第8話 エルフの魔法
ソフィアについてわかっているのは二つの耐性を持っているということ。
睡眠の耐性、そして風の耐性。
睡眠魔法は両手を合わせ、激痛で振り払えばいい。問題は風の方だ。現状、風魔法は籠手で弾くしかない。魔法の速度にトビの反射神経が追いつけるかがまず第一の関門だ。
ソフィアは手を前に出し、風の刃を発射させる。
「
迫りくる風の刃をトビは右手の籠手、その手のひらを前に出して弾く。
(大丈夫! 反応できるスピードだ!)
とにかくこれで一方的に嬲られる展開は無さそうだ。
「硬いですね」
「どうしても戦うしかないのか」
「残念ながら」
ソフィアは
トビとソフィアの距離はトビの歩幅で十五歩。トビは風の刃を弾きつつ前に出ようとするが、風の圧力で押し返されてしまう。
「埒が明かないな」
「同感です」
ソフィアは右手に魔力を溜め、風に変換させる。
「
さっきの風の刃より、刃渡りが倍ほどの風の刃が繰り出される。
トビは籠手で弾くも弾いた風の破片が肩や膝に被弾した。
「くっ……!?」
「その籠手は別に魔法を打ち消すわけじゃない。ただ弾いているだけ。ならば、弾ききれない魔法で攻撃すればいい」
トビは怯まず、すぐさま走り出した。
(最初からこの術を使わなかったのは溜めが長いから! 溜めが終わるまでに攻める!)
「
連発可能の風の斬撃を繰り出す。
トビはすぐに相手の狙いがわかった。
だからトビはまともさを捨てた。
風の刃を弾かず、避けず、右肩に受けた。
「はぁ!?」
トビは止まらない。肩から血が噴き出しても止まらない。
激痛耐性があるため、軽い痛みしかない。思いっきりつねられた程度の痛みしかない。だが、激痛がないとはいえ、肩から血が出ても平然と突き進むトビは異常であり、ソフィアがそんなトビの光のない目を見て怯えたのは仕方のないことだった。
ソフィアはまた二度、
「優しいね」
トビは言う。
「殺すとか言っておきながら、致命傷は避けてる」
トビのこの戦法は相手を信頼していなければできない。相手が自分を殺すような攻撃、首を斬ったりはしないと信じていなければできない。
「この……!」
距離は一歩。
異常だコイツ。狂ってる。そう思いつつソフィアは目の前の狂人を殺そうと首めがけて魔法を放とうとするが、魔法を放つ直前で、魔力の変換をストップさせた。
ソフィアはトビを殺すことを明確に躊躇った。
トビはソフィアが目を背けたのを見て、笑い、籠手を前に出した。
(この籠手で触れれば魔法は使えない! 掴めば勝てる!!)
トビの籠手がソフィアの首を掴む。
(よし、これで耐性は消え――)
「え……?」
この時、ソフィアも、そしてトビも予想外のことが起きる。
トビがソフィアの首に触れた瞬間、ソフィアはガクンと膝を崩し、瞼を下ろした。
「え!?」
トビは驚きながらもソフィアの体を抱きしめソフィアの転倒を防ぐ。
「ソフィア!?」
ソフィアの口から「すー、すー」と寝息が聞こえる。
体が完全に脱力し、口からは涎がだらしなく垂れていた。
「寝てる? どうして?」
ただ籠手で触れただけ。気絶するだけのダメージは間違いなく与えていない。
トビが驚いていると、
「ソフィアを放してもらおうか」
幼い女性の声が聞こえた……と思ったら、トビを囲むように大量の耳を尖った者たちが現れた。
全員が美形で、スマートな体型だ。いずれも金髪か銀髪で、若い男性と女性しかいない。
「エルフ!?」
エルフの群れである。
エルフ達は弓矢を構え、トビに向けている。
トビはソフィアを地面に置き、両手を挙げた。
「ふむ。おぬし、面白い力を持っておるのう」
群れの中から、ひときわ身長の小さい銀髪エルフが前に出てくる。
「ソフィアが眠るところなど十年ぶりに見たわ」
「君は……?」
「エルフの里の長、マロマロン。これでもお主の20倍は生きておる」
「マロ、マロン……」
トビはにやけそうになった頬に力を入れて踏ん張る。が、マロマロンはトビの頬の緩みを見逃さなかった。
「いま、おぬしワシの名を聞いて変な名だと思ったな?」
「え!? い、いや、そんなことは……」
「者ども。そやつを拘束しろ。手荒で構わん」
「嘘ぉ!? ちょっと待――!?」
トビはエルフに一斉に襲われ、拘束された。
――――――――――
【あとがき】
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