第18話 開戦

 まもなくヤラ高原だ、という信号がパルミラから送られてきた。

 高原は青々とした草地が広がっており、眼下には湖が、見上げれば山塊が見えた。なるほど景観のいい場所だった。思い出の場所というのも分かる気がした。

 緑の草原の上に、大きな赤い塊が見えた。先頭のパルミラ機が俺たちを振り返る。


「いたぞ、ヒュミリスとプルケラだ」

「ああ。気付かれずに近づければいいのだが、そうもいかないだろうな。銃の届く距離まで行ったら、まずは私が撃つ。そうしたら二人は攻撃を開始してくれ」


 クラウスが言った。


「パルミラ、お前は機動力を活かして死角から回り込め。俺があいつらの気を引くから」

「分かった」


 中央が俺、左にクラウス、右にパルミラ、という形でヒュミリスたちに近づく。まだ気づかれてはいない。もうすぐ銃の射程距離だ。クラウスが銃を構える。パルミラが回り込むように飛ぶ。

 何か嫌な視線を感じた。向こうも気づいたらしい。そこへヒュン、と光弾が襲い掛かる。真っ赤な液体が飛び散った。だけど……血ではない。ヒュミリス達はふわりと空に逃れている。酒盛り用に持ってきたワインか何かだろうか。


「ヒュミリス! 一体何? こいつらは何なの?」


 ヒュミリスの隣にいた、ヒュミリスよりは一回り小さいがやはりでっぷりとした朱色の竜が金切声を上げる。腕にはごてごてと宝石のたくさんついた金の腕輪をしている。こいつがヒュミリスの妻、プルケラだろう。


「人間共の『魔導機械』だろう。『魔導鎧』を私たちを倒すために大型化し、空まで飛べるようにしたもの、というところか?」


 ヒュミリスがこちらを警戒しながらも余裕たっぷりに分析してみせた。


「そうだ! お前たちを倒し、トライアンフを取り戻すために作った魔導機兵だ! ヒュミリス! お前の支配も終わりだ! 覚悟しろ!」


 クラウスがそう叫び、さらに射撃を続ける。一発は逸れ、もう一発はヒュミリスの脇に当たった。


「ヒュミリス⁉」

「心配するなプルケラ。私の鱗を貫けるものではない。所詮は人間の作ったものさ」


 慌てるプルケラに、ヒュミリスが落ち着いた調子で安心させるように答えた。当たった部分の鱗が焦げたようになってはいたけれど、貫くことは出来なかったようだ。

 銃ではダメージを与えられない、か。なら、出力の高いブレードで直接斬るしかない。


「ふふ……私たちと同じ大きさになれば勝てると思ったのかしらね。愚かなこと! でも……結婚記念日の良い余興だわ。馬鹿な人間共に思い知らせてあげましょうよ」


 プルケラが嗜虐的に笑った。


「勝てると思っているから来たんだよ!」


 俺は盾を構え、真っ直ぐヒュミリスとプルケラに突っ込む。こいつらの気を引き、パルミラの攻撃を成功させるんだ。

 プルケラが炎を吐く。俺は宙を蹴るようにして横に飛んで炎を躱す。空中での魔導機兵の操作も出来ているな。

 と、一安心したところへヒュミリスが炎を吹きかけてきた。俺は盾で防ぎつつ、炎から抜け出す。


「ちょこまかと、鬱陶しいわね!」


 プルケラが苛立った様子で更に炎を吐きかける。そんなプルケラに、パルミラが近づく。


「プルケラ!」


 ヒュミリスがプルケラを庇うように突き飛ばす。ヒュミリスの腕を、パルミラのブレードが掠めていった。


「ぐぅっ……!」


 ヒュミリスの腕から血が流れた。ブレードならば、鱗も通るようだ。


「おのれ、人間風情が!」


 ヒュミリスがぶん、としっぽを振る。追撃しようとしていたパルミラの機体が、思い切り吹っ飛ばされた。

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