第15話 竜殺しは結婚記念日に
「上手く行ったようだな」
戻ってきたクラウスが縛り上げられた男たちを見て、安堵の笑みを漏らす。
「兄上! そちらはどうだったんだ?」
「使者も捕らえさせてもらったよ。嗅ぎまわられては都合が悪いからな。こいつらは、地下に閉じ込めておこう」
クラウスは平然と答えた。武装したこいつらはともかく、使者まで問答無用で捕らえて良いものかとも思うけれど、そんな事を気にしている場合でない。
俺とパルミラで男達を館の地下まで運んだ。魔導鎧のアシストがあれば、そう大変なことではない。
片付けを終えて、俺たちは一旦研究所で打ち合わせをすることになった。
「兄上、すまない。彼らが来たのは私たちがここに来たからだろう?」
「安心しろパルミラ。お前のせいじゃない」
申し訳なさそうに俯くパルミラの頭を、クラウスが優しく撫でた。
「私も魔導機兵の材料調達に大分無理をしたからな。奴らはそれを嗅ぎつけて、調べに来たんだ。私が謀反を企んでいるんじゃないかと」
秘密裡にこれだけのものを作るなんて、資金面や材料の買い付けでかなり無理がでるだろうからな。その辺りで不審に思われたということか。
「ヒュミリスに我々の計画が疑われているのか?」
パルミラが心配そうにクラウスを見上げる。
「ヒュミリスじゃない。父上や兄上だ。彼らは私が王位を奪おうとしていると思っているのさ」
クラウスが肩を竦めた。
実際のところ、そこはどうなのだろう? 支配者であるヒュミリスたちを倒したとしたら、その後は? 今の王が名実ともにトライアンフの王となるのだろうか。それとも、竜を倒した英雄のクラウスが? まあ、そんな事は俺が考えても仕方無い。俺のやることは、竜を倒す事だけだ。そちらに集中しよう。
「ところで、王都からの使者だか調査団だかが帰らなければ、問題になるのじゃないか?」
俺が尋ねると、クラウスは大きく頷いた。
「ああ。だからすぐに決着をつける」
「当初の計画通りに、ヒュミリス討伐を決行するということか?」
パルミラが緊張した面持ちで尋ねた。
「ああ。お前も帰ってきたことだしな。心強い味方も出来た。どうだユアン? 飛行ユニットは扱えそうか?」
「とりあえず、魔導鎧版は何とか動きを掴んだよ」
さっきの戦いで大分掴めたと思う。パルミラの動きが見られたのも大きいな。
「ところで、当初の計画というのは?」
「元々、明日のヒュミリスの結婚記念日を狙う計画だったんだ。その日なら、ヒュミリスと妻のプルケラは『思い出の場所』へ行くために城を出るからな。パルミラが行方不明になったことで実行不可能になるところだったのだが」
クラウスが答えた。パルミラが急いでトライアンフに帰りたがっていたのは、そんな計画があったからなのか。
「結婚記念日には、酒もいつにも増して飲む。浮かれているだろうし、襲うには丁度良いんだ」
パルミラが付け足した。ヒュミリスの結婚記念日か。そういえば賭け試合のときに結婚記念日がどうとか言っていたな。竜もそんなものを気にするんだな、と思ったが、思い出の場所に行くなんてことまでするとは。
「ユアン、お前には急で申し訳ないが、何とかやってくれ」
「分かった」
やるしかない、と俺は頷く。
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