第9話 薪
島亀ちゃんが言うには、あと数日で陸地につくらしい。
そこから三日は移動しないそうなので、その間に異世界観光でもと提案された。
「異世界観光か。してみたいとは思うけど、お金ないけど大丈夫かな?」
現状自給自足生活のため、びた一文持っておりません。入街料とか必要だったらアウトだし、そもそもお金なしで外に出るのは流石に気が引ける。
すると鶴ちゃんがポンと手を叩いた。
「でしたら薪を作ってはいかがでしょうか。上陸する島は冬のはずですし、ある程度の値段で売れると思います」
「薪かー。乾燥させるのに時間がかからなかったっけ」
「僕たちの炎魔法に任せるふぇあー」
「ゆっくりじっくり焼いて炭にしたるありー」
「薪でお願いします」
ふぇありーちゃんたちが炎魔法でなんとかしてくれそうなので薪を作ることにした。
さっそく家近くの斧を振るって細めの木を切り倒し、円柱状に切っていく。
そして半分に切って薪サイズにして、近くの地面に積み始める。
「……雨降ったらしけっちゃうな。いずれは屋根もつくった方がよさそう」
「薪にしたら自宅の中に入れておきましょう。場所は余ってますし」
鶴ちゃんの言う通りだ。おばけ竹屋敷は広い上に、ロクな家具がないのでほぼ持て余しているし。
「ただこの薪をどうやって街まで持っていこうかな。背負っていく?」
「ひょうたんに入れて運ぶのではないのでしょうか?」
「……街に神器を持っていくのはマズイ気がしてるんだけど、どうかな?」
「あー……」
やはりマズイらしい。騒ぎになって目立つのも嫌だし置いていこう。
つまりひょうたんや打ち出の小づちは持ち歩けない。そうなると薪を運ぶカバンかなにか必要だな。
「それと島亀ちゃんから街までの距離も気になるかな。遠いと三日じゃ戻ってこれないし」
「そちらは大丈夫です。移動手段を用意いたしますので」
「移動手段? なにか乗り物でもあるの?」
「はい、一日ほどお待ちくだされば」
とのことなので鶴ちゃんは山に入っていった。俺は今日は木を切って、ふぇありーちゃんたちが火魔法で乾かす作業を行った。
そして翌日も引き続き外で薪を作っていると、鶴ちゃんが戻って来た。彼女の後ろには絨毯みたいなのがフワッと浮いてついてきている。
絨毯は真っ白ですごく綺麗だが、なんで浮いてるのだろうか。
「鶴ちゃん。その後ろで浮いてる絨毯はいったい……」
「この子は絨毯ではなくて
「一反木綿って妖怪じゃなかったっけ。そんなの織れるんだ……」
『カイト殿知らぬのか? 一反木綿の正体は鶴の恩返しで織られた布なんじゃぞ』
「そうなの!?」
驚愕の事実である。まさか鶴の恩返しから妖怪が生まれていたとは……!
『ふっふっふ。まあ嘘なんじゃけど』
「微妙に信憑性ありそうな嘘はやめよう?」
一瞬本当に信じてしまったじゃないか。
「そういえば一反ってどれくらいの大きさなの?」
「300畳くらいでしょうか。田んぼの単位にも使われますからね」
「一反ってそんなに大きかったんだ……」
一反木綿ってヒラヒラであまり強い妖怪のイメージなかったけど、実はわりとヤバイのでは? そんな大きな布で包み込まれたら窒息死させられるかも。
あれ? でも目の前の絨毯はベッドのシーツくらいのサイズなんだけど。
「この子は一反もないですよ。時間もありませんでしたので、六畳くらいです。後は木綿でもないんですけどね。私の羽根で作りましたので」
六畳でも十分に大きい、いや広いとは思う。
するとふぇありーちゃんたちがぴょんぴょんと跳ね始めた。
「こいつ一反ないのー?」
「ないですね」
「木綿でもないありー?」
「違いますよ」
「じゃあこいつ、一反でも木綿でもないふぇあー。偽りの生物ふぇあー」
「ま、まあ厳密に言えばそうかもしれませんね」
「じゃあこいつなんなのー?」
ふぇありーちゃんたちの無垢な口撃に、鶴ちゃんは少し困っている。
確かに一反でも木綿でもないなら、この絨毯みたいなやつはなんになるのだろうか。
……
何故かジワリジワリと追い詰めるように後ずさっていく鶴ちゃん。そして追い込むようににじりよるふぇありーたち。
「一反でも木綿でもない一反木綿はおかしいのー」
「魔法の絨毯なら許すありー」
「いえあの絨毯ではないので……」
「名前に偽りありふぇあー。これじゃあ鶴じゃなくて詐欺の恩返しありー」
「そ、そんなつもりは……」
「こら三人とも。鶴ちゃんが困ってるからそろそろやめなさい」
「「「はーい」」」
さて一反木綿(偽)は見た目空飛ぶ絨毯だが、本当に重い薪が運べるのだろうか。
「鶴ちゃん。試しに薪を載せてみていい? 墜落しない?」
「もちろんです! かなりいっぱい載せても大丈夫なはずです!」
自信満々な返事が来たので、試しに薪をひとつ一反木綿に置いてみる。
全然微動だにしないし高度も落ちないので、ためしにさらにひとつ。大丈夫そうなのでこのままさらに追加して……。
「僕らが試してやるのー」
「落ちろありー」
「フライングボディプレスふぇあー」
ふぇありーちゃんたちがいきなり一反木綿に飛び込んで、そのまま上に乗ってしまった。
だがそれでも一反木綿は特に高度も落とさずに、余裕をもってフワフワしている。
「落ちるのー!」
「僕らの重さを喰らうありー!」
とふぇありーちゃんたちが一反木綿の上でピョンピョン跳ねるが、それでもビクともしない。
「無駄です! この子は私たち全員を乗せて、さらに大量の薪を運べるくらい力がありますから!」
どうやらかなり浮遊力(?)が強いようだ。これなら移動手段としては申し分ない。
「鶴ちゃん、こんな素晴らしいモノをありがとう」
「いえいえ、私も織るのがすごく楽しかったですから。うふふ……やはり織物は素晴らしいです……」
「ところでこの子の名前どうしようか」
「…………い、一反木綿でお願いします。たとえ一反なくて木綿でなくても、この子は一反木綿なんです! 一反木綿として生まれたことまで否定しないであげてください!」
そういうわけで一反木綿(六畳羽綿)で話がおさまって二日後。
島亀ちゃんが陸地に到着したので、俺たちは一反木綿に乗って近くの街へ遊びに行くことにした。
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