第5話 初クエスト

 スラムロックから出たトビは、王都の都街を散策していた。


(集会所……集会所……どこだろう)


 手元には手書きの地図がある。


「……モトさんに地図描いてもらったけど、全然違うな。そりゃそうか。モトさんがここに住んでたのなんて二十年も前だもんなぁ……」


 ウロウロと街をうろつくこと一時間。ようやうトビは目当ての場所に着いた。


「……ここか」


 酒場も兼ね備えていることから、かなり酒臭い集会所だ。

 トビは木の戸を手で押しのき、中に入る。昼間から酒を飲み、どんちゃん騒ぎする一団がいれば、真剣に掲示板を見る若い冒険者もいる。老若男女様々な人間がいた。


「君、ここはじめて?」


 受付のカウンターから垂れ目の受付嬢がトビに尋ねる。


「はい。とにかくなんでもいいので仕事が欲しいんですけど」

「冒険者登録はしてる?」

「えっと、してないです」

「そ。ではあちらをご覧ください」


 受付嬢は人差し指でトビの視線を誘導する。

 指の先には三つの掲示板があった。


「一番左、緑の掲示板はウチのギルド専用の掲示板ね」

(ギルド……確か同じ志の人間が集まってできる相互扶助そうごふじょの団体、だったかな)

「中央の青い掲示板は冒険者登録している人限定の掲示板ね。それで右の白いやつが誰でも受注できる野良掲示板よ」

「じゃあ僕は右の掲示板に貼りついている依頼なら受けられるわけですね」

「そうよ。受注の手順は掲示板からクエストシートを剥がして、私のところへ持ってくる。そんで署名と血判をして完了よ」

「はい。了解です」


 トビは早速、野良掲示板の前に足を運んだ。


(できれば報酬が高めのやつがいい。それでいて専門知識がいらないやつ)


 野良掲示板だけあって、渋い報酬のモノが多い。

 高くても1000マカだ。これでは一日の食費で消えてしまう。そんな中、


「あ、これ高いな……」



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 クエスト名:眠り姫を討伐せよ

 クエスト受注期限:春花しゅんかの月・八日

 クエスト受注可能人数:無制限

 クエスト内容:ルフの森という森に入った者が突然眠ってしまう事件が多発している。恐らく魔法の類だ。多くの旅人、冒険者が眠らされ、森の近くにある大木に括りつけられた。ある旅人によると眠る直前、若い女の姿を見たらしい。他にも眠る直前に女性らしき姿を見たという目撃情報が多くある。多分、こいつがこの事件の黒幕、眠り姫だ。明日の朝に集団による調査を行う。勇気ある者、志願を集う。

 クエスト成功条件:眠り姫の撃退or討伐

 クエスト報酬:100000マカ


 ■■■■■■■■■■■■■■■■


 トビは迷いなく、そのクエストシートに手を伸ばす。すると、


「「あ」」


 同い年ぐらいの女子と手をぶつけ合ってしまった。


「君もこの依頼を?」


 トビが聞くと、女子は頷く。


「はい」

「じゃあ一緒に登録しに行こうか」

「そうですね」


 トビは改めて女子の顔を見る。

 髪の表面は煌びやかな銀、インナーカラーが海のような青色で、長さはショートボブ。どちらも自然な色で、毛染めしている感じではない。瞳の色は水色。耳には羊の毛のようなモコモコの耳当てをしている。


 スラムロックには同い年の女子はおろか、女性がいなかった(囚人同士で子を作らないようにするため)。トビは生まれて初めて見る同年代の女子相手に、好奇心に似た感情を抱いていた。


(お、女の子だ……僕と同じぐらいの女の子。きょ、距離感がわからないな……)


 しかも相手はかなりの美少女だ。生まれて初めて話す同年代女子としてはかなりハードルが高い。

 トビは決してよこしままな感情は抱いていない。ただ純粋に、目の前の女の子と友達になってみたかった。同年代の異性の友達が欲しかった。もっと言えば同性同年代の友達も欲しい。スラムの人間は皆大人で、最低でも自分より十歳以上は上の人間しかいなかったため、自分と歳の近い人間が珍しいのだ。

 しかし、特になにも仲が進展することはなく。

 手続きは滞りなく終わり、二人は集会所を出た。


「では、これで」

「ああ、うん……」


 女子は軽く頭を下げて歩いていく。トビは何とか勇気を振り絞り、


「あ、あの! ごはん、一緒に食べませんか?」


 女子はキッパリと、


「嫌です」


 トビの女子とのファーストコンタクトはこうして幕を閉じた。





 ――――――――――

【あとがき】

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