第3話 スローライフスターターセット
「結局のところ、てきとうに我の背中でくつろいで余生を送って欲しいのじゃ。それが命を救われたことに対するお礼なのじゃ。この島にあるモノはなんでも好きに使っていいのじゃ。他の人間も住んでるから、なんでも盗っていいのじゃ」
「それはダメだと思う」
「カイト殿は他人に気を使うんじゃのう。じゃあ困ったら我を呼ぶのじゃ」
島亀ちゃんはそう言い残して消え去ってしまった。
取り残された俺とふぇありーさんたちは顔を見合わせると。
「村長って呼べばいいー?」
「それか国長ありー?」
「とりあえず長でしっくりくる呼び方探すふぇあー」
フェアリーさんは俺の呼び方を考え始めたようだ。とりあえず長ってつけたいらしい。
それとふぇありーさんたち、背中の羽根でパタパタと宙に浮いている。
「えっと。俺は
「長いモノには巻かれろと言うのでー」
「僕たちより背が高いふぇあー」
それ長いの意味が違うと思う。
「じゃあ
「
「口八丁手八丁なのー」
「
「「「いいかもー」」」
「待ってそれはやめて!?」
そうして色々と話が脱線しながら話し続けられた結果、
「村長に決まったありー」
「決着がつくまで長い戦いだったー」
「ほんとにね……」
俺はふぇありーたちに村長と呼ばれることになった。ちなみに三十分くらいは話していたと思う。
「ところでふぇありーちゃん。この世界ってどんなところなの? 神様の世界でいいのかな?」
なんとも奇々怪々な話というか、俺の中ではここは天国とかのイメージになっている。島亀神様だし。
そのイメージが合ってるかの確認をしたい。
「神様の世界じゃないのー」
「魔法がありー」
「島亀様のお外にも世界があるふぇあー」
「でも島亀様の背中は、神様の世界みたいなものー?」
うん。ふぇありーちゃんたちに聞くのは不毛かもしれない!
『ここ自体は神の世界ではなく、普通の人間も生きてる異世界なのじゃ。でも我の背中の上はわりと物理法則とか無視しておる。神の世界みたいなものじゃ』
地球に神様の国が存在しているようなものだろうか。
まあいいや。理解しきろうとしても無理だろこれ。さっきから飛んでるふぇありーちゃんがいる時点でまともに考えてはダメだ。
『よかったら机に置いてるモノも見て欲しいのじゃ。スローライフスターターセットを揃えたのじゃ』
「スローライフスターターセット?」
なんだその心躍るセットは。日本ではスローライフできる場所が別売り(非売品)だろうけど、この世界なら問題ないし。
『流石に素手から始めるの大変かと思ったのじゃ』
「助かるよ。じゃあさっそく見せてもらおうかな」
「僕らもセット商品なのー?」
「二束三文の叩き売りありー?」
「安物買いの銭失いにしたるふぇあー!」
机の上にある道具は釣り竿、朱塗りの小さな木づち、金と銀の斧、木製のスコップにクワにバケツ。それとひょうたんが置いてある。
後は皿にパンが六つほど載ってる。ただ何故か食べ散らかされたパンのクズっぽいのが、机の上に散乱していた。
『あー!? パンが足りないのじゃ!? ふぇありーたち! お主らパンを勝手に食べよったのじゃ!?』
「「「おいしかったー」」」
『おいしかったー、じゃないのじゃ!』
「ま、まあまあ。俺はそこまでお腹空いてないから」
『う、うむむ。カイト殿がそう言うのなら……』
不承不承と言った様子の島亀ちゃんの声が脳内に響く。
『コホン。それらの道具は神樹で作ったのでかなり丈夫じゃ。なのでそれらを使って色々とやって欲しいのじゃ。湖に魚がいるから釣るとか、木を切って小屋を建てるとか』
「僕たちにご飯をくれるとかー」
「不労所得バンザイなのー」
『このコケたちもこき使ってくれて構わぬのじゃ!』
「「「そんなー」」」
さてどうしようか。スローライフというかライフに必要なのは衣食住の確保だ。
服はひとまず着ているものがあるから、食と住をなんとかしなければ。島亀ちゃんにお願いしてみるのもいいが、なんとなく頼りっきりなのは悪い気がする。
「ふぇありーちゃんたちはどこで寝てるの? 寝床とかあったら紹介して欲しいんだけど」
ふぇありーちゃんたちは人間の子供に見えるし、家とか持っているのではなかろうか。それなら少しの間だけ間借りするというのも。
「どこでも寝ますのー」
「昨日はそこの草原で寝てたありー」
ダメだ野宿民だった。というか島亀ちゃんが住居すら作らないって言ってたなぁ。
すぐに家を作るのは無理だし……と周囲を少し探索してみると洞窟っぽいところがあった。
いや洞窟というか、少し大きなかまくらほどの穴か。ひとまず雨風をしのぐのはここでよさそうだな。
よしまずは食だ。食べ物があれば最低限生きられるわけで。
飲み水があるのありがたいよな。本来なら水源の確保はすごく苦労しそうだ。
「そういえば湖に魚が泳いでたな。釣りしてみようかな」
「釣りー」
「僕らをエサにどうぞありー」
「食べたパンの代わりに、魚のエサになるふぇあー!」
「そんな謎に身体張らなくていいから……」
俺は釣り竿を手に湖のそばに立つと、ミミズっぽい虫を針につけて湖に放り込んだ。
ちなみにこのミミズは地面掘って取ったやつだ。ゴカイに比べて大きいからエサになるか怪しいけど、まあやってみる価値はあるかなぁ。
ちなみに木のバケツが机に置いてあったので拝借している。
「美味しい虫なのー」
「魚さん寄っといでありー」
「決して騙してないふぇあー!」
ふぇありーちゃんたちが喋る中、俺は座って釣り竿に魚がかかるのを待つ。
「虫はもっと根性みせるべきなのー」
「もっと美味しいってアピールするふぇあー」
「なに考えてるなのー?」
「食べられたくないからしないと思う……」
ふぇありーちゃんたちがゴロゴロと周囲を転がる中、俺はぼーっと釣り糸を湖に垂らし続ける。
あー……なんかまったりでいいなあ。日本では仕事仕事で時間がなかったのと、いつも誰かに負けたくなくて頑張っていた。
こんな釣りをする時間があるならば、他人に勝つために勉強をとなってたからなあ。
「ねー村長ー。泳いでいいありー?」
「魚が逃げちゃうからダメ」
「泳いだらダメなら、溺れたらいいってことありー?」
「それだー。いざゆかん、湖の奥底ふぇあー」
「やめなさい!」
ふぇありーたちを止めたところ、また地面を転がり始めた。
正直確認取らずに湖に入りそうだったから少し意外だ。助かるけど。
などと考えていると釣り竿に反応が来たっ!
「よっと!」
力任せに釣り竿を引っ張ると、湖からバシャッと魚が飛び出してきた。
釣り糸で宙に浮かぶ魚を掴んで観察してみると、なんかシャケっぽい気がする。
その後も釣りを続けて五匹ほど魚が釣れた。ふぇありーちゃんたちは三人なので一匹多く釣れちゃったな。
「えっと、火を焚きたいな。ライターとかあったらよかったんだけど……」
「お任せなのー」
「火魔法なら使えるありー」
ふぇありーたちは指の先に小さな火を灯していたので、木の枝を集めてたき火を作った。
そしてテーブルに戻って魚たちの口に木の枝を刺して、たき火の周囲の地面にさして焼いていく。しばらくするといい匂いがしてきたので、ふぇありーちゃんたちに一本ずつ渡して俺も一本を手に取る。
「よし。じゃあいただきます」
焼き魚をパクッと丸かじりしてみる。 う、うーん、塩味が足りない。
よく考えたら川魚って塩つけまくってるよなぁ。
「これは美味しいですなー」
「神の水で育った魚を食べられるありー」
「貴重な経験ふぇあー」
ふぇありーちゃんたちが魚に満足なのはよかった。でもやはり塩は欲しいな。
などと考えていると、一羽の鶴が俺たちの側に降りて来た。
鶴はバケツの中にある魚をじーっと物欲しそうに見ている。欲しいのだろうか。
「ちょうど一匹余ってるけど、いるかな?」
などと言いながらバケツを手に取って、鶴の側に持っていく。
すると鶴はバケツの魚をくわえて、どこかへと飛び去って行ったのだった。
「……ん? これがおとぎ話なら鶴の恩返しか?」
「恩を返すことを前提に助けるのはどうかと思うのー」
「村長最低ありー、畜生ありー」
「畜村長ふぇあー」
「違うからね? 渡してから気づいただけで」
そんなうまい話があるわけもない。俺は魚を全部平らげたのだった、うまい。
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