第13話 魔導機兵

「研究所へ出かける。何かあれば知らせてくれ」


翌朝、皆で朝食を取った後、クラウスは部屋の外にいた侍従らしき初老の男にそう声を掛けると、城の外に出て、庭園の中を進んでいった。パルミラと俺は後を追う。

まもなくレンガ造りの、それ程大きくない二階建ての建物が見えてきた。建物の屋根や周りには魔力パネルが設置されている。ここで魔導機兵とやらの研究開発を行っているということだろうか。


「クラウス様! それに……パルミラ様⁉」


建物の中に入ると、俺たちの姿を見た水色の作業着を着た男女が集まってきた。


「パルミラ様! ご無事で!」

「良かったです! これで希望が繋がりました!」


皆口々にパルミラの無事を喜んでいた。


「ああ、無事に戻って来られた。あ、そうだ。これ、フォステリアナの土産だ。皆で食べてくれ」

「ありがとうございます! 聖竜まんじゅう……? こんなもん作ってるんすか? フォステリアナって平和っすね」


土産を渡された、一番年かさの、無精ひげを生やした研究員は戸惑った顔をしていた。言われてみれば、フォステリアナは平和なのかもしれない。


「ところで、そちらの方は……?」


聖竜まんじゅうを開封しながら、研究員が尋ねてきた。


「ユアンだ。私のおっ――」

「新しいパイロット候補だ。試作機に乗せようと思っている」


パルミラが言い切る前に、クラウスがきっぱりと言った。パルミラは邪魔されて、ぷうと頬を膨らませていた。こいつは多分、俺を夫だと言うことで皆が慌てる姿を見たいんだろうな。子供じみている。全く、困った奴だ。


「パイロット候補ですって?」

「ああ。パルミラが言うには、魔導機械の扱いに長けているらしい。彼はパルミラに勝ったそうだ」

「パルミラ様に⁉」


信じられない、と言った顔で、皆が俺を見た。「嘘だろ……」と呟く声が聞こえる。実際パルミラは強かったし、ヒュミリスの態度からしてもトライアンフで敵はいなかったのだろう。他国の兵相手でも勝ち続けていたのかもしれない。


「ああ、そうだ。ユアンは強いぞ。とはいえ、魔導機兵はまた別だろうからな。これから適性を見るんだ」


パルミラが答えた。適性、か。ここまで来て動かせません、では困るが、大丈夫だろうか。いや、何とかするんだ。



クラウスの案内で、研究所内の隠し扉から地下に降りる。天井の高い、広い無機質な空間が広がっていた。あたりを見回すと、右側の壁際に竜と同じくらいの背の高さの、大きな鎧のようなものが三体並んでいた。


「これが……魔導機兵……?」

「そうだ。竜と戦うための大型魔導機械……兵器だな。これに搭乗し、内側から操り竜と戦うんだ。主に兄上が設計したんだぞ」


パルミラが得意気に胸を張った。こんなものを作り上げるなんて、凄いとしか言いようがない。


「飛行機能を含む、竜と戦えるだけの運動性能を持ち、竜を貫ける武器を装備可能な機体だ。装備の詳細は後で話す。まずはこれを操作できるようになってもらう。ユアン、ついて来い」


クラウスが魔導機兵の方へ歩いていく。だが、魔導機兵のところへは行かず、その近くにある扉を開け、その先の小部屋に入った。

小部屋に備え付けられたロッカーから、魔導鎧のインナーのような、ぴったりとしたスーツを引っ張り出した。


「まずはこれに着替えろ」

「分かった」


クラウスは俺にスーツを手渡すと出て行った。俺は言われた通りにそれに着替え、外に出る。


「では、早速魔導機兵に乗ってもらおう」


クラウスが向かって右に置かれた、銀色の魔導機兵の横のタラップを上っていく。俺も後に続いた。魔導機兵の頭にあたる部分にハッチがついていて、中に操縦席らしきものが見える。


「そこに座れ。そしてコードをスーツに繋ぐんだ。そこから制御用の魔力を流せば、魔導鎧で筋力アシストを受けるのと同じ要領で魔導機兵を動かせる。飛行機能については今は試せないから、後で別途説明する。どれだけ魔力を注げばどれだけ動くかは体で覚えてくれ。ああ、今は出力を制限しているから、ここを壊すようなことはまずない。安心していい」


クラウスはそう言うと、俺に操縦席までの道を譲った。俺は言われた通り操縦席に座り、コードを繋いでいく。魔導鎧と同じ要領か。制御用の僅かな魔力を送り込めば、それに呼応してバッテリーから大きな魔力が流れ、アクチュエータを作動させる。魔導鎧の場合は筋力のアシストだけど、魔導機兵の場合は魔導機兵自体の動作ってことになるのか。


「準備が整ったら、光で合図を送る。それまでは待機していてくれ。こちらへの合図も光で行う。肩にライトがついているんだ。操作はその、手元のスイッチだ。声は近くなら聞こえるだろうが、離れてしまえば聞こえないからな。ディアンマ・コードは分かるな?」

「ああ」


クラウスがタラップを降りていく。タラップが外された。少しして、チカチカと光の合図があった。右手を上げろ、か。俺はゆっくりと右手に魔力を送る。それに呼応するように、ゆっくりと魔導機兵の右手が上がっていくのが見えた。動いた! しかし魔導鎧の場合は自分が動くから、魔力を込めるのも意識しやすいのだけれど、これは自分は座ったままだからな。少し難しい。

右手を下ろせ、左手を上げろ、などの指示が次々に送られてくる。俺は指示通りに魔力を送り、魔導機兵を動かす。腕の感覚は大体掴めたと思う。

次は右足を上げろ、と指示が来た。足の方も問題はない。続いて、前進しろ、か。左手と右足を前に振り上げ、右足を下ろす。今度は同様に右手と左足を動かす。そうやって二歩進んだところで、後退の指示が来た。少し戸惑ったが、これも何とかなった。暫く自由に歩け、か。俺はぐるりと部屋の中を回る。歩く場合の魔力の流し方も大体掴めた。前進、後退に関する一連の動作を纏めて魔力操作できるようにしておいた方が良さそうだな。やってみよう。俺は部屋をもう一周してみる。うん、さっきより楽に動かせる。前進、後退、というのを意識するだけでそれらの動作ができるようになったところで、元の位置に戻れ、と指示が来た。俺は言われた通りにする。

またタラップが取り付けられた。俺はハッチを開け、魔導機兵を降りる。

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