第6話 島をぐるりと
この島に来てから三日が経った。
色々とあったが鶴ちゃんにより衣を、神湖の魚で食を、ツリーハウスで住をひとまず確保できたことになる。
ちなみに鶴ちゃんは名前を持っておらず、俺に考えて欲しいと言われてしまった。
流石に人様の名前を考えるとなると、迂闊なモノはつけられないので少し考える時間をもらっている。
ともかく生活の基盤が整って余裕ができたので、今まで放置していたことが気になり始めた。
「この島がどうなってるか探検してみたいんだ」
明朝、自宅(おばけ竹屋敷)で俺はそう宣言する。
「探検ー?」
「ズブッと刺してー」
「相手は死ぬふぇあー」
「それは短剣。それで鶴ちゃんはどうかな?」
ふぇありーちゃんたちにツッコミを入れつつ、鶴ちゃんの方に視線を投げかける。
「私は主様に従います。ですがこの島はそれなりに広いですよ? 魔物がいるのは問題ないとしても」
「……魔物?」
なんか物騒な単語が出て来たぞ。
「はい。この島には強力な魔物が多く生息しています。島亀様のお力の影響でしょう」
「えっと、例えばどんな魔物が?」
「例えばでしたら竜や鬼でしょうか。他には河童や幽霊、
「りゅ、竜や鬼がいるのは怖いな……餓鬼ってなに?」
「子供くらいの大きさの鬼です。食べ物があると知れば寄ってきて襲ってきます」
「ここも危ないのでは?」
スローライフだと思ったらかなり過酷な環境に放り込まれていた!?
「いえこの付近は世界で最も安全です。なにせ神域ですので、許可なき者は立ち入ることすら不可能です」
「安心安全なのー」
「まあ僕たちなら竜くらい楽勝ありー?」
「かば焼きにしてやるふぇあー」
ニコリと笑ってくる鶴ちゃんと、シュッシュと短い手で空パンチを繰り出すふぇありーちゃんたち。
どうやらここは安全地帯なようだ。なら引き籠れば危険はないと。
「でもそもそもですが、主様なら竜ごとき瞬殺できますよ」
「……は? いや無理でしょ。だって竜でしょ?」
流石に意味不明過ぎて困惑する。なんで一般人の俺が竜なんぞを殺せるというのか。そういうのは伝説の英雄とかだろ。
ジークフリードとかバルムンクとかエクスカリバーとかの出番だろ。あんまり詳しい話知らないけどさ。
だが鶴ちゃんは冗談を言っている様子もなく、首をかしげるばかりだ。
「主様は湖の神水を毎日飲んでますし、身体も洗ってますよね?」
「え? まあそうだね」
「それに神魚も食べてますよね?」
「現状の主食だね」
「神から賜った物をたらふく食べてるわけですよね? 神話でもそうそうないレベルですし。おそらく世界最強級の強さだと思いますよ? 竜や鬼の方が恐れて逃げるくらいには」
いつの間にか俺が化け物になった件について。
「僕たちは強くなりすぎてしまったのー」
「僕より強い奴に会いに行くふぇあー」
などと言ってるふぇありーちゃんたちも、神水とか飲みまくってるんだよな。そういえば以前に丸太を運んだ時もすごく軽かったが、神水によるパワーアップの影響だったのか。
「えっと。つまりこの島は安全ってことかな?」
「その通りです。それに私の織った服もそこらの金属鎧よりも丈夫ですよ」
「こんなにヒラヒラな着物なのに? そりゃすごい」
「……っ。褒めて頂けるなんて……!」
鶴ちゃんは感極まったように顔を手でおさえるが、すぐに持ち直すと。
「では行きましょうか主様」
というわけで俺たちは島を一周することになった。念のために打ち出の小づちと、さらにひょうたんを腰につけていくことにした。
打ち出の小づちはなにかしらの役に立つだろう。ひょうたんは念のためだ。
打ち出の小づちは使ったこともあるので、神器を二つ持っていても大丈夫だろうたぶん。
まずは南の方向にまっすぐ進んで、しばらくすると海岸に出た。
海の向こうを見るとわずかに山が見えた。でも少しずつ小さくなっていってる気がする。
「島亀様が動いておりますから、陸から遠ざかっているのですよ」
「島亀様はけっこう速く泳ぐのー」
「亀なのに遅くないありー」
「駆けっこしたらうさぎに勝てるふぇあー」
「よーいドンと共にぷちっ、で勝ちなのー」
「それ勝つの意味違うよね?」
島亀様すごいなあ、と改めて感じる。島がひとつの生き物なんて信じられない。
『いやあそれほどでもないのじゃあ。もっと褒めてもいいのじゃよ?』
などと脳内声が聞こえなければもっと尊敬していただろう。
「そんな村長にお耳寄りな情報がー」
「実は島亀様はのじゃ語使いじゃないありー」
「村長相手だと偉ぶるために使ってるだけふぇあー」
『余計なことを言うんじゃないお主ら!』
俺たちは少し話しながら海岸を歩いていく。このままグルリと島を一周して戻って来るつもりだ。
ちなみに目印としてふぇありーたちが砂浜に砂の城を作った。たぶん二日も経たずに崩れるだろうけど。
「タイマー機能つきの目印なのー」
「早く戻らないと消えるという事実が、僕らの足を早くするありー?」
「そうして間に合わず、僕らは帰れなくなったふぇあー!」
「他の目印にしない?」
「「「やだー」」」
そしてしばらく海沿いを歩いていたところ、なんと虎が出てきて襲いかかってきた!
「ぐるぁ!」
「あら素敵な毛皮ですね! いただきます!」
鶴ちゃんが歓喜の声とともに翼から羽根を飛ばした。すると一枚の羽根が虎に刺さった瞬間、虎は凍ったように動かなくなる。
よく見るとすごく細い糸が虎を縛っている。そして鶴ちゃんは自分の翼を触手のように動かして、アッと言う間に虎の毛皮を全て剝いでしまった。
「きゃいんきゃいん!」
毛皮を剥がれた虎は悲鳴をあげて逃げて行く。ちなみに毛皮がない虎は灰色っぽいがトラ模様は残っていた。
トラの面目躍如と言ったところだろうか。見た目的な意味で。
「また毛が生えたらぜひ来てくださいー!」
絶対来ないと思う。
「主様、このトラの毛皮を絨毯にしましょう!」
なんと豪華な絨毯だろうか。正直もったいない気もするが、でも他に使い道も思いつかない。
「じゃあ試しにひょうたんに入れて持って帰ろうかな。えっと、あのトラの毛皮を吸い込んでもらえる?」
ひょうたんを構えて告げると、さっそくひょうたんがトラの毛皮を吸い込んだ。片手で持てるはずのひょうたんが、大きなトラの毛皮を吸い込むのは不思議だ。
「……ねえ島亀ちゃん。確認するけど本当にひょうたんの中では物を溶かさないんだよね? 帰ったら毛皮なくなってましたは嫌なんだけど」
『大丈夫じゃ。カイト殿が望まない限り、ひょうたんの中身が溶けることはないのじゃ』
と確認が取れたので俺たちは先に進むことにした。
そうして二日ほど歩いて(途中から走って)、島を一周し終えた。
結論から言うと島の外縁はすべて海岸で、付近の内陸は森か竹やぶか岩山ばかりだ。たまに小さな鬼の餓鬼が出たが、
「一万年早いふぇあー」
とふぇありーちゃんたちがぶっ飛ばした。ちなみに俺も倒した、竜を。
なんか細くて長くて大きい竜が空を飛んで襲ってきたので、思わず持っていたひょうたんを投げてしまった。するとひょうたんが直撃して竜は墜落してしまったのだ。
「村長が竜殺しになったのー」
「ドラゴンレイヤー村長ありー」
「それただのコスプレした人じゃない?」
「じゃあドラゴンアイヤーありー?」
「チャイナ服着てそう」
「瓢箪から駒の勲功ふぇあー」
竜はお亡くなりになっていたので、ひょうたんに吸い込ませて持って帰ることにした。
「証拠隠滅なのー」
「完全殺人にもってこいふぇあー」
「一犯罪に一台欲しいありー」
「そうなったらホームズもお手上げだろうなぁ……」
そうして俺たちは自宅のおばけ竹屋敷(ふぇありーちゃん命名)へと戻ってきて、
「ひとまず島を一周してみたけどけっこう広いね」
「そうですね。今回は外側ですので海岸ばかりでしたが、内陸には色々なものがありますよ」
「そうなんだ。じゃあまた今度行ってみようかな。とりあえずやりたいことがあるから後回しになるけど」
「やりたいことってなにありー?」
「僕たちのパンなのー?」
「村長ー、パン買ってきてふぇあー」
ふぇありーちゃんたちが俺にじゃれてくるので、全員撫でてから笑いかけると。
「そうそう。畑を作りたいなって思ってさ。麦とか育てられたらなって」
やはりスローライフと言えば畑だろう。それに魚ばかりでは食が偏るし。
「言ってみるものですなー」
「パンパンパパンがパンありー?」
「米も食べたいふぇあー」
米もいいなあ。とは言えど田んぼは簡単には作れなさそうだし、まずは畑だな畑。
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餓鬼は日本版ゴブリンです。
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