第11話 パルミラの正体
途中休憩を挟みながら暫く走り、日が落ちかけた頃、大きな街の城壁が見えてきた。
「あれがマルカントか?」
「ああ。お前、ちゃんとマルカントに向かってくれたんだな。良かったよ、余計な手間が掛からなくて」
パルミラが御者の肩をパシパシと叩き、笑いかける。御者はちょっと振り向いて、ヒィ、と情けない声を上げ、引きつった笑みを浮かべた。
馬車は門を抜け、マルカント市内に入って行く。しばらく大通りを進んだ先の広場で、御者が馬車を止めた。
「ここでいいですかい?」
「ああ、いいぞ。ご苦労だった」
そう言ってパルミラは御者を解放した。良いのかな、とも思うが、まあこんな奴にかかずらっていても仕方ないということだろう。
パルミラは勝手知ったる、という様子で大通りをずんずんと進んでいった。往来にはこれから家に帰るのであろう人が多かったけれど、皆どこか表情が暗い。仕事終わりで疲れている以上に、何となく全体に荒んだ感じがした。
大きな広場の向こうに、立派な門が見える。パルミラは広場を抜け、その門の方へと突き進む。門の向こうには、美しく整えられた庭園、その先には立派な館が見える。
「ちょっと待てパルミラ。ここは入っちゃいけない場所じゃないのか?」
「大丈夫だ。ここが目的地だからな」
ここが目的地? 領主の館に見えるんだが。
「パルミラ様⁉ まさか……なぜここに⁉ ご無事だったのですか?」
門番がパルミラの姿を見ると驚いた顔で言った。
「ああ、無事だ。心配を掛けたな」
パルミラは彼を安心させるように笑顔で答えた。
「パルミラ……様?」
門番のパルミラに対する恭しい態度に、俺は訳が分からなくなる。ここは領主の城で、俺たちの目的はパルミラの兄に会うことで、パルミラはパルミラ様と呼ばれている。ということは……パルミラは領主の妹?
「えっと……お前、もしかして、偉い人なのか?」
「まあ、トライアンフ王家の出だな」
パルミラは少し困った顔でそう答えた。
「それは……そうとは知らず御無礼の数々、お許し下さい」
俺は慌てて頭を下げる。どうしよう、王女だなんて思わなかったんだ。
「おいおい、やめてくれよ。王家と言ったって、結局は竜の奴隷頭に過ぎないし、私自身はお前と同じで、竜のために戦うただの闘士だ。竜が一言言えば、ひょいと他国に渡される程度の存在なんだから」
パルミラが慌てた様子で、頭を下げる俺を覗き込み、頭を上げるように促した。
「ですが、なぜ王女様がそんな事を?」
「王女と言っても、私は先の戦争の責を負って廃された王の娘でな。今は新しい王の養女だ。王女として振る舞うには微妙な立場なんだよ。私には魔導機械を操る才があったから、闘士としてヒュミリスに仕える道を選んだんだ。そうすれば、機会もあると思ったから」
「そうでしたか。すみません、変なことを聞いて」
「そんな事はいい。それより今まで通りにしてくれないか? さっき言った通りでお前とそう変わらないんだから。それに、お前は私の夫だろう?」
パルミラがいたずらっぽく笑った。
「ええと、パルミラ様、失礼ですがそちらの方は……?」
「ユアン、私の夫だ。紹介したいから、兄上に会いに来たんだ。兄上のところに通してくれるか?」
「え……? あ、は、はい。では、こちらへどうぞ」
門番は何が何だか分からない、と言った顔だったが、ともかく俺たちを中へ案内してくれた。
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