第7話 小さな畑


 俺たちはおばけ竹屋敷の前で、クワを使って畑を耕すことにした。


 ちなみに最初に植えるのはジャガイモだ。打ち出の小づちですでに種イモは用意している。


「わっせわっせなのー」

「イモのためならえんやこらーありー?」

「この畑で獲る米が楽しみふぇあー!」

「畑で米は獲れないけど」

「「「ふぇあっ!?」」」


 ふぇありーちゃんたちも畑を耕してくれている。ただクワが一本しかないので一人ずつ交代制だが。


「お疲れ様です。手ぬぐいを織りましたのでいかがでしょうか?」

「ありがとう鶴ちゃん」


 鶴ちゃんからタオルを受け取って汗をぬぐう。


 四方二メートルくらいの小さな畑だが、それでも耕すとなると思ったより大変だ。


「あの。打ち出の小づちを使えば畑も作れるのではないでしょうか?」


 鶴ちゃんの言うことは正しい。打ち出の小づちは素材さえ揃っていればなんでも作れる神器だ。


 ならば振るって祈るだけで畑は完成するだろう。だが、


「なんでも頼るとしっぺ返しが怖いから……自分で出来ることはなるべく自分でやろうかと」


 日本の昔話でよくあるだろう。こういった神器に甘えたり、欲をかくとロクなことにならない。


 なので簡単に出来ることはなるべく自分の手でやろうと思った。基準はおいおい決めていくがとりあえず畑を耕すくらいはね。


 そうしておおよそ六畳くらいの広さの畑が完成した。


「完成なのー」

「やったありー」

「米食べたいふぇあー。植えてみないとわからないふぇあー」


 どうやらまだお米のことは諦めてないらしい。田んぼ作らないと無理なんだけどなあ。


「じゃあまずはジャガイモを植えようか。小づちよ小づちよ、ジャガイモの種イモを出してください」


 打ち出の小づちを片手に持って振るうと、種イモがどこからともなく現れてポトリと地面に落ちた。


 さらに一振りするともうひとつ。さらに振ればあら二つと出てくる。


 本当に植物の種くらいのモノなら出せるのか。すごい、流石はおとぎ話公式チートアイテムだ。


 そうして数十個ほど種イモが出て小さな山になった。


「これがジャガイモー?」

「食べられるありー?」

「種イモだから食べちゃダメだよ。じゃあさっそく畑に植えていこうかな」

「私も手伝いますね」

「せっかく綺麗な着物なのに土で汚れない?」

「大丈夫です。汚れてもいいモノですので」

「じゃあスコップ使ってよ。俺は素手で大丈夫だから」


 俺は素手で地面を掘って畑に種イモを植えていく。


 すでに耕しているのもあるが土はものすごくやわらかい。なんかいい土な気がするのでジャガイモが育ち切った後が楽しみだ。


 ふぇありーちゃんたちも頑張ってイモを畑に植えている。


「根性見せて育つなのー! 明日には収穫させるなのー! じゃないと潰すなのー!」

「楽しみにしてるありー! 育ってないと許さないありー!」

「育たないと引き抜いて捨てちゃうふぇあー! なんかひどい目に合わせるふぇあー!」


 いや頑張ってイモを脅していた。頑張る方向が違うと思う。


「ジャガイモは育つまで数か月かかるよ?」

「「「!?」」」

 

 ふぇありーちゃんたちはこの世の終わりのような顔をした。


「明日には食べるつもりだったなのー……」

「もうお腹がイモっ腹ありー……」

「神様ー! 明日にはイモを育ててふぇあー!」


 などと思い思いに口にするふぇありーちゃんたち。


「イモが食べたいなのー……」

「あ、そうだ。代わりにイモムシを捕まえるありー!」

「そうするふぇあー!」


 などと言い残して去っていくふぇありーちゃんたち。まったく代わりにならない気がするけど、当人たちがいいならいいのだろう。


 そうしてイモを植え終わったので、湖の水を手ですくって飲む。うん冷たくて美味しい。


「お疲れ様です、主様。今日は私が食事を作ってもよろしいでしょうか? 山菜を取ってきますので」

「いいの? 俺も手伝うよ」


 美味しいとは言えども魚ばかりで少し飽きてきたところだったので、野菜が食べられるのは嬉しい。


 俺と鶴ちゃんが山に入ると、ふぇありーちゃんたちが合流してきた。


「イモムシいないのー……」

「普段はいるのに、探すと見つからないありー……」


 どうやら物欲センサーが発動してしまったようだ。ガッカリするふぇありーちゃんたちの頭を撫でると、


「こうなったらイモが成長するように頑張るのー」

「水やるありー」

「ふぇあっ! ふぇあっ!」


 と言い残してまた去っていくふぇありーちゃんたち。すごく自由である。


「でもイモムシいないんだね。こんな森なら探せばすぐ見つかりそうなのに」

「ふふっ、今は島亀様は冬の海を渡ってますからね。イモムシは冬と勘違いして出てこないのでしょう」

「……そういえば島亀ちゃんは海の上を動いてたね」


 普通に暮らしているので少し忘れかけていたけど、俺の立っている地面は常に動いているんだった。


「島が動くってすごいよね。この世界の人たち、急に島亀ちゃんが来たら驚きそうだ」

「大丈夫ですよ。この世界では島亀様の存在は常識です。島亀様は一年で世界を一周しますが、いつも同じ航路でたまに陸地に身体をつけるのですよ。だいたい毎年同じ時期なので、その期間は島亀様を祭るお祭りが開かれます」

「島亀ちゃんすごいなあ」

『そう我はすごいのじゃ。もっと崇めて欲しいのじゃ』


 なんて脳内で声が響かなければもっとすごいんだけどなぁ。


「あ、そこにキノコがありますよ」


 などと鶴ちゃんが告げるので見ると、木の側にキノコがいくつか生えている。


 茶色いシイタケっぽいのと、細いエリンギっぽいのがあったので、さっそく取ってひょうたんに吸い込ませ始める。


 他にもツクシのような山菜があったのでそちらも取っていく。


「主様、全て取ってはダメですよ。山菜は少し残せば来年も生えてきますから」

「了解」


 そうして俺たちは山菜やキノコを採って、おばけ竹屋敷のそばまで戻った。


「主様。竜の一部を頂いてもよろしいでしょうか? 肉から良質な油がとれるんです。天ぷらにしようかと」

「もちろん!」

「では私は鍋の用意をしますね」


 鶴ちゃんは近くの木の皮をちぎると、ほぐして糸にした。そしてその糸でなんと紙鍋や紙皿を作ってしまった。


 そして濡らした紙鍋に油を入れたものを、たき火で温め始めた。


 紙鍋で揚げ物ってできるのだろうかと思ったが、鶴ちゃんの神通力なりがあるのだろう。深く考えないことにした。


「えっと。ひょうたん、竜を出してくれるかな」


 ひょうたんの小さな小さな口から、全長3メートルはあるだろう竜の亡骸が外に出てきた。


 そして鶴ちゃんは竜の肉を切って白い脂身の塊を取り出して、鍋に入れて熱すると油になっていく。


 さらにキノコや山菜が油に投入されていく。小麦粉などはないので素揚げのようだ。ちなみに箸は木の枝を洗ったものだ。


 少し山菜にいい色がついてきた頃合いで、


「お腹空いたのー」

「水やりしてきたありー」

「無駄飯食らいに来たふぇあー」


 ふぇありーちゃんたちが図ったように合流してきたので、木の枝で作った箸で天ぷらを紙皿にあげていく。


 そして鶴ちゃんが持参の塩を振りかけてくれた。


 俺たちはそこらの岩にすわって食事を始めた。まずはキノコを一口、素揚げでもパリッとしていて美味しい。


「天ぷらなのー」

「天を名乗るおこがましい食べ物ありー」

「でも美味しいふぇあー。これは天を名乗っても許されるふぇあー」


 ふぇありーちゃんたちもご満悦のようだ。鶴ちゃんも機嫌よさそうに食べていた。


 そうして全員が食べ終わって一息ついたのはよかったが、ふぇありーちゃんたちが気に入り過ぎてしばらく天ぷらが続いたのだった。


 もし明日倒れたら天ぷらが死因だな……そういえば某徳川家康さんも天ぷらが原因で死んだらしい。

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