第4話 おばけ竹屋敷


 魚を焼いて食べた後、俺たちは洞窟の中で一夜を過ごした。たき火を囲んでの夜はちょっと楽しかった。寝袋があれば完璧だったな。


 そして翌日、俺たちは湖の側に戻ってきた。やはりこの近くを拠点にしたいよな。


「そういうわけで家が欲しいんだけど、誰か建築とか詳しかったりしない?」

「僕たち根無し草なのでー」

「洞窟ですら寝たことないありー」


 ふぇありーたちに住居という概念はないので、当然ながら家の建て方など知るわけもないと。

 

 残念ながら俺も家の建て方など知らない。


『カイト殿ー。机の上に朱色の小づちがあったじゃろ? あれは打ち出の小づちじゃ。それで家を建ててくだされ』

「打ち出の小づちって振ったら大判小判や食料が出せるやつ?」

『それほど便利な代物ではないのじゃ。軽くて小さいモノを少しだけ出したり、素材が揃っていれば完成品を作れる程度じゃ』

「便利どころか凄い代物だ……」

『なので木を集めて小づちを振るえば、たぶん家を建てられるのじゃー』


 なんと便利なチートアイテムだろう。そういえば原作(?)の一寸法師でも、宝を出したり大きくしたりとやりたい放題してたな。


『他だとひょうたんはなんでも吸い込むので、モノの持ち運びに便利じゃよ』

「もしかしてそのひょうたんは、西遊記の相手を吸い込んで溶かすやつでは」

「本物と違って生き物は吸い込めないんじゃよ。それと望まなければ溶かす力は発動しないのじゃ。便利なので多く入るカバンとしてでも使ってくだされ」


 中身を溶かす力を持つとはなんて物騒なカバンだろうか。ホラー作品で出てきそうなレベルだ。


「う、打ち出の小づちだけで十分なんだけど」

『命を助けられたのじゃから、もっと恩を返せないと我が困るのじゃ。神として人に借りがあっては困るしのう。助けると思って受け取ってくれぬか』


 なるほど。確かに神様が人に借りがあるのはよくはないだろう。


「すま……いやありがとう。早速使わせてもらうよ」


 謝りかけたがお礼を言っておく。


 さて打ち出の小づちを使えば家を建てられそうだな。ひょうたんは持てあましそうなのでひとまず使わないでおこう。


 神器とやらをいきなり二つ同時に使うの怖いし。せめて片方使ってみてからじゃないと、なにか副作用とかあったら困る。


「……時間もあるし試しにやってみるか」


 テーブルの打ち出の小づちと、金の斧を手にとって、近くに生えている木の元へ向かう。


 湖をかこむように森があって、そこには大小さまざまな樹が生えている。


 ちなみに一番大きいのは竹である。太さが10メートル以上ありそうで世界樹と言われても信じるくらいの竹。


 竹ってこんなに太くならないだろうと思ったが、手に持ってる打ち出の小づちに比べれば現実的かもしれない。


 まあこんな大きいのは切るの無理だろうし、いまは関係ないな。


 まずは家の木材を切らなければならないので、打ち出の小づちではなく斧を使おう。


 ちょうどいい丸太くらいの太さの幹なので、うまく切れたら使いやすそうだ。問題は金の斧でうまく伐採できるかだが。


 物は試しと斧で木を叩いてみる。するとまるで木が豆腐のようにスルッと切れて、バッサリとへし折れ地面に倒れた。


「……まじ? ものすごい切れ味なんだけど」

「伝説の斧ですからなのー」

「スローライフスターターセットは伊達じゃないってことありー?」

「思ったよりお買い得ふぇあー」

「すごいな……」


 思わず斧を凝視するが刃が欠けている様子もない。金ってそんなに硬くないイメージなのに。


 ともかく斧がすごいのでこれならいっぱい切れそうだ。


 なので何本か木を切って自宅予定地の湖のそばまで運ぶことにした。丸太くらいの重さなので引きずったらなんとかなると思ったのだが。


「なんかすごく軽くないか?」


 丸太というより発泡スチロールみたいだ。ひょいと持ちあげられてしまったので、簡単に運びおえてしまった。


 実は中がスカスカなのではと手の甲で叩いてみるが、中は空洞ではなさそうだ。


「わっせわっせなのー」

「僕たちアリなのありー?」


 ふぇありーちゃんたちも三人がかりで木を運んでいた。なんか可愛いけど思ったより力があるな。


 そうして木を二十本ほど切り倒して湖の側に運び終えて、さっそく家を建て始めることにした。


 まずは家は一部屋の小屋にする。打ち出の小づちに頼るにしても木材が足りないし。


 そんなわけで家の敷地を木の枝で地面に書いて、木材をその上に積んでいく。


 そして手に持つは打ち出の小づち。


「えっと。打ち出の小づちよ、どうか家を建てて……いや待てよ」


 なんとなくおとぎ話チックな世界なので普通の小屋に住むのも面白みに欠ける。打ち出の小づちは素材さえあれば完成品が作れるというのなら。


 さっき見た巨大竹のそばに移動すると、


「打ち出の小づちよ。あの竹を家にしてください」


 なんとなく呟きながら振るうと、小づちから光の粒子が溢れる。それと同時に巨大竹が輝いて、幹に木のドアが生まれてしまった。


 ドアを開くと中は竹をくりぬいて作られた部屋になっていた。窓も取り付けてあるし、普通の一軒家よりも広そうだ。


「……うわすごい。流石はおとぎ話公式チートアイテム……」

『それ原典よりだいぶ劣化しておるのじゃ。一寸法師を巨大化はできぬし、一日では20グラムくらいの重さまでのモノしか出せぬ。本来なら米俵だろうが好きなだけ出せるのに……申し訳ないのじゃ』

「いやいや十分すぎるくらいだから。こんなすごいモノをくれて本当にありがとう」


 巨大竹をくりぬいた家なんておとぎ話っぽくていいよな。


「僕らもここに住むふぇあー」

「今日から無賃宿ありー?」


 ふぇありーたちも余裕をもって寝泊まりできそうだし、素晴らしい家と言わざるを得ない。


 そうして打ち出の小づちに感謝しつつ、湖で魚を釣って焼いて食べたらもう夕方だ。


 さっそく暗くなったら眠るために竹屋敷に入る。ふぇありーちゃんたちも順に入ってきた。


「風が来ないふぇあー」

「快適ありー」

「ごろごろなのー」


 ふぇありーちゃんたちは床で寝転がっている。


 うーむ、木の割には柔らかいがそれでもベッドが欲しいな。


 衣食住のうち、ひとまず食と住はなんとかなった。なら次は衣かなぁ。

 

 他にも服とかも必要だしな。まあ別に死ぬわけじゃなし、明日以降にまったり考えていこう。


 今日はもう夜になったら眠るのだ。明かりもないし急ぎの用事もないからな。


 ……日本にいたころなら今も仕事で必死だろうな。それで終電くらいで帰って、寝てという生活だった。


 そんな俺が暗くなったら眠る暮らしをするとか、いまだに信じられない。


「ごめんくださいー」


 すると扉がコンコンと叩かれて外から女の人の声が聞こえた。


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打ち出の小づちとかいうおとぎ話公式チートアイテム。

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