第2話「承・葛藤」
別にメスガキな彼女が悪いわけでも無いし。回りからの評判、ウケが悪かったら保留、というのもちょっと違うが。もう少し1人で散策したいな、という思いもあってか。散策を希望した。と、その前にビルドは、咲にどうして今までのエンジョイプレイを辞めて、引退したのかを聞くことにする。
「ん~……。もうやり尽くしちゃったってのもあるかなぁ~世界を隅々まで遊び尽くしたというか……」
サキの返答にヒメが追記の補足をする。
「別に遊び場が無いわけではない、アシアー大陸を所せましと駆け回ったからな、3つの大陸のうちの1つだけだ。それで体感5年10年遊んだ気分になっちゃって、気分転換したくなった……というう風な体が正しいじゃろうな」
性格が真面目ゆえに、息抜きの仕方が下手だったのかもしれない。
サキは、攻略組のやり方を見習って、新しく拠点を移動するのもアリかもしれない。しかし、それこそ前人未到の神話の地だ。大変じゃないと言ったら嘘になる。
「攻略組に習って、新しいギルドの拠点、2号店? 2号街? を作るのも悪くないかもしれない」
というか、その手があったかもしれないな。と言う風だ。……今となっては新しい新人を応援した体もあるのだ。今更しゃしゃり出ても……。という、
そんな他者の目を気にしても良いこと無いのに、というサキの気持ちをビルドは察して余りある。否、解るわけがないのだ、彼は初心者、ビギナー、ルーキー。
新しい門出を邪魔するつもりはないが、何だか寂しい気持ちになる。
まるで、攻略本を持ってしまったプレイヤーみたいなウキウキ感の無さだ。
このビルドと言う少年は、初めから足をつまずき、転ばない方法を知っている。先人の知恵と叡智と教訓から学べるのだから……。
サキは更に考える。同じ道だとしても雲泥の差がある。彼に解るだろうか? 初めから地図もない未踏破の地を未知識のまま我武者羅に突っ走る愚かさと楽しさを。愚直に前に進む〝楽しみ〟を……。
「何をそんなため息をついてるんだ?」
ビルドがサキに聞く、本当にわからないのだ。いきなり先生臭くなる話をビルドにする。まるで過去の自分を観るようだ。
「私は〝ワンピースを知らない世代〟ビルドは〝ワンピースを知ってる世代〟ってことよ。宝箱の中身味は、開ける前が楽しい、謎々遊びは楽しいけれど、解けない謎は面白くない。そして解けたら一気につまらないものに成り下がる。熱が冷めるそういう話です」
頭の良いビルドは何となく解る、否、バカじゃないビルドには察しがつくという言い方のほうが正しい。
「つまるところ」
サキの深呼吸の間にビルドが答えをはじき出す。
「求めるものは眼の前にある? もしくは、自分の手で作らなきゃ欲しいものは手に入らない?」
まぁ、そういうことなのだ。サキに無くてビルドにあるもの。それは〈安全な道〉なのだろう。勿論、全部が全部安全な道じゃない。やり直す事だって出来るが、それにしてはサキは転びすぎたのだ……。
「私の道は、もう収集がつかないのよ……」
それは、距離や時間ではなく、技術的な問題だった。
「さて、私が最前線から離れた理由や挫折話はこの辺で良いでしょ? あんたの冒険をしなさいよ。私は私の船を自分で降りた。後悔や否定はない。ただ、タイミングが、いや、技術力が、無かっただけ。実力不足だったらコレでいいの」
ビルドがある程度サキの話を聞いたあと、ふとある考えが過ぎった。
「じゃあ俺の相棒をサキにするのはどうだ? デストロイはとりあえず保留で」
デストロイにとってはたまったものじゃないが、ヒメがベテラン経験者でサキが初心者。だったのを今度はサキがベテランでビルドが初心者の相棒漫才だったら。別に出来ないもない。という奴だ。デストロイには〈追放ルート〉を楽しんでもらおう。
「……、まぁ良いけど。ビルドの物語食わないように自重するわ」
「おう! これは俺の物語だ!」
ということで、さてどこ行こう。……という話になるわけだ。いつの間にかヒメは居なくなっていた、どうやらログアウトしたらしい。
「言っとくけど、私はもう始まりの街の闘技場で遊ぶの飽きちゃってるからね? 散策なら付き合わないよ?」
サキは面倒そうに言うが、ビルドはならと答える。
「
「……はぁ……まあいいけど。最前線となると、〈アシアー大陸〉じゃなくて〈リュビアー大陸〉になるわね。場所は〈第一休憩所〉の〈東の大門〉付近から? リスポーンして東の大門を
やる気は無さそうだが、心の底ではちょっとドキっとしたサキ。
「今もあそこを守ってるなら、〝何とか・ツー〟が守ってるし、〈第ニ断層山地〉が今の最前線、そこまで行けば……まあ私も楽しめるかな?」
誰も知らない未開の地は、やっぱり楽しいようだった。
「何だか楽しそうな顔になったな」
「別に。私の顔は〝ワンピースへの直線航路を知らんまま完走しちゃって後で知った風な顔〟よ……、あんま褒められる顔じゃないわ」
とか言い、サキはクスクスと笑う。
「よーし! そうと決まったらその〈リュビアー大陸〉の〈第一休憩所〉まで行こうぜ! パパッとな! 俺のビルドはその後だ!」
第三陣が偉そうに、とか思ったが第三陣なのか第四陣なのか怪しい……。まあ第零陣が非理法権天なら、第一陣は四重奏、第二陣は放課後クラブ、第三陣がスキルビルダーズ……。というのはあながち間違ってはいない。
「んじゃ行くよ、リュビアー大陸、第一休憩所へリスポーン!」
言って、サキは初心者ビルドを連れて、最前線へと飛んだ。
――飛んだ先は、建築とか慌てふためいている人が多かった。人も物資も防衛陣も足りてないらしい。新しい拠点を〝上へ〟運ぶために、手荷物とか何から何まで足りないのだ。猫の手も借りたいんだろう……猫の触手はどうだか知らんが……。
「てーわけで着いたよ、最前線。何やる? 言っておくけど、最前線のボス戦は無理だよ。どうやったってレベルが足りない」
この場合レベルとは、ステータス的な事ではない。技術的なレベルが足りないのだ。
このゲームは実は頑張ればレベル1でも攻略可能なのだ、だが色んな意味で難しい。何故ならこのゲームは技術を、テクニックを要求されるクエストが多い。
上手ければOK、下手ならNO、そういう世界だ。だからこそ、上級プレイヤーは技術を、スキルをこれ見よがしと披露しアピールする口がある。
「じゃあ、最前線の野生のモンスターで試し斬りしてみる!」
「したいんならすれば良い。あんまり死ぬんだり、時間かけるんじゃないよ~」
素朴にサキはあしらう、最前線で好きにしたいなら好きにすれば良い。
「お、あんな所にいい感じのナイトなスライムが!」
拠点のちょっと外側を観ると、騎士の格好をしてスライムに跨ってるナイトが居た。〈ナイトスライム〉かな? サキにとっては、PVP戦ばっかりで、モンスターとの戦闘なんて、久しくやっていない。
「んじゃ! 初心者ビルドくん、最前線のモンスターを初級レベルで倒して遊んでみなさいな! 私は見ていてあげるから」
言われたので「わかった!」とビルドは答える。
「さあて! 楽しい楽しい初戦闘の始まりだぜ!」
ビルドは雄々しく、雄叫びをあげた。
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