第19話 決着
「パルミラ!」
飛ばされるパルミラに追撃のブレスを浴びせようとしていたヒュミリスの前に、俺は素早く割り込み盾を構える。炎は防げているけれど、魔力の消耗が激しい。
後ろを振り返ると、飛ばされたパルミラが体勢を立て直しているところだった。もう炎を受けなくても大丈夫か。俺は横に飛び、炎の中から脱するとヒュミリスに斬りかかる。
ヒュミリスは器用に巨体を捻り、俺の攻撃を躱した。そして俺から距離を取る。ダメージを与えられなかったとはいえ、パルミラへの攻撃は防げたのだから良しとしよう。
「プルケラ! お前は向こうの赤い奴を頼む。青いのと銀色のは私が引き受ける」
「分かったわ!」
プルケラがパルミラの方へ飛んでいく。ヒュミリスは俺に向けて炎を吐く。俺はそれを躱して、ヒュミリスの側面に回り込む。
俺が攻撃するより先に、クラウスがヒュミリスを撃った。だが、やはりヒュミリスにダメージはなさそうだ。いや、全くのゼロではない。一瞬、苦痛に顔を歪めていたように思う。だったら。
「パルミラを援護しろ」
クラウスに信号を送る。銃のダメージがゼロでないのなら、それはプルケラの方にこそ有効だろう。さっきヒュミリスが心配ないと言っていたから、プルケラは銃のダメージを過小評価しているはずだ。
後は、ヒュミリスはプルケラを大切にしているようだ。だからプルケラが劣勢になれば、必ず庇おうとするだろう。そこに隙が生まれるはずだ。
俺はもう一度ヒュミリスに斬りかかる。ヒュミリスの意識をとにかく俺に集中させることだ。その隙に、クラウスにはプルケラの方に行ってもらうんだ。
ヒュミリスが大きくしっぽを振るう。先ほどパルミラを吹っ飛ばした攻撃だ。俺は後ろに飛んで躱そうとしたけれど、躱しきれなかった。強い衝撃が走り、機体が弾き飛ばされた。そこへ炎のブレスが来る。盾を構えて凌ぐ。
何とか機体の制御を取り戻し、炎を避け、ヒュミリスの横に回り込む。だが俺の攻撃は、ヒュミリスを掠めはしたものの、捉えることはことは出来なかった。
あの巨体でよくもこれだけ動けるものだ。攻撃を繰り返すものの、有効打は与えられない。もう飛行用燃料も、魔力も三分の一を切った。
「ああっ!」
焦りを感じ始めた俺の耳に、そんな悲鳴が飛び込んできた。クラウスの放った光弾が、プルケラの胸を焦がしていた。
予想外の痛みに取り乱すプルケラに、パルミラが襲い掛かる。ブレードを防ごうとした腕を斬り落とし、留めの一撃とばかりにもう一本のブレードを振り上げる。
「プルケラ⁉」
妻の窮地に、ヒュミリスが目に見えて動揺した、雑にしっぽを振り俺を遠ざけると、プルケラの方に全速力で向かおうとする。でも、そうはさせない。俺も全速力で追い上げ、妻を気遣うあまり周りの見えなくなったヒュミリスに剣を振り下ろす。
「ぐあっ!」
ざっくりと翼から背中にかけて切り裂いた。血が吹き上げる。だがヒュミリスが止まることはなかった。プルケラを目指して一直線に飛んでいく。
「ああ……ヒュミリス……ごめんなさい」
そのプルケラの胸に、パルミラがブレードを突き立てた。プルケラの体が、力を失い落ちていく。
「よくも……よくもプルケラを!」
ヒュミリスがあり得ない速さでパルミラに迫る。クラウスが止めようと銃を撃つ。当たったものの、ヒュミリスは止まらなかった。俺も全力で追うけれど、追いつけない。
ヒュミリスが飛ぶ勢いを乗せパルミラに爪を叩きつける。パルミラは躱そうとするが、躱しきれなかった。制御を失い飛ばされていく。胸部の装甲がざっくりと裂けている。パルミラを助けようとクラウスが追った。その二人に向け炎を吐こうとするヒュミリスの前に、俺は何とか滑り込む。
ヒュミリスの炎が俺に迫る。俺は盾でそれを防ぎつつ前進する。ヒュミリスだって、もう限界のはずだ。ここで倒しきる。
俺はヒュミリスに剣を突き立てる。炎が止んだ。ゆっくりと剣を引き抜く。力を失ったヒュミリスの巨体が、ゆっくりと地面に引き付けられていく。まもなく、大地を揺るがすような轟音と、土ぼこりをまき散らして、ヒュミリスが大地に堕ちた。側にはプルケラも横たわっていた。
二匹の竜の周りには大きな窪みができていた。その窪みの側に、俺は降りた。コックピットのハッチを開け、二匹を眺める。ぴくぴくと痙攣していたが、やがてそれも止まった。少ししてクラウスがパルミラを助けながら降りてきた。
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