フィルム

@hr0827

フィルム

時に、私は心に留めておきたいその瞬間を

一枚のフィルムに刻みたくなる。


暗闇の街灯が包み込む金色の銀杏が

趣深く料亭の皿に華を与える。

街をゆく人の感情や寒さや

道端の蜘蛛の巣までも

写真の一切れによって

また、カメラを持つ手によって

切り取られる。

そこになんと言えばいいか、私の感情を抉り取るものがある。

一体これは冷たい銀杏の悪戯であろうか。


港町に薫る潮風によって

私は足を踏み出すことを止められない。

感情に揺られる漁船が

私に何か囁いている様な気がした。

気づけば、青と橙のグラデーションが或る日の終わりを告げている。

私は隣でソーダ水を嗜む彼女に

ついうっかり見惚れてしまっていたのだった。


この世は美しいもので満たされている。

何時までも私の記憶から消えぬように

今日も或る瞬間をフィルムに刻み込む。

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