第11話 ふぇありーたち


「天ぷらー天ぷら―」

「天ぷらは天がもたらした食べ物ありー」

「毎日天ぷらでもいけるふぇあー」

「確かに天ぷらはすごく美味しいよ? でも本当に毎日天ぷらにしなくてもよくない? 朝昼晩天ぷらが三日目はきつくない?」


 今日も湖のほとりで天ぷらを揚げているが三日目である。


 俺は揚げ物が好きだ。天ぷらも大好物だ。でも三食天ぷらが続くと流石にキツイ。


 あとは健康面でも気になって来るところだ。


「主様、大丈夫ですよ。竜の油は身体にいいですし、そもそも主様の身体は神に近いので健康を気にする必要はありません!」


 今までで一番嬉しい情報かもしれない。島亀ちゃんを拝んでおこう。


「……まあそれでもずっと天ぷらは飽きてくるけど。ねえふぇありーちゃんたち、そろそろ他のメニューにしない?」

「じゃあ魚フライでいいなのー」

「元々素揚げだからなにも変わらない……」


 というか素揚げって天ぷらって言うのだろうか? まあいいや。


 それと明日にはおそらく天ぷらは終わる。何故かというとイモが収穫できそうだからだ。


 なんと植えて三日目だがすでに畑は葉っぱまみれだ。もう明日には育ち切っている雰囲気がある。


 早すぎるけど今は助かる。これで明日からはジャガイモ料理になるから、ふぇありーちゃんたちも天ぷら以外でも喜ぶだろう。


 そうして翌日。畑のジャガイモは少し元気がないように垂れていて、一部の葉っぱは黄色に変色している。


 これは収穫できる頃あいだ。


「じゃあ今日は天ぷらを収穫するよ」

「主様、天ぷらじゃなくてジャガイモです」


 ……素で言い間違えてしまった。おのれ天ぷら……。


「そういうわけでジャガイモを収穫するよ! その後は焼き芋にするから! 絶対焼きイモだから! 焼きイモしかしないから!」

「なんであんなに必死ありー?」

「どれだけ焼きイモが食べたいなのー」

「焼きイモ好きふぇあねー」


 焼きイモが好きなんじゃなくて天ぷら以外が食べたいだけ! 


 そうして俺たちは畑に入ってジャガイモの収穫を始めた。ちなみに鶴ちゃんは食事の準備のため別行動である。


「おお。大きなジャガイモがゴロゴロだ」


 ジャガイモはどれも大きい上に数も多い。流石は神水で育てられただけのことはある。


「イモイモイモー」

「僕たちの脅しが効いてよく育ったありー」

「これからも頑張って脅すふぇあー」


 そういえば音楽を聞かせながら植物を育てる話を聞いたことがある。科学的根拠はなさそうだが、なんか美味しく育ちそうな気がするのは何故だろう。


 あとはクラシック音楽を聞かせてパンを焼く店もあったな。たぶん味には影響がないのだろうがなんとなく上品に思えるんだよな。


 妖精の罵詈雑言を聞いて育ったジャガイモ……う、うーむ。


「きゅうん……」


 カマイタチのカマちゃんも手伝ってくれているのだが、残念ながら両手が鎌のためジャガイモが獲れないようだ。


 名前が安易? いいじゃないかカマちゃん。タマちゃんみたいで可愛いじゃん。


「カマちゃん、木を切ってきてくれないかな。料理の時に使いた……」

「きゅうん!」


 カマちゃんの両手が変化し、鎌からクワになってしまった。


 クワイタチだ、新たな妖怪が誕生してしまった。カマちゃん改めクワちゃんはザックザックと器用に地面をカマで掘って、


「きゅうん!」


 カマちゃんより小さい竜巻が発生して、イモがフワリと持ち上げられてカゴに入っていく。


 か、カマイタチは農業の妖怪だった……?


「ねーねー。なにしてるのー?」


 すると知らない声が聞こえた。声の方向に目を向けると知らないふぇありーちゃんがいる。


「ジャガイモ獲ってるなのー」

「僕らが育てましたありー」

「罵詈雑言でふぇあー」

「いいなー」


 今のにいい要素があったのだろうか。俺にはふぇありーちゃんたちの嗜好はよくわからない。


 新たなふぇありーちゃんは、じーっと収穫されたジャガイモの入ったカゴ(鶴ちゃんお手製)を見続けている。


「えっと。君もジャガイモ食べる?」

「食べるー」

「じゃあ手伝ってくれるかな?」

「いいよー。ジャガイモのバカー! イモってるー!」

「いや罵詈雑言じゃなくて収穫の手伝いね?」


 というわけで新たなふぇありーちゃんも加わって、五人でジャガイモを回収しつくした。


 カゴいっぱいに入ったジャガイモを見るとすごく満足感が出てくる。三日で育ち切ったから感慨深さはあまりないのだが。


 すると鶴ちゃんが戻ってきて、


「包み布を織ってきました。これで包んでたき火に入れたら焼きイモにできますよ」

「アルミホイルみたいだね」

「耐火性があるが熱は通す布ですから、似たようなものかもですね」


 俺たちは湖のほとりでたき火を作って、その中に布で巻いたイモを放り込んだ。

 

 後は焼けるまで火を絶やさずに待つだけだ。


「イモー、早く焼けるなのー」

「早く焼けないと食べちゃうありー」


 その脅しだと早く焼けなかったら食べないのだろうか。いや食べるな。


 あれだ。抵抗したら殺す、抵抗しなかったら後で殺すみたいな。


「ところでえっと。君はどうしてここへ?」


 新しくやってきたふぇありーちゃんに尋ねると、彼女は朗らかに笑うと。


「なんか風が強かったからー、赴くままに流されてきたのー」


 すごく自然な理由だった。流石はふぇありーちゃんの仲間だ。


「そうなんだ。よかったらここに住む? 実は村を作ってと島亀ちゃ……島亀様に頼まれててね」


 村を作るとなれば人がいる。人口増やさないと村とは言えないし。


「いいよー。ただ忘れ物があるから取りに行ってからねー。一か月くらいで戻って来るー」

「……忘れ物ってこの島だよね?」

「そうだよー」


 この島、普通に歩いても一日ちょっとで一周できるはずなんだけど。


 まあいいかとたき火に木の枝を突っ込んで、布袋を取り出してみる。開くとイモの皮がこんがりとなっていた。


「焼けたかな? じゃあ鶴ちゃんからもらった塩をかけて……はいどうぞ」

「ありがとー」

「わーいなのー」

「イモイモなのー」

「美味しくなってないと食べちゃうふぇあー」


 全員にイモの入った布がいきわたったので、俺も箸に見立てた木の枝でイモを食べてみる。


 ……うっま!? ホックホクに塩味が完璧すぎる……っ!


「おいしいよー」

「脅したかいがあったなのー」

「ストレスがあるほどいい味出すありー?」

「次も頑張るふぇあー!」

「美味しいですね……! 塩だけなのにここまでとは」

「きゅうん!」


 俺たちは焼きイモをいっぱい食べて満足して、新しいふぇありーちゃんは帰っていった。また一か月後くらいに来るらしい。


 そういえば新しいふぇありーちゃんが来て思ったのだが、三人のふぇありーちゃんにも少し個性がありそうなことに気づいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る