第8話 育つ畑
畑にジャガイモを植えた翌朝、すでに畑から芽が出ていた。
「……なんで? いやいくらなんでも成長早すぎない?」
「育ってるなのー。僕らの真摯なお願いが通じたのー」
「いや思いっきり脅してたよね」
「島亀様の土を使って、しかも神湖の水で育てていますからね。急成長も当然ではないでしょうか」
「なるほど確かに」
鶴ちゃんの言葉に思わずうなずいてしまう。
というかふぇありーちゃんたち、やはり神湖の水で畑の水やりしたようだ。
そりゃそうだよな。近場に水があるのだから使わない理由はない。
「もっと脅せばさらに育つかもしれないなふぇあー!」
「おどれらもっと早く育つありー! その芽を抜いたるありー!」
「明日までに実がなってないと、その命はないなのー!」
ふぇありーちゃんたちは味を占めて畑に向かって叫ぶ。
でも脅しじゃなくて神湖の力とかだから意味ないと思う。
「……ここまで早く育つなら本格的に畑を作ってもいいかもね。育つまで数か月かかると思って、お試しもかねて小さい畑にしたけど」
そう告げた瞬間、鶴ちゃんが目の色を変えた。
「でしたら小豆はいかがですか!? 小豆があれば服を染められます! 他にも藍なども……! ザクロなどもいいですし、紅花にマリーゴールドに……!」
すごい勢いだ。やはり鶴ちゃんは服の話となると熱くなるようだ。
「え、えっと。まずは食べられるモノからかな。小豆って砂糖がないとあんこにできないし」
だがまずは日々の食事になるもの優先だ。嗜好品はどうしても優先順位が下がってしまうわけで。
「そ、そうですね。失礼しました……」
「いや気にしなくていいよ。ふぇありーちゃんたちー、畑を広げるの手伝ってー」
「いまイモを脅してるから手が離せないふぇあー!」
「イモってるんじゃないありー!」
「このイモー!」
もはやただイモをイモと言ってるだけだが、脅してるつもりなのだろうか。
「じゃあ手だけ貸してよ。口はイモを脅してていいから」
「わかったなのー」
「わっせわっせありー」
俺たちはがんばって耕して畑を二倍ほどに広げた。少し細長い形になってしまったが仕方ない。四方の広さを合わせようとすると、四倍くらい広げないとダメだし。
「イモをまた育てるなのー?」
「なら僕たちも悪口の種類を増やす必要があるふぇあー」
「悪口言わなくていいから……それと次はイモじゃなくて麦を育てようかと」
やはり麦と米は育てたいよな。パンと白米は正義だし。
そんなわけで打ち出の小づちを振るって小麦の種を出して、畑に一粒ずつ植えていく。
「そういえば小麦と大麦ってなにが違うなのー?」
「子供と大人ありー?」
「どうなんだろう。鶴ちゃん知ってる?」
「品種自体が違うそうですよ。パンを作るなら小麦の方が適しているとか」
そんな雑学を聞いているうちに麦を植え終わった。これで数か月後、じゃなくて数日後には収穫できるといいなあ。
「きゅうん」
そんなことを考えているとイタチが畑の近くに寄ってきた。
よく見ると少し後ろ足を引きずってる気がする。
「敵襲なのー!!!」
「イモを守るありー!!!」
「鬼ならぬイタチごっこふぇあー!!!」
「三人ともストップ。怪我してるみたいだし」
イタチにゆっくり近づいていくが逃げる気配がない。
やはりというか右足の毛に少し血がにじんでいる。怪我のせいで食事にありつけないのだろうか。
「きゅうん」
そんなイタチはつぶらな瞳で俺の方を見つめてくる……か、可愛い。
「主様。イタチは畑にとっては害獣です。毛皮を取って処分いたしましょう」
「か、可愛いからやめよう? というか飼えないかな?」
昔から犬や猫を飼いたかったのだ。残念ながら両親は獣嫌いで、一人暮らしの時は仕事が忙しくて余裕がなかったが。
だがいまなら飼えるのではなかろうか。というかこんな可愛い生き物を殺すのは俺には無理っ……!
少なくとも怪我が治るまでは保護したい。それくらいは許されるはずだ。
「飼うのですか?」
「うん。ほら畑の番犬代わりとかで」
「イタチ自身が畑の盗人なのですが……飼い犬に手を噛まれるのがオチですよ?」
「懐いてくれたら言うこと聞いてくれないかな? ほら犬だってもともと肉食だけど人の言うことを聞くし、待ても出来るんだし!」
「主様がそこまで言うなら止めませんが」
「敵を仲間にする熱い展開なのー」
「また裏切りそうふぇあー」
「それも乙なのありー?」
ということでイタチを飼う許可を得た。得たと言ったら得た。
「こちら首輪です。木の繊維で作った間に合わせですが」
「ありがとう。よしイタチちゃん、逃げないでね……よしつけれた」
首輪をつけれたのでさっそくエサをやろうと思う。
「そういえばイタチってなにを食べるんだろう」
「雑食ですからなんでも食べますね」
「じゃあ湖で魚釣って来るね」
とのことなのでとりあえず神湖で魚を釣ってきて、生のままイタチちゃんの前に置いてみる。
するとガブっと噛んで魚を食べ始めた。
「お、食べた食べた。じゃあ次は身体を洗おう」
イタチちゃんの身体を水で洗って、日が暮れて来たので自宅(おばけ竹屋敷)に招き入れた。
どうやら懐いてくれたのか、イタチちゃんは俺の傍まできて丸くなって眠ってくれた。なんていい子なんだ……。
それで俺もいつの間にか寝て、気が付いたら翌朝。
「きゅうん!」
イタチちゃん、二足で立っていた。しかも両手が鉄の鎌みたいになってる。
「神魚を食べたことでカマイタチになったようですね」
どうやら妖怪変化してしまったようだ。ま、まあ両手が鎌になって二足歩行できるだけで、可愛さは変わってないから……。
いや鎌が怖いけど。どんなに可愛くても鎌は怖いけど。
「僕らもそのうち変化するなのー」
「家に住んでるからたぶん座敷わらしになるありー?」
「そのうち自立する時が来るふぇあー!」
そういえば以前に島亀ちゃんが、一個の生命体にとか座敷とか言ってた気がする。このことだったのかな。
でも座敷わらしは家に居候する妖怪だが自立と言うのだろうか。というかうちに座敷ないから、屋敷わらしにならないだろうか。
などと考えていたところ少し地面がグラッと揺れた。
『カイト殿ー、もうすぐ我の身体を陸地につけるのじゃー。よかったら他の土地に上陸してみてはいかがかのー?』
と脳内に声が響いたのだった。
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