第10話「承・お前のビルドはつまらねえ」

〈ギルド『放課後クラブ』、〈栄光えいこう碑銘ひめい〉の前……〉

 そこには、知らない少年が1人居た。

「お前のビルドはつまらねえ」

「戦空……」

「半端に賢くなって、天井が視えて、解って、縮こまって、身動きが取れないってか? 何か凄いデッケー事をしたら回りが傷つくから怖いってか? 代償が怖くてノーリスクで事なきを得ようってか?」

「お前に何がわかる! 大いなる力には大いなる責任が伴う……!」

「そんなルール誰が決めた? お前の親か? 自分ルールも守れない奴に、大いなる力なんて宿るわけねぇ。そいつは誤魔化しだ」

「な、……お前は何もわかってない!」

「わかるさ、ウチの運命はウチが決めるだけだからな……!」


 そこへ、オーディン・ステラ・エイティーンが眼前に出る。

「お前! ここが何処か解っているのか!? ここは神聖な……」

 ドン! 一撃――!

 一撃で銀鎧を粉砕した。中には年季の入った青年が入っていた。

「こんな偽物に負けてるようじゃ、高かが知れてるな」

「い、一撃……」

「何で……あんなに強かったのに? レベル? テクニック? 心氣……?」

「理由なんかない……、屁理屈をネットで探しても屁理屈しか見つからないぞ?」

「……戦空」

「あ、あれは、俺の装備がナマクラな剣で……」

「武器のせいで負けたってか? テクニックはあるのに? 5%の力? それってさ、逆にお前はまだ5%の力量で良いやって、心の裏側では思ってるって事なんじゃねーのか? ウチはお前の本気が見たいな」

「お前は、……お前は一体何なんだ!」

 ギルド『四重奏』の少年、信条戦空は言う。

「ウチは、ただの戦空だ」

「こんのおー!」

 ココに来てビルドのスキルは進化した。


〈ビルドLv2〉

 「こころ言魂ことだまで出来ている!」という短い呪文の後に発動。対象物に対して、理解・分解・再構築を実施する。

こころ言魂ことだまで出来ている!」

 ドン! ――一撃! ――終わり。

 ビルドは戦空の一撃で死んだ。ゲームオーバー。

「お前のビルドはつまらねえ」

「ちく、しょう……!」

 何も出来ないまま、ビルドの意識は真っ暗になり。そして1つの目標が生まれた。……「あいつに勝ちてえ……」それが建前を叩き潰されたあとの本音だった。

 畜生、畜生、畜生。と、ビルドは反芻する。

 そして心の中の自分の声が聞こえた。


 死にたくない、殺したくない、傷つけたくない、それより快楽が単純だ。

 迷惑をかけたくない、皆の力になりたくない、弱さは見せたくない、隠したい。

 もう手遅れで、大丈夫じゃなくて、孤独で、お金がなくて、感情を抑えて。

 皆にあたり触りのない綺麗事を吐いて導かなきゃいけない。自分が司令塔だ。

 俺は生まれながらの指揮者だ、皆に指揮棒を振り、作り、良く回るように努力しなくちゃ。今までの自分が身勝手だったように、面白くなくても社会の歯車がよく廻るようにしなくちゃ。それが給料に繋がる、生きるに繋がる、長生きしたい、しかたないしょうがない気楽でいいや。無理なく、難なく、困難を避け、ハードルを下げ、皆がくぐりやすいように。1人の100歩より、100人の1歩を重視して……。

 でもさ、それって『逆』何じゃない?

 ……これ以上考えたくない……。俺はビルドだ、マイナスのスパイラルは生まない、作らない、それを作るのは他の知らない誰かの仕事だ、俺の仕事や趣味じゃない。

 ……じゃあさ。お前の闇はもう自分でビルドしないってことかい?

 正義と悪の中の正義しかいない優しい世界。それを作れば俺や俺の回りの人間は苦しまなくて済む。俺が本気を出すと、皆の仕事が忙しくなる。皆が、仲間が苦労する姿何て見たくない。

 だって、だってだって……! 俺が本気を出すと弱い人間の仕事がクビになって、生活出来なくて、生きていけなくて、苦しんで死んじゃうじゃないか……!

 そんなの嫌だ! なら俺は本気を出さない、のらりくらり生きて、いい感じの給料もらって、少ないながらでも小さな幸せを見つけて。それでビルド出来れば十分じゃないか。

 だから俺は、悪をビルドしない、それのどこがいけない! 悪は他の誰かの仕事!

俺の仕事じゃない! 俺が悪を書くと面白くなるけど面白くない! そんなの嫌だ!

 俺は面白いのしか書きたくない……だから……!


「やっとビルドを見つけられた気がするよ」

「お前は根っからの悪だっんだな、ケケケ♀」

 サキ……、デストロイ……。

 つまりこの話はどういうことかって?

 皆が100人の1歩を頑張るなら、俺は1人で1000歩頑張らなきゃ、殺す気で面白くならないって事だよ。凡人達に解りやすく言うとな。

 ――これは、大丈夫じゃない人間の物語だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る