第16話 魔導機兵のレクチャー

「それでは、これから機体について説明しよう」


 クラウスがそう言って、壁際の棚から分厚いファイルを引っ張り出し、机の上に置いた。


「ユアン、お前の乗る試作機は新しく作られた二機よりも大きく、重い。その分魔力パネルの面積も広いが、動作させるための魔力も大きくなるから、結局運動性能としては他の二機より劣る。常時魔力は生成されるが、戦闘では生成する以上に魔力を消費するから、バッテリーからも供給することになる。残量には気をつけろ」

「ああ」

「装備はシールドとブレードだ。仕様は、と……」


 クラウスがパラパラとファイルのページをめくり、装備のことが書いてある部分を俺に見せた。

 これらは単純に、通常俺たちが使っているものをそのまま大きく、強く、竜の攻撃を防ぎ彼らを斬れるようにしたもののようだ。


「装甲はヒュミリスの火炎ブレスに長くは耐えられないから、出来る限り躱すかシールドで受けろ」


 シールドの出力は、この間受けたヒュミリスのブレスから考えると心もとなかった。あのときのが本気でなかっただろうことを考えれば、もう少し余裕を持たせておいた方がいい。


「クラウス、シールドの最大出力を二割ほど上げられないか?」


 クラウスが研究員たちの方を振り返る。


「分かりました。出撃までに調整しておきます」

「ありがとうございます」


 俺は彼らの素早い対応に頭を下げる。明日出撃だというのに、やってくれるというのは心強かった。


「飛行には専用の魔石燃料を使う。無くなれば飛べない。魔力以外にそちらの残量にも注意してくれ。燃料計はコックピットの左側だ」


 クラウスが、コックピットの図面上で位置を指した。


「ヒュミリスが結婚記念日を過ごすというヤラ高原まで移動するのに、三分の一程度燃料を消費する。ヒュミリスを倒しさえすれば帰りのことは考えなくていい。戦闘後に魔石燃料の補充は別途行う予定だ。ただ戦闘で複雑な動きをすれば、一定速度で飛び続けるよりずっと燃料の消耗は早い」


 何をするとどのくらい減るのか分からないが、とにかく飛行用魔石燃料の残量には気を使わなければならないということか。


「他の二機についても話しておかないとな」

「私の機体は、私の操作能力を活かした高機動型だ。その分防御は捨てている。武器はブレード二本でシールドは装備していないから、万一回避できないようなことがあればお前が守ってくれよ」


 パルミラが最後は冗談めかしてそう言って、上目遣いに俺を見た。


「ああ」

「私のは後方支援型だ。武器は銃。私はパルミラほど魔導機械の操作は上手くないからな。銃での援護が主だ。盾も装備しているから、防御面は気にしなくていい」

「本当は兄上には、安全なところにいてほしいのだがな」

「そうはいかない。ヒュミリスを倒したいのは、私も同じなのだから」


 心配そうにクラウスを見上げるパルミラに、クラウスが断固として首を振った。


「そこからすると俺の機体はバランス型……どちらかと言えば防御寄りか。前線で、攻撃を防ぐのが役目だな」


 俺はただの兵士で、二人は王族だ。どちらが重要かなんて、言うまでもない。ヒュミリスを倒した後のトライアンフに、二人は必要な人物なんだ。俺が二人を守らなければ。


「説明はこんなところだ。何か質問は? ……なければ、今日のところは明日に備えて休め」


 クラウスの言葉に、パルミラと俺は頷き、俺たちは館に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る