大変! 占い師の予言でもうすぐ大寒波がやってくるって……な、なんでこの部屋こんなに暖かいの……?」

「おやアーリィじゃないか。いま薪をくべているんだよ」

「薪程度じゃ部屋中ポカポカは……って、ひいっ!?」


 アーリィと呼ばれた少女は暖炉を見ると怯えるように後ずさる。


「どうしたんだい? 急に変な声をあげて」

「お、お爺さん!? その燃やしてるのなにっ!? 信じられないほど魔力がこもってるんだけど!?」

「さっきお客さんから買った薪だよ。申し訳ないことに普段よりも安く買ってしまって。ほら他にもまだあるよ」


 机に置かれた薪を見たアーリィはクラッと倒れそうになるが、足を踏みしめてなんとかこらえる。


「ま、ま、待って? その薪、世界樹の杖よりも魔力がこもってるんだけど!? ほら伝説の世界で一本しかない!」

「そ、そうなのかい? それは弱ったな。そんな貴重なモノを金貨三枚で買い取ってしまったのか……今からさっきの人を探したら返せるかな。アーリィや、ちょっと手伝ってくれないかい?」

「気にするのそこなの!? い、いいわ! 私もその薪をどうやって手に入れたのか聞かないと!」


 店主たちは街中を探したがカイトたちは見つからなかった。

 

 そして予言通りに大寒波が襲来して街は寒さに襲われた。薪が安くなっていたためあまり売られておらず、街は深刻な薪不足になってしまう。


「う、うーん。この薪で広場を温めたら凍える人の助けになるかもしれない。彼らが次に店に来たら出来る限りお金を支払って許してもらおう」


 広場で薪が温められたことにより街中が少し暖かくなった。その結果、凍死者は誰も出なかった。


 その功績を称えられて店主は街長に任命されるのだが、それはまた別の話。


 ちなみに金貨一枚で薪を買い叩こうとした悪徳商人は、広場の薪を盗もうとして捕まった。



-----------------------------

あと数話で完結予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る